なぜ資本主義は崩壊しないのか?その原因を究明する④

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「社会主義」と「自由」との原理的矛盾

資本主義の指導理念(イデオロギー)は「自由」であるが、社会主義の指導理念は自由ではなく「平等」である。人は「自由」を追求する生き物であり、「自由」のために戦ってきた。多くの人の血と汗と涙の上に「自由」がある。

(前回:なぜ資本主義は崩壊しないのか?その原因を究明する③

資本主義の自由と社会主義の自由との根本的相違

資本主義においては、国民は、「公共の福祉」に反しない限り注1)、思想・良心・集会・結社・言論・出版・表現の自由・学問の自由・私有財産制(「生産手段所有の自由」を含む)・企業経営・政府批判・政権政党批判の自由が保障される。なぜなら、資本主義は、国家の諸個人への干渉を最小限として、諸個人の自主性と活動の自由を最大限尊重し、諸個人の「自由意思」と「自由競争」を根本原則として、経済発展と国民生活の向上を図ることを目的とするシステムだからである。

これに対して、社会主義においては、社会主義体制を強化する「自由」しか保障されない注2)。なぜなら、国民に前記の言論の自由などの「政治的自由」を全面的に保障すると、社会主義は成り立たず、たちまち崩壊するからである。

まず、社会主義が、国民に生産手段所有の自由や企業経営の自由などの「経済的自由」を保障すると、資本家による労働者の「搾取」注3)が可能となり、貧富の格差が拡大し、社会主義の指導理念である「平等」に反するとされるからである。

そして、社会主義が、国民に思想・良心・集会・結社・言論・出版・表現の自由などの「政治的自由」を保障すると、国民による社会主義政権に対する政権批判が可能となり、政権が崩壊するからである。社会主義国家における「共産党一党独裁」は、政権交代を認めず、国民に政権選択の余地をなくし、永久政権化を意図したものである。

ソ連崩壊はペレストロイカ「言論の自由」拡大が最大原因

1991年のソ連の崩壊は、計画経済の非効率による経済停滞、米国との軍拡競争、国民の民主化要求、など様々な要因があるが、ソ連共産党ゴルバチョフ書記長が進めたペレストロイカ(政治改革)により「言論の自由」が拡大し、国民に共産党政権に対する政権批判が可能となったことが極めて重要な政治的要因である注4)

中国共産党政府によるインターネット等に対する厳しい言論統制も、国民に「言論の自由」を保障すると共産党政権に対する政権批判が可能となり、旧ソ連と同様に共産党政権が崩壊する恐れがあるからである。

一元的価値観の社会主義は「自由」と矛盾し対立する

このように、「社会主義」と「自由」は矛盾し対立する。原理的にも、資本主義は哲学上の「多元的価値観(価値観の共存を認める)」に基づくのに対し、社会主義は哲学上の「一元的価値観(価値観の共存を認めない)」に基づく。したがって、社会主義が、価値観の共存を認めない「マルクス・レーニン主義(科学的社会主義)」に立脚する以上は、「社会主義」と「自由」は原理的にも矛盾対立し両立しないのである。

特に、「マルクス・レーニン主義(科学的社会主義)」の核心である「プロレタリアート独裁(共産党一党独裁)」の下では、レーニンによれば「暴力のあるところ、自由も民主主義もあり得ない」のである注5)

「労働力の商品化(賃労働)」と「剰余価値(利潤)」の取得(搾取)は社会主義社会にも存在する

なお、マルクス主義者及びマルクス主義研究者は、資本主義社会の「労働力の商品化」を厳しく批判する。しかし、ソ連、中国などの社会主義社会においても、労働者は労働力を国有・国営企業に売って賃金を取得し働いて生活しており、その実質においては資本主義社会と同じといえよう。

また、国有・国営企業は、労働者が生産した「剰余価値(利潤)」を取得(搾取)するのであり、この点も資本主義社会と実質的には大差はない。国有・国営企業が「搾取」した剰余価値は、設備投資や賃金・幹部賞与・税金・内部留保などに使用され、中国は株式市場を認めるから「配当」にも使用されるから、実質的には資本主義社会とほとんど変わらないと言えよう。

