本日なにげに国会中継みていたのですが、驚きました。小野寺元防衛大臣の質問がネトウヨレベルでした。しかも意図的に捏造を含んでいる始末の悪い世論誘導でした。
防衛費が横ばいで中国などは増やしていると、防衛費の増額を訴えたわけですが、74式戦車の載っているフリップをだして「戦車の値段は3倍です」と。
多分、90式が10億円で、10式も当初1億円、現在14億円ですから、それだと「値上がり率で「不都合」があったのでしょう。ですが意図的に2世代前、半世紀前の戦車を持ち出すのはあからさまな世論誘導の意図があったからでしょう。74式は、アンパン25円の時代の戦車ですぜ。
防衛費が横ばいだと高価になった新装備が調達できないという文脈のお話です。ですが、それはどこの国でも同じです。
他国、軍拡だあ、と小野寺さんが批判する中国も含めて陸軍の兵力を削減して近代化の費用の捻出をしております。世界の軍事予算の半分を占める米軍も然りですし、基地を減らすなどもしています。
対して小野寺さんが防衛大臣時代含めて、自民党政権が何をしてきたのでしょうか。現状の問題に目をつぶって改革を先送りしていたでしょう。で、借金して軍拡しろというのは無責任です。
そしてNATO諸国も中国も基本GDPに比例して軍事費を増やしています。ところが、自民党政権は借金で大幅軍拡をやろうとしています。アベノミクスの失敗を軍拡で糊塗しようというのでしょうか。
また小野寺は老朽化した建物がそのまま使われているとか、F-2が共食い整備を余儀なくされていると、これまたフリップを出して泣き落とし戦術を展開です。
でもそれを招いたのは小野寺さん含む、自民党政権と、防衛省、自衛隊の当事者意識と能力の欠如が大きいでしょう。3倍から10倍の値段で装備調達をすればカネがなくなるのは当たり前の話です。
現在の防衛省の予算を一般家庭に置き換えてみると、世帯収入500万円、貯蓄なしのサラリーマン家庭で、パパはカローラを定価の3倍の値段で、ローンで購入。ママはエルメスのバーキンをリボ払いでこれまた定価の5倍の値段で購入。ローンとリボ払いで首が回らず、子供の給食費すら払いが滞っている状態といえる。
(「安倍元総理の軍拡に対する反論」2022年5月25日Japan in Depth)
小野寺さんの主張はこの状態でカネがないのは給料が上がらないからだ、というようなものです。まともな人間なら支出を考え直します。
自分たちの無能、無策を隠すために借金で軍拡というのは政権与党、それも防衛大臣経験者としてとんでもないことです。
さらに防衛産業の窮状も訴えていましたが、これまた小野寺さん含めて自民党政権、防衛省の不徳の致すところでしょう。防衛産業が一定の規模を維持できるように統廃合含めたリストラクチャリングもやらず、旧態然の不効率な調達を続けた結果が調達数減による、事業規模の縮小です。
他国ではその計画を議会が承認して国防省がメーカーや商社と契約する。それができないから毎年単年度で細々と調達する。だから我が国では国会議員ですら10式戦車がいったい何両調達されて、いつまで戦力化され、総予算はいくらかを知らない。このような無責任体制になっている。調達が5年で終わるのか、30年後に終わるのかでは、ラインの維持費は6倍も違う。当然コストは高くなる。これは輸入品でも同じだ。これを放置してきたのは他ならぬ自民党政権である。
もう一つの理由は日本の防衛産業が防衛省に寄生する零細事業ばかりだからだ。小さな防衛省の市場を複数の企業で分け合っている。これらを喰わせるために発注を小さくしているのだ。その好例がヘリメーカーだ。機体メーカー3社、エンジンメーカー2社がほぼ防衛省需要に依存している。例外は川重とエアバスヘリとジョイントベンチャーのBK117ぐらいだ。国内市場にしても民間は勿論、海保、警察、消防、自治体も外国製ヘリを使用している。そしてメーカーには内外の市場に打ってでて軍民両市場で一定のシェアを取りメーカーとして自立するつもりはサラサラない。50代になって親に喰わせてもらっている「子供部屋おじさん」と同じである。
本来このような場合、政府や防衛省、経産省はメーカーの統廃合を促すべきだ。事実、欧州は勿論、ロシアや共産主義の中国ですらこれを実行している。だが我が国では決断ができない。それは政治のリーダーシップが欠如しているからだ。メーカーの統廃合ができないならば、輸入に切り替えてヘリ産業を潰すという手段もある。そうすれば調達コストは数分の一に下がる。どうせ将来自立する気がないのだから駄目な業界に補助金の如く予算をまく必要はない。メーカーはカネや人員を儲かるビジネスに振り向ければいい。このような不効率な防衛産業が放置されているのも、これまた政治の無策の原因である。
この惨状に輪をかけたのが第二次安倍政権です。米国の歓心を買うために、不要で高価な米国製兵器を大人買いして、本来自衛隊に必要な予算を圧迫して自衛隊を弱体化させたのは安倍晋三と自民党政権です。
ぼくは官僚から「キヨタニさん、もう少し丸く話ができませんか?そうであれば自民党の部会とかもお呼びできるんですが」とか言われることがあるのですが、自民党の部会とかはそういう厳しいことを言う人間を呼ばずに、自分たちが気持ちの良くなる人間を呼んでいるのでしょう。
下世話な例えをすると、オナニーのおかずになるような意見だけを聞きたいのでしょう。それと組織防衛第一の防衛省や自衛隊からのご説明受けていれば現実を知ることもできないし、当然まともな判断もできません。
それから答弁をした岸防衛大臣の健康問題です。今回驚いたのは岸大臣の弱り具合です。通常国会では答弁するときは答弁台に移動して立ったまま答弁するわけですが、今日は岸大臣専用の座ったまた答えるための答弁台がわざわざ別に作られてそこに岸大臣はずっと座っていました。かなり喋るのも困難な感じでした。
昨年から杖はついていましたが、記者会見時に会見室入り口で杖を置いて入室していました。それが今年になって室内に入る際も杖をつき、2月11日の会見からは座ったまま会見を行うようになりました。普段は車いすを使っているという報道もあります。
果たしてこの健康状態で激務である防衛大臣が務まるのでしょうか。しかも現在はウクライナの問題で難しい判断を次々としないといけない。有事になれば尚更です。
岸さんが交代できないのは自民党の思惑もあるのでしょう。岸田内閣は安倍晋三に忖度して実弟である岸さんを更迭できないのでしょう。であれば、国防より党利党略ということになります。
それは自民党政権が安全保障を真面目に考えていないからでしょう。大臣なんてお飾りだから誰がなっても同じ、病人でも大丈夫。何ならいなくてもOK、でも政治家のポストとしては美味しいから必要、その程度なのでしょう。
かつては防衛庁長官のポストは環境庁長官と並んで最軽量大臣ポストで、「大臣量産」のため半年ごとに交代していました。
いまだに自民党はその気分が抜けないのでしょう。こういう政党が政権を担い、借金で軍拡して国を危うくしているのが現状です。
編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2022年5月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。