2019年、訪日外国人の数は3188万人に上りましたが、2021年のその数は24.6万人です。99.2%減ということになります。ある意味、2020-2021年の日本は「訪日外国人 宴のあと」だったとも言えます。政府は外国人が落とす経済的影響力が大きいことは認識していた一方、コロナ対策と国民に強く残る「懸念」がいまだに大きな障壁となっていることも事実です。
ここにきてマスクのあり方について政府が一定の条件でマスクは外すことを推奨し始めていますが、ニュースなどから聞こえる街の声、特にお子さんを持つ母親から「マスクはすぐに外せない」というコメントが多いように感じます。外国人はマスクをつけなくなっているのでこれからこのギャップ感は出てくるかもしれません。
政府は外国人の受け入れ枠を少しずつ増やし、6月からは一部観光客を含め1日2万人という方針を固めています。しかし2万人x365日でも730万人にしかなりません。2019年の4~5分の1程度です。日本経済が再び外国人で賑わいを見せるには今しばらく時間がかかりそうな気がします。
さて、私が東京で経営している賃貸住宅部門のうち、外国人専用住宅がここにきて好調となっており、部屋が足りないので一般向け賃貸住宅を外国人向けに早急に設定しなおす計画です。問い合わせが急増し始めたのは政府が外国人に門戸を開いてすぐからで、ここにきて更に増えています。
この変化の中で今までになかった傾向が2つあります。一つはいわゆる東南アジアなどからの「研修名目」の訪日者というよりもしっかりした会社の社員として長期間日本で滞在する方が増えていることです。あまり聞きたくない話ですが、東南アジアからの研修者を受け入れる場合、日本企業側が宿泊施設を提供することが多いのですが、その予算が強烈にシビアで極端なタコ部屋状態になっているのです。ある企業の方と話していた時も研修者一人当たりの宿泊施設の予算は月2万円と。これでは劣悪環境なシェアハウスか、広めの部屋のシェアハウス一部屋に2段ベッドで数人入れないとおさまりがつきません。私も聞かれましたが、当然、「ごめんなさい」です。
外国人向けの住宅は六本木、広尾、麻布など一等地に賃料月50万円といった部屋はよく紹介されています。しかし、日本に勤める外国人は全員がエグゼクティブではないのです。若い社員もいます。私はその層をターゲットにしており、今まで順調に展開しており、少しずつ拡大させている状況です。
今回、これらの層とは別に新たなタイプの外国人の問い合わせが入り始めています。いわゆる長期滞在型です。半年、1年、夫婦で過ごしてみたい、といった人たちです。明らかに日本へのリピーター層で短期観光ではなく、腰を据えて「深掘りしたい」「住んでみよう」という人たちなのです。
こういう方々は必ずしもセキュリティの効いた近代的マンションよりも品の良い和室や畳の部屋があったりする木造住宅を好むように感じます。
ちなみに世界では鉄筋コンクリート造の住宅は環境問題から必ずしもポジティブなイメージではなく、高層の木造住宅が世界各地で増えてきています。日本では11-15階程度の開発が相次いでいます。ノルウェーやカナダには18階があるし、世界中で木造がブームなのです。なので日本も和のイメージを少しだけでも取り入れた部屋があれば、例えばリタイア層が1年住むという場合の需要は相当あるとみています。
この需要を後押しするもう一つの理由は言うまでもなく物価と為替です。先進国から見れば日本の物価は異様に安いのです。その上、この円安の為替です。日本の物価はアメリカやカナダの旅行者物価と比べたら半分近くなりつつあります。ならば1年ぐらい住んでみようという人がいても家賃10万円/月なら懐が温かいちょっとした欧米人は楽勝でセミリタイアライフを送れるのです。
では最後にそのような潜在需要を取り込む方法です。私が今まで多くの顧客とやり取りした中で一番大事なことは外国の顧客が心地よく過ごせるベースを提供することです。それ以上はする必要ないのです。時として親切心で日本の文化や伝統を「押し付ける」方もいますが、そうではなく、それら海外の人がなぜ、日本に長期滞在したいのか皆、違うわけですから、そこをリスペクトしてコミュニケーションをよくします。ちなみにマニュアルの押し付けは100%ワークしません。あくまでも標準を基に個々ディールで条件を詰めます。これが一般的には極めてハードルが高いところです。
私はたまたまそのやりとりがスムーズにできて、不動産のビジネスを熟知しているので多くの方が長く滞在してくださっているのです。不動産業と海外ビジネスが両方出来る人は少ないのです。これも一種の国際化で、このようなビジネスチャンスをきちんと拾っていくことで日本のイメージ向上、そして経済貢献につながるのだとみています。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年5月22日の記事より転載させていただきました。