ロシアが岸田首相をはじめとする63人の入国禁止を発表しました。リストは閣僚、国会議員、研究者、識者など広範囲に及びます。ロシアは同様の入国禁止令をバイデン、ジョンソン、トルドー各氏ほか、民間人も含め入国禁止を発しており、ある程度予想されたことだとは思いますが、リストを見て「なぜ、自分が?」と思っている方もいらっしゃるでしょう。ロシア研究の第一人者である中村逸郎氏はテレビ出演を通じて専門知識を広く一般に披露したこともロシアからすれば「余計なこと」に映ったということでしょう。
ただ、リストに安倍晋三氏の名前がないので将来、日本が将来、ロシアと何らかの交渉をする事態が生じるならば安倍氏を特命全権大使にすることが物理的には可能で、ここはプーチン氏の計らいだった可能性もあります。しかし、日本側の現政権はそれを良しとはしないでしょう。今の政権に聞けば安倍氏の特命大使はあり得ない、とみるのではないでしょうか?ちなみにこの63人の入国禁止のニュースで安倍氏の名前がないと報じたところは割と少なかったと思います。
日ロ外交の歴史をさかのぼればその主軸は領土問題が主体でありました。ロシアが日本の歴史に現れるのは1700年代で日本は徳川幕府の下、鎖国をしていた時代に当たります。日露戦争の約100年前である1806年にロシアが日本に開港を迫るものの幕府は拒絶、その後、北海道や樺太、択捉島などでロシアと多くのトラブルが発生しています。
1858年に日露修好通商条約が結ばれ、この時点で北方領土4島に国境を策定、樺太については1875年の明治時代までもつれ、その時点で樺太を放棄し、千島列島全島を日本のものとする樺太千島交換条約が結ばれています。これがサンフランシスコ講和条約までの話です。つまりほとんどが領土の問題であり、ロシアもシベリアや東部ロシアには手が回らなかったこともあり、それ以上でもそれ以下でもなかったというのが歴史です。
ソビエト時代以降は皆さま、よくご存じの通りなので省きますが、基本的にはロシアは不凍港を求めた南下政策が主軸、その後は不毛のシベリア開発が主眼ということでしょうか?
では現在は、と言えば貿易ベースでは日本の対ロシア輸出が概ね年間6-7000億円程度、うち自動車とその関連部品が5割を超え、あとは産業用機械が主軸です。輸入は1兆円規模で石炭、ガス、石油、非鉄金属、魚類で9割を占めます。直接投資もせいぜい年間500億円程度で規模としては小さいと言えます。
経済的結びつきが比較的薄いのは東部ロシアにおいて水産と資源以外、めぼしい産業がないこと、ロシアの経済規模が一人当たりGDPで見れば12000㌦程度と中国と同程度で世界では60番台と中位にとどまっていること、プーチン政権下で一時の勢いをなくした経済成長率は今後も回復がさほど期待できないことなど特段、日本にとってロシアがうまみのある国ではないのです。
それでも安倍氏はなぜ、プーチンと27回も会談をしたのでしょうか?単に北方領土問題の解決を目指したものだったというより安倍氏が地球外交を前提に地政学的な見地から関係を維持した、というのが一般的な見方ではないでしょうか?会談の主導も外務省ではなく、内閣府と警察でした。つまり安倍氏の「手柄外交」だといってもよかったと思います。上述したように安倍氏がロシア入国禁止リストにないとしても現政権、特に主導権を取り戻した外務省は対ロシアという点では安倍氏に良い顔をしないでしょう。
さて、岸田政権はロシアにとって敵となり、それが明白な姿勢として表現されましたので必要最低限な事項以外、外交関係は極めて淡泊にならざるを得ません。少なくともプーチン氏がトップに座る限り、首脳外交は当面期待できないとみています。日本も失うものは限定的でせいぜい、先日、トピックスにあげたサハリン開発の問題に留まるでしょう。日本のロシア進出企業は損失計上をする可能性があるかもしれません。
では外交全体としてロシアを敵に回すのは得手でしょうか?これも先日、書いたように日本を取り巻く隣国については「冷たい関係国」がずらっと並びます。その点ではロシアはバッファー的な存在で積極的に敵にしたくはなかったのが今回の戦争前の話です。ロシアと親交のある笹川財団のレポートもそのような感じです。今回、明白に「敵」になったのでバランス外交的には韓国を取り込んでおいた方がよいかもしれません。台湾は日本と友好的ですが、現時点では国ではないので弱いのです。
また個人的には日本と中国が少し緩和する気がします。バイデン政権も中国との融和策を水面下で探っているようで、やはり、敵ばかりを作れないというスタンスなのでしょう。一方、ロシアからすれば中国と仲良くする、ダメならインドがある、という発想だと思います。ただ、両国とも小難しい国で、一義的な関係樹立は難しく、将来ロシアを袖にする可能性すらあるのでロシアのアジア戦略上、日本と再度友好関係を結びたいと言う気もします。もちろん、プーチン氏の時代ではないとは思いますが。
日本とロシアの関係が再度、盛り返すのは私が生きているうちには起きないかもしれません。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年5月6日の記事より転載させていただきました。