北欧二カ国のNATO加盟申請の違和感

フィンランド、スウェーデンがそれぞれNATOに加盟申請を正式決定しました。個人的にはやや違和感、というか、これが正しい方向性なのだろうか、とまだ消化できない状態です。

今回のロシアの暴挙はウクライナに向けたもので他の国や地域を巻き込む様相は見せていません。一方、西側諸国はロシア包囲網を確実に進めています。その最大の「武器」がNATOの存在です。プーチン氏はこのNATOの存在が長年、嫌で嫌でたまらないのです。

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NATOは第二次世界大戦後に発足した集団防衛システムで大戦の反省と共に当時膨張していた共産圏の拡大阻止を念頭に置いています。その後の米ソの冷戦時代に於いてNATOの存在は重要な意味がありました。一方でソ連は緩衝帯として東欧諸国をグループ化し、欧州との防衛上の距離を確保します。緩衝帯の発想は軍事的緊張を緩和する点ではNATO以上に意味があったはずです。

フィンランド、スウェーデンはどちらかというと歴史的に中立的立場でフィンランドはロシアとの国境の街がロシアからの観光客でついこの間まで潤っていたというのが実情です。

大きく変わったのは1991年のソ連崩壊、及び旧東欧諸国とソ連/ロシアとのリンクが切れたこと、そして数多くのソ連の自治国が独立したことがあります。更に共産主義がソ連から消えています。1993年に発行したロシア憲法には「いかなるイデオロギーも、国家イデオロギーあるいは強制的なそれとして定められることはない」とあります。では現在のロシアの社会制度は何か、と言えば権威主義としか言いようがありません。ではなぜ、今でもプーチン氏は根強い支持があるのか、といえばソ連/ロシアの歴史上、国民が自立し民主的国家を建立したことがほとんどなく、常に中央や政府の指示の中でしか生きてきていないからでしょう。つまり、国民が自分たちで組織を作り、モノを動かす能力が根本的に欠落しているわけです。

今回はプーチン氏がウクライナへの地理的、歴史的背景を理由に感情的怨嗟を伴った対ウクライナ政策の完成系を狙ったものだと考えています。つまり、クリミア半島へのアクセス、クリミア半島そのもの、そして黒海へのルートの確保をするために同地域にいる親ロシア派を使った奪取行為であるというのが私の頭の中で描く超単純化したストーリーです。

プーチン氏にとってキーフなんてどっちでもいいはずだとみています。ウクライナ全部が欲しいわけではないが、東部ウクライナを抑えるにはどうしてもキーフを「緊縛」しておく必要がある、ということだったのではないでしょうか?当然、ゼレンスキー大統領がプーチン氏の敵ということだと思います。そもそもウクライナも品行方正がよいとはいえないのは誰も言わないけれど明白な事実です。故に欧州はウクライナをNATOに加盟させないのです。

そこで西側諸国は間接的にウクライナを橋頭堡とした部分があります。ところが、一部で必要以上にロシアの火花がほかの国や地域に波及することを恐れたために強力な防御姿勢がでた、これがスウェーデン、フィンランド両国に歴史的転換へ踏み込ませたのだろうと思います。

ではこれの何が私は消化できないのか、と言えば世界中の国家を黒と白の碁石のように色分けしつつあることが果たして正しいのか、なのです。近年のパワーゲームは米中の問題が発端だったと思います。そこで西側諸国は中国包囲網に踏み込みます。次いでロシアの包囲網も今回の一件で明白になりました。が、声を出せる国と出せない国が存在しているのも事実です。

例えばインドはどちらにつくのでしょうか?国民性からケースバイケースだと思います。トルコやハンガリーはどうでしょうか?イスラエルはイランのことがあり、ロシアの件で踏み込んでいません。日本は欧米主要国追随型なので反ロシアが当たり前のようになっていますが、もう少し見ると必ずしも一致した状況にはないのです。対中国となるともっと割れるでしょう。

民主主義と権威主義という観点からすれば民主主義派はそれを最大の価値としますが、権威主義に慣れた国は民主主義になれと言われても出来ないこともあるのです。10年前のアラブの春でも民主化にスムーズに移行したか、と言えば極めて厳しい結果でした。中国が今、民主主義になったら国家が大分裂をきたし、収拾がつかなくなり、世界経済に極めて大きなマイナス要因となるでしょう。

とすれば、国家の体制はある程度認めあうしかなく、それが対外的に問題を起こさないことに注力し、力による国境の変更を引き起こさない国家間の仕組みづくりに注力すべきであり、必要以上の緊張関係を生み出すのは問題を長引かせる要因になりかねない懸念があります。

私のようなことを思っているのはトルコのエルドアン大統領だけかと思ったらニューヨークタイムズの記事も同様の懸念を示してます。プーチン氏は近い関係とされるハンガリーのオルバン首相に両国のNATO加盟阻止を依頼しているでしょう。そうするとNATOやEUの関係にも悪影響が出る、ということです。

それと世の中、白と黒しかいないならば誰が裁定を下すのでしょうか?我々は解決不能な方向に向かいそうな気がしてならないのが私の違和感の理由なのかもしれません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年5月19日の記事より転載させていただきました。