なぜ資本主義は崩壊しないのか?その原因を究明する③

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資本主義が崩壊しない「政治的原因」とは何か

資本主義が崩壊しないのは、前稿で詳述した「経済的原因」だけではない。以下に述べる「政治的原因」も極めて重要である。

(前回:なぜ資本主義は崩壊しないのか?その原因を究明する②

国民の政治意識の違い

この「政治的原因」の内容は、近代のブルジョア民主主義社会を経験せずに、貧しく遅れた後進資本主義国や、農業国、発展途上国、植民地国から、マルクス・レーニン主義(科学的社会主義)の核心である「暴力革命」注1)と「プロレタリアート独裁」注2)によって社会主義国家に移行した旧ソ連、中国、北朝鮮、ベトナム、キューバ、ラオス、カンボジアなどの諸国と、近代ブルジョア民主主義社会を経験した日本、欧米の先進資本主義諸国とを比較すれば、極めて明確になる。

すなわち、具体的には、思想・信条・集会・結社・言論・出版・表現の自由などの市民的自由、基本的人権、議会制民主主義、法の支配、国民主権などのシステムを経験した先進資本主義諸国の労働者階級を含む圧倒的多数の国民の、「自由と民主主義」に対する肯定的評価とそれに基づく政治意識、信頼度、成熟度は、社会主義革命当時において、これらの「自由と民主主義」のシステムを経験しなかった上記の社会主義諸国の国民の政治意識と著しく異なるのである。

この著しく異なる国民の政治意識の違いこそが、資本主義が崩壊しない、したがって社会主義に移行しない極めて重要な「政治的原因」である。

なぜなら、「暴力革命」と「プロレタリアート独裁」による社会主義革命は、上記の市民的自由、基本的人権、議会制民主主義、法の支配、国民主権のシステム及びその基盤である「自由と民主主義」の理念とは著しく対立し矛盾するからである。

そのため、上記のシステムと理念を経験した日本など先進資本主義諸国の労働者階級を含む圧倒的多数の国民は、これらを全否定する「暴力革命」と「プロレタリアート独裁」による社会主義革命に対しては、極めて強い拒否反応を示すからである。

評論家の松田道雄氏も「資本主義的発展が、議会民主制をもたらし、労働者階級を巨大な組合にまで結集できた国では、革命は起こっていない。逆にまだ議会民主制ができず、人民が擬制的主人になっていない後進国で革命が起こっている。」注3)と述べられている。

ハイエク著「隷属への道」と自由の重要性

さらに、ハイエクによれば、これらの「政治的自由」のみならず、「経済的自由」すなわち、生産手段所有の自由を含む私有財産制も国民の自由にとって極めて重要である。

なぜなら、生産手段を独占した一党独裁の共産党政府による指令型「計画経済」は、諸個人の自由や運命がすべて共産党政府(共産党官僚及び国家官僚=ノーメンクラツーラ)の手に握られてしまうからである。

ハイエクによれば、「経済的自由」なしにはどんな自由も存在しないのであり、生産手段を含む私有財産は自由の最重要の基礎なのである注4)

暴力革命とプロレタリアート独裁への恐怖

そのうえ、「暴力革命」と「プロレタリアート独裁」注5)によって政治権力を掌握した旧ソ連や中国をはじめとする上記社会主義諸国における、共産党一党独裁、スターリンの個人崇拝と大粛清注6)、富農虐殺、農業集団化強行、「人民の敵」摘発処刑、恐怖政治、秘密警察注7)、密告、銃殺、公開処刑、強制収容所、言論抑圧、人権抑圧など数々の歴史的事実が、先進資本主義諸国の労働者階級を含む圧倒的多数の国民に対し、「共産主義」に対する恐怖感と嫌悪感を与え、いわゆる「反共産アレルギー(共産党拒絶反応)」を増幅した面は否定できない。

さらに、国際的にも、東ドイツ市民の亡命防止のための「ベルリンの壁」注8)、ソ連の「ハンガリー動乱」弾圧、ソ連の「プラハの春」弾圧注9)、ソ連の「アフガン侵攻」、「中国文化大革命」注10)、「天安門事件」、中国政府による「チベット抑圧」、「ウイグル抑圧」、「香港抑圧」、中国政府による言論統制と知識人抑圧、民主カンボジア・ポル・ポト政権による市民200万人大量虐殺、北朝鮮の「公開処刑」「粛清」など、数え切れず枚挙にいとまがない。

また、日本国内でも、1950年勃発の「朝鮮戦争」を契機として、日本共産党の徳田・野坂・志田派による「極左冒険主義=武装闘争路線(火炎瓶闘争・交番襲撃・警察官殺害・中核自衛隊・山村工作隊」など)」に基づく武装闘争が、数年間にわたって実行されている注11)

