中小企業労働者は本当に多すぎ?

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1. 企業規模別の労働者数を見てみよう!

前回は、日本の労働者の平均給与について、年齢階層別のデータを共有しました。特に男性労働者では、年代問わずピークから減少してしまっていることがわかりました。

日本の労働者全体では、確かに比較的所得の低い女性や高齢労働者が増えた事で、平均値が減少したことも考えられます。それと並行して、現役世代の男性労働者の平均給与自体も減少しているという異常事態も進んでいるわけですね。

今回は、日本の中小企業数や、特に小規模企業で働く労働者数の割合などについてファクトを確認していきたいと思います。(参考: 日本の中小企業は本当に多いのか!?

私自身も色々な疑問があったため、少し丁寧に情報を整理しながらシェアしていきたいと思います。なお、この記事は特定の個人や団体を批判したり、擁護したりするものではありません。単に、情報を整理して共有し、それぞれの考えの参考にしていただくことが目的です。

日本は中小企業で働く労働者の割合が大きいので、日本経済全体の生産性が低下しているという指摘があるようです。

企業規模別にどれだけの労働者が働いているかのデータが、日本の統計では「経済センサス-基礎調査」、海外の統計ではOECDの「SMDS Structural Business Statistics」にて公開されていますので、そのデータを基に検証していきたいと思います。

まずは、日本のデータからです。

日本 労働者数 2014年

図1 日本 企業常用雇用者規模 労働者数
出典:平成26年経済センサス-基礎調査

図1が常用雇用者規模別の、常用雇用者数と従業者数のグラフです。

常用雇用者と従業者の定義は、「経済センサス 労働統計用語解説」で次のように説明されていますので引用します。

701 (従業者)
従業者とは、調査日現在、当該事業所に所属して働いている全ての人のことをいう。他の会社などの別経営の事業所へ派遣されている人も含まれる。一方、当該事業所で働いている人であっても、他の会社などの別経営の事業所から派遣されているなど、当該事業所から賃金・給与(現物給与を含む。)を支給されていない人は従業者に含めない。なお、個人経営の事業所の家族従業者は、賃金・給与を支給されていなくても従業者とされる。

703 (常用雇用者)
事業所に常時雇用されている人のことで、期間を定めずに雇用されている人、若しくは1カ月を超える期間を定めて雇用されている人(一部略)

従業者にはアルバイトや派遣労働者、個人事業主の家族で業務に従事している人なども含まれそうです。

経済センサスで対象としている「企業」は次の通りです。

  • 会社企業 : 約175万社
  • 個人企業 : 約209万社
  • 会社以外の法人: 約26万社

日本には合計410万社の「企業」が存在するという事になります。個人企業は企業数が多いわりに従業者数は600万人ほどと少ないです。従業者ゼロのいわゆる個人事業主も多数含まれるものと思います。

図1を見ると、常用雇用者は全体で4,760万人、従業者は5,620万人になります。また、このデータは企業の労働者数なので、公務員は含まれないものと考えられます。

日本 常用雇用者数 2014年

図2 日本 常用雇用者数 2014年
出典:平成26年経済センサス-基礎調査

日本 従業者数 2014年

図3 日本 従業者数 2014年
出典:平成26年経済センサス-基礎調査

図2、図3がそれぞれ産業別の労働者数になります。

概ね、ISIC Rev.4という標準規格に則って区分されているようです。

労働者は卸売・小売業、製造業、医療・福祉、宿泊・飲食サービス業の順で多いようです。

特に、従業者数でみると卸売・小売業、宿泊・飲食サービス業、建設業では10人未満の企業で働く人の人数が多いですね。

2. 小規模企業で働く人が多いのはどの産業か?

図2や図3だと、それぞれの産業で働く労働者の人数規模はイメージできますが、小規模企業で働く人がどれくらいの割合なのかがよくわかりません。

産業ごとにそれぞれの企業規模の労働者のシェアを可視化してみましょう。

日本 常用雇用者数 シェア 2014年

図4 日本 常用雇用者数 シェア 2014年
出典:平成26年経済センサス-基礎調査

図4が常用雇用者数のシェアです。

日本 企業常用雇用者規模別
常用雇用者数シェア 全産業 2014年
6.6% 0~4人
6.4% 5~9人
7.9% 10~19人
11.5% 20~49人
8.9% 50~99人
14.3% 100~299人
14.1% 300~999人
14.5% 1000~4999人
15.9% 5000人以上

10人未満の小規模企業に勤める常用雇用者は、全体の13.0%という事になりそうです。

産業別に見ると小規模企業のシェアが高い産業は、建設業(30.9%)、不動産・物品賃貸業(26.0%)、学術研究・技術サービス業(25.8%)、農林漁業(25.8%)などのようです。

一方、電気・ガス・熱供給・水道業や、金融・保険業、複合サービス業などは、大企業の割合が圧倒的に大きいですね。

日本 従業者数 シェア 2014年

図5 日本 従業者数 シェア 2014年
出典:平成26年経済センサス-基礎調査

図5が従業者数のシェアとなります。

さすがに小規模企業のシェアは大きくなりますね。

全産業平均で21.2%、建設業で42.5%、不動産・物品賃貸業で49.9%、農林漁業で41.3%もの高水準となります。

日本 企業常用雇用者規模別
従業者数シェア 全産業 2014年
14.1% 0~4人
7.1% 5~9人
7.9% 10~19人
10.8% 20~49人
8.1% 50~99人
12.8% 100~299人
12.5% 300~999人
12.7% 1000~4999人
13.8% 5000人以上

日本企業の場合、10人未満の小規模事業者のシェアは大きくて21%程度(従業者数でみた場合)、少なくて13%程度(常用雇用者数でみた場合)となります。

3. 他国の労働者のシェアも見てみよう!

