LGBTQと「ゴット+」運動

ローマ教皇フランシスコは米国教会イエズス会のジェームズ・マーチン氏が5月5日、教皇宛てに送った書簡に答えている。マーチン氏は米教会の性的少数派(LGBTQ)の指導を担当する聖職者だ。

同氏は米教会内の性的少数派の信者たちが日ごろ疑問に思っている3つの質問を教皇に提示した。フランシスコ教皇はそれらの3つの質問に簡潔に答えている。

ミケランジェロの「アダムの創造」(バチカンのシスティーナ礼拝堂の天井画から)

①性的少数派が神を知る上で何が最も重要なことか。

教皇「神は父親であり、自身の子供を差別し、突き放すことはない。神のスタイルは常にその子供の傍にいて、慈愛と優しさで接することだ。この道を歩むことであなた方は神を見出すだろう」

②教会について性的少数派に何を知ってもらいたいか。

教皇「私はあなた方に『使徒行伝』を読んでほしい。そこに生きた教会の姿を見出すことが出来るからだ」

③教会で冷たく扱われた経験をもつ性的少数派の信者にあなたは何をいいたいか。

教皇「教会は拒否しない。教会内の人間が拒否したと受け取るべきだ。教会は母親であり、全ての子供たちに仲良くするように呼びかけている。たとえば、ごちそうに招待された人々のたとえ話を思いだしてほしい。そこでは義人と罪人、金持ちと貧乏人などの区別はない。人々を区別するのは聖なる母親の教会ではない」

以上、3つの質問に対するフランシスコ教皇の答えだ。バチカンニュース独語版が5月9日報じた。

教皇の答えを読んで納得した性的少数派がいるかもしれないし、そうではないかもしれない。フランシスコ教皇は昨年も米国教会の性的少数派信者に同じように答えているが、今回「『使徒行伝』を読めば生きた教会の姿が分かる」と答えた点は新鮮だ。フランシスコ教皇は初期キリスト教会の福音伝道の熱気を取り戻したいと願っているのだろう。

カトリック教会は過去も現在も同性婚を拒否

さて、バチカン教理省は昨年3月、同性婚問題について、「同性婚には神の祝福を与えることはできない」と表明した。

それに先立ち、フランシスコ教皇は2020年10月、「同性婚も異性婚に準じた権利を受けるべきだ」と語り、教会内外で波紋を呼んだが、バチカン教理省は、「教会は同性愛に基づく婚姻に対し、神の祝福を与える権限を有していない。同性愛者のカップルに対し、神父はその婚姻に如何なる宗教的な認知も与えることは禁止される」と、誤解のないようにはっきりと説明した。

カトリック教会は過去も現在も同性婚を拒否してきた。新しい点は同性婚問題で曖昧な態度を取ってきたフランシスコ教皇が、「同性婚は神の計画ではない」とはっきりと答えたことだ。南米出身のローマ教皇に期待してきたリベラルな聖職者、神学者、信者たちはバチカン教理省の声明に失望したといわれる。しかし、カトリック教義に基づく限り、バチカンには本来、他の選択肢はないのだ(「『同性婚への祝福禁止』に反旗続々」2021年3月25日参考)。

フランシスコ教皇は今年2月、バチカンで開催されたシンポジウムで、「われわれは今、変革の時を迎えている。ただ、全ての変革が福音の香りを有しているわけではない」と表現し、その変化に対し、「(もはや存在しない)過去の世界に逃げることで、現在の問題を解決できると信じる生き方か、誇張された楽観主義の未来に逃げるかの道がある。私はその両方を拒否する。重要なことは、今日の具体的な世界に立脚し、生きて行くことだ。それは教会の賢明で生きた伝統に根ざしている」と述べている。

教会は今日、聖職者の性的虐待問題、聖職者の独身制、女性聖職者問題など難問に直面している。性的少数派問題も同じだ。社会の多数派による少数派への差別、虐待に反対、という人権尊重の観点からみれば明確だが、「同性愛が神の御心にかなっているか」という問いかけは別問題だ。

現代は生物学的性と性自認が完全に一致していると感じる人が少なくなってきた。男性、女性のどの性にも属さない性自認(ノンバイナリー)を主張する人も出てきた。興味深い動きとしては、ドイツのカトリック教会青年グループ(KJG)の間で「Gott+」(ゴットプラス)運動が広がってきたことだ。

神といえば、バチカンのシスティーナ礼拝堂の天井画、ミケランジェロの「天地創造」に描かれているように、髭を延ばした男性の姿を思いだすが、「ゴット+」では、神は父親だけではなく、母親であり、また兄弟、友でもあり得る。各自が自身のパーソナリティに合致した神像を持てる。白人の神、黒人の神もあり得るし、父親の神、母親のような神像もあり得る。そのように神像を考えていくならば、性的少数派問題も大きな障害とはならなくなる、というわけだ。

「あなたは誰か」とモーセから聞かれた時、神は「わたしは、有って有る者」(「出エジプト記」第3章14節)と述べている。「ゴット+」運動はそれを現代風に表現している、と解釈できるかもしれない。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年5月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。