デベロッパーから見た東京の不動産の価値

不動産デベロッパーである私の20代から想い

ホテル雅叙園東京(旧 目黒雅叙園)は私にとって不思議な記憶があります。そう、バブルの頃の思い出です。

賑わいのある目黒駅から徒歩5分ほどで風光明媚で華やかさと都心とは思えない静寂な日本庭園を持つ目黒雅叙園。それがどうやら再び売却されそうだと東洋経済が報じています。百段階段は観光スポットでもあり、東京都の有形文化財に指定されています。そのホテル、および事務所棟など一連の不動産の現在の所有者は中国政府系ファンドです。2015年に1430億円で取得したもので、売却できれば2000億円の値がつくとされます。

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雅叙園はやや複雑なのですが、この目黒雅叙園があるほうは比較的まともなのですが、その隣の敷地にかつてあった雅叙園観光ホテルを巡る土地の生臭い話が当時を知る業界の人にはあまりにも有名で私はそちらの方に首を少しだけ突っ込んだことがあります。

ただ、雅叙園本体も数奇な運命を辿りました。そもそも戦前、細川力蔵氏が料亭として所有運営していたものの力蔵氏亡き後、経営は一族間のもめごともあり、上手くいかず、倒産します。運営権を得たのがワタベウエディングですが、そのワタベは21年にコロナにより私的整理(ADR)となり、現在、薬品メーカー、興和の支援の下、再建中です。不動産のほうは破綻した際にアメリカのローンスターが2002年に取得、次いで2014年に森ビルが一旦所有し、その5か月後に当該中国ファンドに売却されます。仮に今回売却されればおおよそ20年で4度所有者が変わるというあの日本庭園とは真逆の落ち着きのない展開となります。

私が首を少しだけ突っ込んだのはその隣地に細川家が地主ながらも目黒雅叙園とは全く関係のない今は亡き雅叙園観光ホテルの方で、こちらは日本の不動産バブルの象徴的物件の一つでした。その象徴の意味とは「絵に描いた餅」で取得できない土地がいかにも取得できそうだという甘言で様々な人や企業が騙されるという話です。私が勤めていた会社はさすがこの物件には手を出さなかったのですが、日本経済界を揺るがせたあの著名な直接的指南者、S.I.氏と私たちは極めて近い取引関係にあったため、ぐっと前のめりになり、社内で幾度となく検討されたのです。ただ他にも「絵に描いた餅」案件は沢山あり、私は結局、そちらの方で幻の餅を夢の中で食しておりました。

バブルの頃は本当に信じられないほどたくさんの「有名物件」が存在しており、銀座、青山、原宿界隈にもたくさんあり、地上げが滞った物件も数知れずでした。この雅叙園は山手線駅近くということもあり、敷地面積も考えると魅力度は特に高かったのです。

一点難点があるとすれば山手線外側だったことで上司と「魅力は半減だよね」という会話をしたのをよく覚えています。この山手線の「内側」「外側」は当時、一般の会話にもよく出てきた言葉で自宅が「内側」だと羨望の目で見られる一方、「俺んちは外側だよ」というとなんとなく安どの空気があったのです。今の方には全く想像できない話でしょうね。

こんな話をふと思い出したのにはもう一つ理由があります。私が最近、東京で取得した不動産の一つは所有する不動産の隣地を買い増したものです。隣地の方に4-5年前「将来、お売りになるならぜひ検討させて」と声をかけていたところ「良い値段で購入頂けるなら」というご縁で昨年買収しました。その敷地の開発は既に終了しているのですが、今般、更にその隣地の方から「どう、将来、うちの家、買う気ある?」と言われました。条件は「俺が死んだら、だけど」。ぱっと見、10年先ぐらいの話ではありましたが「ぜひぜひ」とお願いしました。

所有する別の物件のケースでは隣地の方が認知症になり、残された家族もその不動産に興味がなく不動産を売却するかもしれないと不動産屋から情報がもたらされました。「そんなら買うわ」とお願いしています。

更に借地権物件にも期待感があります。要は借地権の土地所有者は概ね、かなりの高齢者。借地権は大家にとってそれほどおいしい話ではありません。固定資産税は払わねばならないし、地代は低廉です。となれば相続が絡めば底地売却になりやすく、不動産屋にその節にはプッシュしてほしい、と依頼しています。「果報は寝て待て」ぐらいの感じで大家さんとは良好な関係を維持することが大事でしょう。

私は東京の不動産事業はあちらこちらに所有する方針から所有物件の隣地を買い取り、土地サイズを大きくする方針に切り替えています。私がやりたいのは東京でのタウンハウス開発。これはデベロッパーがあまり手を付けていない分野です。大手はやらないし、決して儲かるとは思えないけれど東京のおもちゃ箱をひっくり返したような街並みをもう少し整備し、美しく管理された庭とガーデンに囲まれたゆとりと品格がある住宅を作りたいと20代の時から思っていました。まさに目黒雅叙園にみられる品の良さです。

雅叙園の庭園の前の椅子に座って「もしもこれが自分の家にあったらなぁ」という夢を実現させてみたいです。日本の古い戸建て住宅には庭がある家が多いけれど奥さんが趣味のように草木を植えて芸術性が全然なく、木は庭師を入れず伸び放題になっているものが多く見られます。美しい街並み、これを東京にもたらせれば不動産の価値は倍増できるはずです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年5月15日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。