アメリカ株はそろそろ買いどき?

こんにちは。

先週は金曜日がちょうど13日に当たっていました。

前日には、アメリカの株式市場を代表するS&P500株価指数が大きな節目と言われていた4000ドルを割り込んでいただけに、不吉な予感のする金曜日でした。

ところが、13日は大幅高で4000ドル台を回復し、今週も月・火と4000ドル台を維持できていました。

PercyAlban/iStock

そろそろ連邦準備制度の利上げ方針を市場が吸収し、今後は株高に向かうといった観測もちらほら見かけるようになりました。

私は、たんに昨日18日がまたしても大幅安になったということだけではなく、もっとはるかにしっかりした根拠から、アメリカ株の弱気相場はそうとう長く続き、主要な株価指数のほとんどがピーク比で半値を下回るところまで下落すると確信しています。

ベア(弱気)相場になるのは実体経済が悪いから

最大の理由は、実体経済の基礎条件(ファンダメンタルズ)が悪いことです。

この点については、データの上っ面を見ているだけではなかなかわからないところもありますから、まず消費支出の「順調な回復」というところから、見ていきましょう。

一見したところ、「コロナ」以後のアメリカ経済の回復は順調に進んでいるように思えます。去年3月の大型補正予算の効果はほぼ出尽くしたはずなのに、そのとき履いたゲタの上にそのまま乗っかって、おまけに右肩上がりのカーブがますます急傾斜になっています。

でも、消費者は決して「今こそ消費を拡大するチャンス」と思っているわけではないのです。それどころか、2008~09年の国際金融危機のころと同じくらい慎重になっています。


いったい、なぜこんなに慎重になっているにも関わらず、消費行動が活発なのでしょうか。まっ先に挙げられるのは、新車・中古車・部品ふくめて単一商品としてはもっとも大きな需要が存在する自動車の売れ行きが好調なことです。

さすがに2021年補正予算執行直後の1350億ドルというピークにはまだ届いていませんが、相変わらず1300億ドル台を維持しています。

自動車も住宅も駆け込み需要が大きかった

新車も中古車も大幅な値上がりの中でなぜ需要がついて行っているのかと言えば、これはもう駆け込みにつきます。

アメリカの自動車メーカーは、ほぼいっせいにガソリン車からEV(電気自動車)への切り替えに取り組んでいて、現在大手3社そろってセダンという乗用車でもっとも標準的な構造のガソリン車は製造していません。

いずれは、SUVなども完全にEV化する予定と発表しています。しかし、これからせいぜい3~5年先にどの程度EV用の充電所ができるかと言えば、大いに疑問です。

ですから、日常生活、とくに仕事にクルマが不可欠だと思っているアメリカ国民の大半は、なるべく型式が新しくて、しかも耐久性があり、部品の欠番化の危険の少ないガソリン車を買いあさっているのです。

もうひとつのビッグチケット・アイテムである新築・中古の住宅についても似たような状況です。

なお、細かい話で恐縮ですが、アメリカでも日本でも、住宅の新築や購入は国民経済計算上では消費とは見なされません。

個人世帯が家を持つと、まったく同じ場所に同じ仕様で同じ広さの家を借りるとしたらいくら家賃を払うことになるかを推定して、その仮定の上での「帰属」家賃なるものを毎月消費していると見なされます。

さすがにこちらは、相変わらず価格は上昇し、低かった金利が急騰したので、購入・新築の戸数は減りました

ですが、住宅価格も高くなり、また30年固定金利ローンの金利が一挙に3%台半ばから5%超に急騰したので返済負担も大きくなり、全米の住宅ローン残高は急増しつづけています。

とにかく、過去2~3年が異常な低金利だったため、いったん連邦準備制度が金利引き上げ方針を取ったら、30年固定のローン金利もまだまだ上がるだろうという観測で、駆け込み需要が起きているわけです。なお、これだけローン金利が急騰しているのに、住宅ローンや持ち家を担保にしたローンの延滞件数はまったくと言っていいほど増えていません。

そこで、「消費者はサブプライムローン・バブルに懲りて、今回は余裕のあるローンの組み方をしているから、ローン事故も少ない」といった見方をする人もいるようです。

たしかに、次のグラフを見るとそんなふうに思えてきます。

ところが、この見方は大間違いなのです。「新型コロナ」騒動の最中に、アメリカ政府はコロナ流行期間中はたとえ持ち家のローン、貸家の家賃支払いが遅れても延滞扱いにしないという方針を打ち出しました

どうしても、生産現場に行かなければ仕事にならず、賃金も入ってこない人たちがすぐに追い立てを食ったり、家を差し押さえられたりしないようにという趣旨です。

ですが、たとえ延滞とは呼ばれなくても、その間未払いのローンや家賃は溜まっていくわけですから、のちのちに確実に個人家計を痛めつけることになるのはわかりきっていたはずの愚策でした。

去年の暮れあたりから、延滞率がやや上がり始めたのは、「コロナ特例」が解除された自治体が増えているからでしょう。

また、この特例のおかげでアメリカの住宅市場では例外的に少なかった差し押さえ件数も、今年に入って増えてきました。

もともと景気が良くて減っていたわけではなく、ローンを払えていなかったのに延滞と見なされていなかっただけです。だから、景気が劇的に改善しないと、これまで溜まりに溜まっていたローン負担を払いきれない世帯が続出して、差し押さえ件数も激増するでしょう。

今までローンや家賃を払わないでもよかったので、ついつい別の用途につかってしまっていた世帯では、払い遅れていた分を結局払えずに、延滞から差し押さえや立ち退きに至るケースが多くなるでしょう。