資本主義の強靭な創造力と復元力

ヨゼフ・アロイス・シュンペーターの「創造的破壊」による資本主義の強靭性は今も健在である。

シュンペーター「創造的破壊」の衝撃

シュンペーターは、「不況」や「恐慌」という一種の災害が経済を長期的にはより望ましい方向に調整するための必要悪であることを提起し、「不断に古いものを破壊し新しいものを創造して、内部から経済構造を革命化する創造的破壊の過程こそ資本主義の本質だ」注6)と述べている。

「不況や恐慌は古い産業を淘汰し、人的物的資源を再配分し、古い産業に代わって新しい産業を成長させ<構造改革>を促進するからである」

(竹森俊平著「経済論戦は甦る」東洋経済新報社)

資本主義が1930年代のいわゆる「資本主義の全般的危機(1928年コミンテルン第6回大会採択のコミンテルン綱領によるテーゼ)」の時代を乗り越えたのは、資本主義が有する「創造的破壊」の強靭な創造力と、したたかな復元力によるものである。

マルクス主義者はこの資本主義が有する強靭な創造力と、したたかな復元力を決して侮ってはならないのである。資本主義は社会主義の「失敗」(「プロレタリアート独裁による共産党一党支配・個人崇拝・粛清・言論抑圧・人権抑圧・非効率な指令型計画経済」等)を学んでいるが、社会主義は資本主義の「創造力」と「復元力」を学んでいない。

レスター・C・サロー著「資本主義の未来」の卓見

米国マサチューセッツ工科大学の経済学博士レスター・C・サロー教授の著書「資本主義の未来」(TBSブリタニカ)から下記の言葉を引用する。資本主義の本質と強靭性を実に見事に分析しており卓見である。

「産業革命が起こり、物質的な生活水準を上げることに成功したのは資本主義だけであった。資本主義以外の経済体制は結局どれもうまくいかなかった。経済を支配するのは市場であり市場だけである。資本主義だけが人間の個性を生かし、卑しいものとされる貪欲や、私利私欲の追及を利用して生活水準を上げることができた。資本主義に対抗したファッシズムも社会主義、共産主義もことごとく消え去った。」

中国の経済発展は「資本主義の勝利」

ソ連社会主義は、スターリン政権以来の「生産手段国有化」による共産党官僚及び国家官僚(ノーメンクラツーラ=ノーメンクラツーラはソ連国家の支配階級であった)注7)指導の上からの指令型<社会主義計画経済システム>に固執し、資本主義の「市場経済」を本格的に導入しなかったために崩壊した。

しかし、中国は、毛沢東時代の「人民公社」や「大躍進政策」の失敗で、長期にわたって経済は疲弊し停滞していたが、鄧小平の「改革開放政策」により、資本主義の「市場経済」を本格的に導入し、<社会主義市場経済システム>の下で、驚異的な経済発展を遂げた。

中国は、「政治は社会主義で経済は資本主義」なのである。上記の事実は、生産力の発展に関しては、<資本主義経済システム>が、<社会主義経済システム>よりも格段に優れていることを証明している。仮に、中国が上記の毛沢東思想(共産主義思想)による「人民公社」や「大躍進政策」をいつまでも続けておれば現在の経済発展はない。中国の経済発展は、実は「資本主義の勝利」なのである。

社会主義における「労働意欲の喪失」

ソ連「集団農場(コルホーズ)の失敗や、中国「人民公社」の失敗の原因は、「私益」を否定し、「公益」を優先した「社会主義的集団労働」における労働のインセンティブ(動機付け)の欠如に集約される。

ここに極めて重大な「教訓」がある。すなわち、社会主義の経済的失敗は、社会主義が重視する「集団の利益(公益)」のための「社会主義的集団労働」には、労働のインセンティブが欠如しているからである。これに対して、資本主義の経済的成功は、「個人の利益(私益)」が労働の強力なインセンティブになっているからである。マルクス主義研究者の村岡到氏も、著書「ソ連邦の崩壊と社会主義」(ロゴス社)で、ソ連邦の経済を一貫して悩ませた問題の一つとして「労働意欲の喪失」を指摘しておられる。