「反共産アレルギー」(「共産党拒絶反応」)の増幅

このような、先進資本主義諸国の国民を恐怖に陥れ、震撼させる社会主義国家等による否定的事件や現象があまりにも多い。これらは、日本をはじめ先進資本主義諸国の労働者階級を含む圧倒的多数の国民に強い「反共産アレルギー(共産党拒絶反応)」を植え付けたに違いない。

旧ソ連、中国などの社会主義諸国に、以上に述べたような否定的事件や現象が多い原因は、いずれの国も、議会制民主主義や市民的自由、基本的人権の尊重といった近代ブルジョア民主主義を経験せず、民主主義の洗礼を受けていない、帝政ロシアなどの遅れた後進資本主義国や中国などの半植民地国、カンボジア・ラオス・キューバなどの農業国や開発途上国であったことが強く影響していると言えよう。

しかし、それ以上に、根本的には、「マルクス・レーニン主義(科学的社会主義)」の理論的核心である「暴力革命」と「プロレタリアート独裁」の「教義(ドグマ)」が決定的な影響を及ぼしたことを忘れてはならない。

以上に述べた様々な「政治的原因」が、日本をはじめとする先進資本主義諸国における社会主義革命すなわち資本主義の崩壊を抑止する極めて重要な原因であることは明らかである。

資本主義が崩壊しない「国際的原因」とは何か

資本主義が崩壊しない原因として、以下に述べる「国際的原因」も軽視することはできない。

国家の危機管理機能による経済崩壊回避

日本など先進資本主義諸国でも、時に、リーマンショック級の大規模な金融危機や財政危機に見舞われることがある。

しかし、マルクス主義のいわゆる「国家独占資本主義」注12)に基づく国家の経済への強力な介入(超大型財政出動・超低金利政策など)によって、そのような危機が政府により「管理」されコントロールされており、経済破綻が防止され回避されている。

国際機関による経済崩壊回避

そのうえ、IMF(国際通貨基金)、OECD(経済開発機構)、WTO(世界貿易機関)、EU(ヨーロッパ連合)、UN(国際連合)など、様々な国際機関による先進資本主義諸国を含む各国間の国際協調・国際協力・国際援助で、世界的不況や恐慌に対しても、財政破綻、金融破綻に至ることが防止され回避されている。

上記の政府による危機管理や、国際機関による各国間の国際協調・国際協力・国際援助により、経済・財政破綻が回避され、資本主義の崩壊が抑止されていることは明らかである。

先進資本主義諸国の強靭な潜在成長力

そして、グローバルな世界経済を基盤として、日本や欧米の先進資本主義諸国では、スーパーコンピューター・人工知能(AI)・情報・通信(IT)産業・再生可能エネルギー産業・医療・バイオ産業・地球環境保護・宇宙開発をはじめとする最先端の高度な技術開発力、グローバルな国際競争力、世界的な多国籍企業を含む巨大な経済規模など、それらに基づく強靭な潜在成長力を保有している。

このような、様々な「国際的原因」も社会主義革命を抑止し、資本主義の崩壊をもたらさない重要な原因であることは明らかである。

(次回へ続く)

注1)「暴力は社会秩序の転覆に不可欠である」マルクス・エンゲルス著「共産党宣言」河出書房新社
注2)「プロレタリアート独裁とは資本家の反抗を暴力で抑圧する労働者階級の権力であり、暴力のあるところには自由も民主主義もない」レーニン著「国家と革命」レーニン全集第25巻大月書店
注3)「革命と市民的自由」筑摩書房
注4)ハイエク著「隷属への道」春秋社
注5)「資本主義社会と共産主義社会の過渡期の国家は労働者階級の革命的独裁以外にはありえない」マルクス著「ゴーダ綱領批判」河出書房新社
注6)「人民の敵・スパイ・反党行為で党員85万人、軍人3万5000人犠牲」菊池昌典著「歴史としてのスターリン時代」筑摩書房
注7)「東ドイツは史上最も厳しい監視国家であり、秘密警察は党の鉾と盾になり、党を人民から守る権限を持っていた」アナ・ファンダー著「監視国家」白水社
注8)「労働者にとって天国であるはずの東ドイツから大勢の労働者が西側に亡命した」林健太郎著「昭和史と私」文藝春秋社
注9)「チェコ共産党指導部の最大の罪悪のトリックは、労働者階級の意思を代表すると見せかけることである。だが、実際は党官僚たちが労働者の名において資本家に代わって国家の新たな支配者になったのだ<チェコ2000語宣言より>」松田道雄著「革命と市民的自由」筑摩書房
注10)「文化大革命の犠牲者は数百万人から数千万人にのぼる」石平著「中国共産党暗黒の100年史」飛鳥新社
注11)日本共産党中央委員会著「日本共産党の70年上巻」新日本出版社
注12)大内力著「国家独占資本主義」東京大学出版会

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