消費者ローン一般にも同じルールを適用してしまった

もっと問題なのは、ローンや家賃ほど契約に縛られずに自由裁量で借りたり、借りなかったりできるはずの消費者ローンまで、同じようにコロナ期間中は支払いが遅れても延滞扱いにしないことにしてしまったことです。

その結果、コロナ期間中にクレジットカード・ローン(分割払い分+毎月の〆で決済できなかった分+カード融資枠を使った分)が激増しました。


もう少し、細かく言いますと、最初の大型補正予算で失業保険の割増や一律の臨時給付が出たときには少し返済に回して減ったのですが、ロックダウンやワクチン接種の義務付けなどが長引くにつれて、また増えていったのです。こちらもまた、表面的には延滞率がとても低くなっているのは、払い遅れても延滞に勘定しないという特例のためです。


そして、こちらでも「コロナ明け」の地域が増えるにつれて異常なほど低かった延滞率が徐々に上昇に転じています。今までのところ、自分の債務が不良債権として回収屋に売られて、怖そうな人が取り立てに来たといった事例は、アメリカ社会としては例外的に少ないようです。

また自己破産件数も、コロナ特例のおかげで低水準にとどまっています。


ですが、債務の延滞件数が低かったのは、一時しのぎの弥縫策に過ぎませんでした。すでに、延滞件数は増加に転じています。回収業者による取り立てや、自己破産が上向きになるのも時間の問題でしょう。

小売の中でも業態によって好不調はあるが

なお、この間アメリカの個人消費で好調だったのは、自動車と住宅だけではありません。じつにいろいろな分野で、一見順調に消費が伸びていました。

国民経済計算上は、自動車が最大の消費項目で、その次に大きな消費分野にのし上がってきたのは無店舗販売、インターネット通販とかeコマースとか呼ばれているカテゴリーです。


この分野もまた、最初の大型補正で履いたゲタをそのまま履きつづけて、やや伸び率も上昇気味です。月商800億ドル前後で3番手争いをしているのが、製品や農林畜産物からなる食料・飲料販売と、外食のレストラン・バーです。

ロックダウンがあって恩恵を受けたのは食料・飲料品店であり、被害を受けたのがレストラン・バーだという違いはありますが、ほぼ同じような規模です。そして、あれだけこまごまとした規制で痛めつけられ、資金力のない個店経営の飲食店がそうとうな数で店じまいに追いやられたにもかかわらず、本格回復に入ってからはレストラン・バーの伸び率が目立ちます

やはり、時代はモノからサービスへと移行しているのでしょう。

月商600億ドル前後での5番手争いでの異変は、従来安定した売上高を誇っていたスーパーなどのジェネラル・マーチャンダイジング・ストアの伸び率が低く、地方ではガソリン以外にもさまざまな日用品を売っているガソリンスタンドがスーパーを抜いたことでしょう。


アメリカのガソリンスタンドはガソリン価格が低いと、全分野で売上が低迷しますが、高いとそこで得た利益で補填してほかの商品を安値で売ることによって、急激にスーパーやコンビニのシェアを食ってしまいます。これは、日米ともにドラッグストアが高値で売れる処方箋薬品の超過利潤でその他の商品を安売りするのと、似た構造です。バイデン政権に代わって、化石燃料廃絶政策を打ち出したころから、石油製品の中でもガソリンの値上がりが目立ち、その結果ガソリンスタンドの売上高が激増しているわけです。

スーパーの売上がほかの業態に比べてパッとしないのは、アメリカ中で大きなモールの集客力が落ちていることも関連しています。

大型スーパーは、郊外型デパートと並んでモールのキーテナントだったからです。

デパート不振が示す中間層の消滅

というところで、デパートの売上はというと、これはもう涙なしには見られないほど、極度の不振が続いています。


デパートの惨憺たる売上低下は、大型ショッピングモールという店舗形態が流行らなくなっているのと並んで、アメリカ社会から所得中間層が消滅しつつあることも大きく関係しています。行きつけのブランドショップがあるほど裕福ではないけれども、たまにはおしゃれなもの、センスのいいものを買いたいという程度の余裕はある世帯が、ほんとうにアメリカ中から消えつつあります。ほんの一握りの大金持ちと、あとはほとんどが貧しい人々という構図が、アメリカの世相をますます荒んだものにして、無差別大量銃撃殺人とか、左右両極に分断されがちな世論動向とか、街頭での乱闘騒ぎとかを生んでいるのではないでしょうか。

勤労者の週給は1970年代初頭の水準を回復していない

とにかく、アメリカのふつうの勤労者の賃金・給与は10年以上続いた金融市場の活況とは裏腹に、まだ米中国交回復、米ドルの金兌換停止、第1次オイルショックのあった1970年代初頭の水準よりまだ8%も低いのです。


それなのに、消費は「順調」に伸びつづけています。その結果、バイデン政権は1930年代の所得激減期以来一度も達成したことのなかった、消費支出がGDPの7割台に乗せるという「偉業」を成し遂げました。


もちろん、可処分所得だけでこの高い消費水準を維持できるわけはなく、借金で消費を膨らませているわけです。いつかはツケが回ってくるでしょうし、そうなったときアメリカ株にはこれまでのようなささやかな調整ではなく、大暴落と長期低迷が待っていると思います。


編集部より:この記事は増田悦佐氏のブログ「読みたいから書き、書きたいから調べるーー増田悦佐の珍事・奇書探訪」2022年5月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「読みたいから書き、書きたいから調べるーー増田悦佐の珍事・奇書探訪」をご覧ください。