マルコスJr.のフィリピン

フィリピンのマルコス氏の時代と言えばあまりにも古すぎて忘れている人も多いでしょう。1965年末から1986年初頭までの20年間大統領を務め、独裁者として君臨しました。その息子が今回の同国の大統領選で圧勝し、帰ってきます。2016年にやはり強硬的でフィリピンのトランプ氏と言われたドゥテルテ大統領を選んだ国です。トランプ氏よりドゥテルテ氏が先に大統領になっているので正確には「トランプ氏はアメリカのドゥテルテ氏」と表現されるべきなのでしょうが、それはともかく、「フィリピンの方は過激がお好き」ということなのでしょうか?

大統領選で圧勝したマルコス マルコス氏公式HPより

なぜ、あまり評判が良くなかったマルコス氏の息子が大統領選に圧勝できたか、その分析の一つは有権者の平均年齢が25歳とあまりにも若い点が挙げられています。そうだとすれば多くの有権者はマルコス氏(父)の存在すら知らないわけでそうなればどんな話でも創作し、切り貼りしやすい環境にあります。それをフィリピン人も大好きなSNSで発信すれば「そうなんだ」と信用させるにはたやすいことになります。

ただ、選挙結果の分析を見ると必ずしも若い人ばかりではなく、マルコス(父)の独裁時代を知っている年齢層も一定の支持をしているとされます。とすればフィリピンは「すがれる大物」が好まれるようにも見えます。

ところが、マルコスJr.氏の手腕は、といえば選挙戦の際も政策論争を避けてきたとされ、よくわからないというのが実情ではないでしょうか?わからなくても「大丈夫だよ、お父さんがあんな人だったから」というのはいかにもフィリピン人らしい性善説のようにも見えます。

ところで東南アジア経済に陽が昇る中でフィリピンは長年、比較的違う扱いになってきています。大陸の各国、ベトナム、マレーシア、タイ、シンガポールから徐々に内陸の国々に経済波及が進む感じですが、フィリピンは昔からフィリピンのままであるイメージが強いと思います。

フィリピンの最大の特徴は他の東南アジア国と違い、キリスト教(カトリック)の国である点です。敬虔なるカトリックである点はよいのですが、個人的に抱くイメージは多くのフィリピン人の緩い生活感で「苦しい時の神頼み」のように教会で拝んでいる感じなのです。仏教国の方はまじめで物事への取り組み方もしっかりしており、積み上げという発想があります。ですが、フィリピンの方は気候も良いせいか、ヤシの木の下で寝そべり、腹が減れば木を揺らせば果物が落ちてくる、という絵図が頭に浮かびます。つまり他力本願。なので強い人にまかれろ、的な思想はあるのでしょう。

この国民性が経済成長を阻んだ一つの理由なのだと思います。例えばここバンクーバーには巨大なフィリピン・コミュニティがあります。私の会社にもフィリピン人の従業員はいますし、過去30年、ビジネスに於いてフィリピン人と接点がなかったことはないほどです。その多くの人たちは介護、清掃、ナニー、ホテル従業員といった職種を中心としたサービス業従事者です。つまり、何か生産するとか、組織だって何か事業を起こすという感じではありません。あくまでも個人契約ベースです。つまり、団結力はあまり感じられず、バラバラ感もあります。

さて、そのフィリピンの新大統領はドゥテルテ氏の路線を継ぐとのことですので、親中国体制になるとみられています。とすれば今後、南沙の問題などについてアメリカと立場を同じにするのか、中国に絡め取られるのか、ここは要注意のポイントになり、日本の外交方針にも大きく影響してくるでしょう。その重要な位置づけは中国の太平洋進出を防ぐ第一列島線であります。

この列島線は沖縄からスタートしますが、台湾は列島線の中国側にあるのに対してフィリピンは外側にあります。また第二列島線との間に挟まるのがフィリピンということでアメリカにとって対中国の監視網、抵抗線としては極めて重要な存在であります。バイデン政権もこれから新政権と外交を開始するのだと思いますが、フィリピンはどうしても取り込まねばならない戦略的国家でしょう。但し、マルコスJr.氏に独裁色が強い性格であればバイデン氏の頭ごなし的なアプローチより寄り添うスタイルの岸田首相が先に会談するほうが良い成果を生むと思います。可能ならば早い時期に岸田氏が会いに行くというは外交戦略的な一手だと考えています。

フィリピンは親日国でありますが、結局誰にでもとっつきやすい性格で明るい人が多いと思います。一方で若干の裏表があるのもその特徴です。特に「お金」を巡る話ではあまり良い印象を持たず、日本人からすれば多少のやりにくさはあるかもしれません。とはいえ、日本に近いなじみの国です。新政権は強力にフィリピン再構築を進め、日本とフィリピンのより緊密な外交関係の構築を目指してもらいたいものです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年5月12日の記事より転載させていただきました。