このため、ソ連では「労働ノルマ(労働の基準化)」が制度化された注8)。しかし、労働者は「労働ノルマ」を達成できなければペナルティを課されて「義務労働化」ないし「強制労働化」し、逆に、「労働ノルマ」を超えて達成すれば、新たな厳しい「労働ノルマ」が課されるから、いずれにしても、労働者にとって労働意欲を高めるものではない。

この労働意欲(労働インセンティブ)の問題は、マルクスが「未来社会」として理想視する「アソシエーション(自由で平等な共同社会構想)」注9)の実現可能性や持続可能性の問題にも影響するのであり、日本共産党が2004年綱領で「共産主義の理想」と規定した「真に平等で自由な人間関係からなる共同社会への本格的な展望」においても、あらゆる経済活動に必要不可欠な「労働インセンティブ」が働かないため、労働意欲を喪失し経済が停滞する可能性が大きいのである。

ソ連社会主義の評価すべき点とは

以上の通り、筆者は、「社会主義」特に「ソ連社会主義」を厳しく批判してきた。しかし、ソ連は、1957年10月4日世界で初めて人工衛星・スプートニク第1号を打ち上げた。まさに、宇宙時代の始まりであり、疑いなく人類の歴史にとって画期的な出来事であった。これは、ソ連政府による、教育・技術・科学分野への人的物的資源の重点配分の成果であり、政府主導の社会主義の利点であることは否定できない。

また、8時間労働制・有給休暇・女性の権利・医療・教育無償化など評価すべき点もある。筆者は「ソ連社会主義」を全否定するものではない。「暴力革命」と「プロレタリアート独裁」による「共産党一党独裁」「共産党官僚・国家官僚(ノーメンクラツーラ)による強権的支配」「粛清」「強制収容所」「市民的自由抑圧」「基本的人権抑圧」「非効率な指令型計画経済」などを批判しているのである。

おわりに(思想的立場)

おわりに、筆者の思想的立場を明確にしておきたい。筆者はベルンシュタインの社会民主主義に基づく「漸進的な社会改良主義」(「修正資本主義」「混合経済体制」)、具体的にはスウェーデン・デンマーク等の「北欧型福祉国家」に共鳴している。

なぜなら、「北欧型福祉国家」では、三権分立の政権交代可能な「議会制民主主義制度」が確立し、思想・良心・集会・結社・言論・出版・表現の自由等の「市民的自由」と「基本的人権」並びに男女間の機会均等、政府及び政権政党批判の自由が最大限保障され、且つ、持続可能な経済成長を目指し、所得再配分政策及び社会保障政策が充実徹底しているからである。

「生産過程は資本主義的競争原理で高い生産性を維持しながら、分配過程は社会主義的な平等原理で徹底的な所得再配分をする国。その意味では資本主義でも社会主義でもない<第三の道>がスウェーデンである。」

(岡沢憲扶著「スウェーデンの挑戦」岩波新書)。

なお、筆者は、日本の学者では、「共産主義批判の常識」「マルクス死後50年」「私とマルクシズム」等の著者、元慶應義塾大学塾長小泉信三博士と、「社会思想史研究」「社会政策原理」「ドイツ社会民主党史論」等の著者、元東京大学経済学部長河合栄治郎博士を尊敬している。

両博士とも、上記著書において、「自由と民主主義」の立場から、暴力革命とプロレタリアート独裁の「共産主義」を理論的に鋭く批判され、「共産主義」は言論の自由等の「市民的自由」や「基本的人権」とは両立しないことを強く主張された。

注1)「最大決昭26・4・4民集5・5・214」参照
注2)「ソ連・スターリン憲法、中国・中華人民共和国憲法、北朝鮮・朝鮮民主主義人民共和国憲法」参照
注3)「社会主義国有企業も労働者の剰余価値を取得する」筆者注
注4)塩川伸明著「ソ連はどうして解体・崩壊したか」村岡到編著「歴史の教訓と社会主義」所収ロゴス社
注5)レーニン著「国家と革命」レーニン全集第25巻
注6)シュンペーター著「資本主義・社会主義・民主主義」東洋経済新報社
注7)ボスレンスキー著「ノーメンクラツーラ」中央公論社
注8)ソ同盟科学院経済学研究所著「経済学教科書」第3分冊
注9)マルクス・エンゲルス著「共産党宣言」

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