それでは、日本の小規模企業で働く労働者は本当に多いのでしょうか?

他国の状況と比較してみましょう。

OECDでは、中小企業(SMEs)に関するデータも公表されています。

企業規模別 労働者数 2019年

図6 企業規模別 労働者数 2019年
出典:OECD統計データ

図6がOECDの統計データ(SDBS Structural Business Statistics)です。従業員規模1~9人の人数が多い順に並べています。

基本的には日本1も含めて労働者数(Total employment)の数値ですが、日本2、アメリカ、カナダは雇用者数(Number of employees)の数値になります。

日本はこの2つの指標でグラフ化している点にご注意ください。

通常、Number of employeesは企業に雇われる雇用者数を差し、それと個人事業主(Self-employed)を合わせてTotal employmentになるはずです。

つまり、Number of employeesよりも、必ずTotal employmentの方が人数が多いはずなのですが、なぜか日本のデータはNumber of employmentの方が多いという不可解なデータセットになっています。

恐らく、上記経済センサスの労働者のうち、Number of employeesに従業者数(合計約3,700万人)、Total employmentに常用雇用者数(合計約3,100万人)を割り当てているものと思います(実際に両社のデータを見比べて、おおむねこのようになっていることを確認しました)。

また、上記のデータは、農林水産業、金融・保険業、公務・教育・保健を含まない一般産業の企業についてカウントしているようです。

図2~5のうち、農林水産業から右側の産業は、OECDのデータに含まれていないと推測されます。
(したがって、本来全産業の日本の企業数は410万社ですが、このデータセットでは280万社となっています)

もちろん、他国も同じような条件でのカウントと思いますが、厳密には条件が完全に揃っているわけではない可能性もあります。あくまでも、一つの統計結果に過ぎない点をご承知おきください。

企業

図7 企業規模別 労働者数 シェア 2019年
出典:OECD統計データ

図7がOECD各国の企業規模別の労働者数シェアを、1~9人の小規模企業のシェアが高い順に並べたグラフです。

やはり小規模企業の多い韓国(43.9%)やイタリア(41.8%)が上位に来ます。

日本は、日本1(Total employment)で13.5%、日本2(Number of employees)で22.3%です。いずれも先進国全体としてはシェアが小さいほうのようです。

企業規模別 労働者数
小規模(1-9人)企業 シェア 2019年 単位:%
1位 44.0 ギリシャ
2位 43.9 韓国
4位 41.8 イタリア
21位 22.6 カナダ
22位 22.4 フランス
23位 22.3 日本2 (Number of employees)
28位 19.3 イギリス
30位 18.6 ドイツ
33位 13.5 日本1 (Total employment)
34位 10.1 アメリカ

日本は小規模企業で働く労働者のシェアが特段大きいわけではなく、先進国としてはむしろ小さいです。

少なくとも、日本だけ小規模企業の労働者が多く、経済が非効率な事情を抱えているわけではなさそうですね。

4. 既に淘汰の進む日本の製造業

実は、日本の場合既に製造業で「小規模事業者の淘汰」が進んでいます。(参考記事: 日本の製造業で起こっている事

日本 製造業 事業所規模別 事業所数

図8 日本 製造業 事業所規模別 事業所数
出典:工業統計調査 工業統計表 産業別統計表

図8が、日本の製造業の事業所規模別に見た事業所数の変化です。1998年(青)と2020年(赤)について比べています。

4~29人の小規模事業者がこの間なんと4割程度にまで減少していて、30~99人規模でも2割程度が減少しています。それ以上の規模ではほぼ変わりませんが、1000人以上の規模では1割以上の減少です。

既に日本の製造業では、小規模事業者を中心にここまで淘汰が進んでいるわけですね。

日本 製造業 事業所数 従業員数 付加価値額

図9 日本 製造業 事業所数・従業者数・付加価値額・1人あたり付加価値
出典:工業統計調査 工業統計表 産業別統計表

図9が日本の製造業全体の事業所数、従業者数、付加価値額(GDP)、1人あたり付加価値(生産性)についての変化です。1998年が100%としての割合で描いています。

この20年ほどで事業所数は約半分に減り、従業者数は約2割、付加価値額(GDP)は約1割減少しています。

皮肉なことに、主に「生産性が低い」とされる小規模事業者が減ったため、全体としての生産性(1人あたり付加価値)は向上しています。

図10 GDP 生産面 アメリカ、ドイツ、韓国、日本
出典:OECD統計データ

図10がアメリカ、ドイツ、韓国、日本の産業ごとのGDPです。赤が工業(≒製造業)を示します。

実は工業のGDPが縮小しているのは日本だけです。同じ工業国であるドイツや韓国は存在感が大きく、さらに右肩上がりで成長しています。製造業離れが進んでいるというアメリカでさえ、成長していますね。(参考: 工業の縮小する「工業立国日本」

残念ながら、「下を淘汰すれば全体が良くなる」というわけではない事が、既に日本の製造業で確認できるわけです。

企業が適正な規模で適正な付加価値を稼ぎ、消費者でもある労働者の収入が増えていく事が大切だと思います。

その中の手段として、規模を拡大する事も1つの方向性とは思いますが、手段はそればかりではないと思います。大企業の労働者が不要となっていく中で、小規模な企業にしかできないビジネスもたくさんありますね。

中小企業は社会に多様性を供給する存在でもあります。むしろ、大企業の規模の経済による安定した供給をインフラとして活用しながら、独自の高付加価値ビジネスを展開できる環境にあるはずですね。

今後総人口→労働人口も減っていく中で、自分たちのビジネスの適正規模や価値を改めて再定義していく時代になっていくのかもしれません。

皆さんはどのように考えますか?


編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2022年5月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。