米財務省がロシアへの特例打ち切り発表、ロシアの選択肢は?

米財務省は5月24日、ロシアによる米国投資家への利払いをめぐる特例措置を予定通り25日で打ち切ると発表しました。同省は2月28日、ロシアの財務省や中央銀行との取引禁止に踏み切ったものの、投資家保護の観点から、ロシアが米金融機関や国際機関にて保有する外貨準備を用い、米金融機関を介して国債の償還金や利息を支払うことを5月25日まで認めていました。ウクライナのブチャでのロシア軍による残虐行為を受け、米財務省は4月4日に期日を迎えたロシアのドル建ての元本5億5,240万ドル、利息8,400万ドルの支払いを阻止したものの、特例措置は撤回していなかったのです。

Sergei Dubrovskii/iStock

今回の発表を受け、アジア通貨危機の余波を受け1998年8月以来のデフォルトに陥るリスクが高まってきました(当時はルーブル建て国内債務の債務不履行を宣言したが、対外債務支払いは90日間停止し債務再編にあたる、対外債務の不履行となれば1917年のボリシェビキ革命以来)。

ただし、月内は回避されそうです。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙によれば、ロシア財務省はクーポン支払いの資金をロシア連邦証券保管振替機関(NSD)に移したと発表、NSDは2026年5月償還債のクーポン7,125万ドル(ユーロ、ポンド、スイスフランでの支払いが可能)と、36年5月償還債のクーポン2,650万ユーロ(ドル、ポンド、フラン、ルーブルでの支払いが可能)に対応する見通しです。なお、代替通貨への支払い変更は、ロシア政府が制御不能な理由で当初の通貨での支払いが不可能となった場合に限り、認められているそうです。

チャート:ロシアの元本・利払いスケジュール、9月は3.6億ドルの元本支払いもあり7億ドル超え

0rs

(作成:My Big Apple NY)

ここで、デフォルトの定義をおさらいしていきましょう。

①格付け機関が認定(ただし、対ロ経済制裁で認定が困難)
②クレジット・デリバティブ決定委員会による認定(デフォルトの保険、クレジット・デフォルト・スワップの補償金支払いの決定に必要)
③既発債の債権者の25%の同意に基づく、ロシアのデフォルト宣言
④デフォルト認定まで、最長30日の猶予あり

この中で、注目は③。ブルームバーグロシア大手証券ITIキャピタルへの取材を通じ、ロシア国債保有者の大半は欧州でこの条件を満たさないと伝えています。前述の”制御不能な理由でルーブルでの支払いが可能なケースを想定しているためでしょう。実際、ロシアのシルアノフ外相は引き続きルーブルでの支払う可能性に言及しています。

それでも仮にデフォルトに認定された場合、経済金融制裁下で西側諸国を中心にビジネスが不可能なため、再編協議への道筋は途絶えたも同然です。では、ロシアはどのような行動に出るのでしょうか?

①ロシア政府による訴訟

→シルアノフ財務相が警告したように、ロシア政府は支払いの意思と資金があったにも関わらず、米国による経済金融制裁により阻止されたとして訴訟を起こすシナリオが考えられよう。バージニア大学教授によると、国債の発行やデフォルトに関する要件で英国法に依拠することが多く、外部の不可抗力によって債務を履行できない場合は、借り手が自己防衛することができ、裁判所は支払いを延期することができるという。ただし、このような訴訟を西側諸国がすんなり認めるとは想定しづらく、泥仕合いとなりうる。

②ロシアと中国を始めとした対ロ制裁に与しない各国との接近

→米欧を始め西側での市場を通じた資金調達が不可となるが、ベネズエラのケースを踏まえればロシアは対ロ制裁を科していない中国を始めとした各国から借り入れが可能となりうる。ただし、その際にエネルギー輸出価格の引き下げなどロシアに不利な交換条件が求められうる。

③エネルギー輸出で得た収入で、デフォルト認定されていない国債の買い戻し

→ロシアは、2022年にエネルギー関連で得られる約3,200億ドルの収入を活用し、ロシア国債の買い戻しに動く場合も。ロシア債が下落したほか、ルーブルもウクライナ侵攻前の水準へ回復している。実際にロシア財務省は3月末、4月4日を元本償還期限とする20億ドルのドル建て国債をめぐり、14億4,760万ドル(72%)相当をルーブルで買い戻した。国内投資家へ配慮したほか、ドル温存の手段として有用と判断されたもよう。

幸か不幸か、ロシアのデフォルトによる金融市場の影響は限定的とみられています。ロシアの外貨建て債務は600億ドル程度とされ、2020年5月に6年ぶり、9回目のデフォルトに陥ったアルゼンチンと概ね変わらないためです。

とはいえ、金融市場はFedの利上げや保有資産の縮小を始めとする先進国の金融引き締め、インフレ高進、資源高、供給制約、中国の景気減速――などの懸念により大荒れの状態。織り込み済みとはいえ、ロシアのデフォルトが瞬間風速で市場を圧迫するリスクは否定できません。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2022年5月27日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。