日本の大学で3000人が雇い止め:「10年雇い止め問題」は研究の自由を奪う

野北 和宏

僕は現在、永久就職(テニュア)の教授として、クイーンズランド大学に勤務しています。豪州では、年齢による差別が禁止されているので、定年による退職(退官)ということはなく、自分が望めば100歳になっても教授として研究・教育に従事することができます。

このテニュアを手に入れたのは2018年です。豪州に移住してクイーンズランド大学のポスドク(博士研究員)になったのは1999年で、それから3年契約、1年契約などのポスドクを首の皮一枚でつないで、2015年にようやく3年間の試用期間(テニュアトラック)付きの准教授となり、2018年に晴れて教授に昇進したのと同時に試用期間も終了したというわけです。

もし僕が日本の大学でポスドクとして就職していたと思うと、ゾッとしているのです。そして、日本でなくて本当に良かったと豪州の制度に感謝しています。もし日本だったら、今の僕はない。それはなぜかと言いますと・・・

最近研究者の10年雇い止めが大きな問題となっているようです。たとえば、

「国公立大や公的機関の研究者 来年3月に約3000人が大量雇い止め危機 岐路の「科学立国」 東京新聞

という記事では、「文科省によると、来年3月末で契約期間が10年に達するのは国立大86校などで3099人。うち契約期間の上限が就業規則などで明示されている1672人は、雇い止めに遭う可能性がさらに高い。中でも東大は346人と最も多い。」ということですが、これは一体どういうことなんでしょうか。

つまり、同じ大学で10年間働いたら、テニュア(永久就職)になれるというもので、一見薔薇色の制度のように思えます。だけれども、研究というのは、通常3−5年のプロジェクトの予算を競争的に獲得してなされるものですので、そのプロジェクトが終わった後は予算は確定できません。ですから、プロジェクトの期間以上の契約はできないのです。

ポスドクは、同じ研究室で連続してプロジェクトがあれば、「そのプロジェクト毎にポスドクの契約を更新すること」、もし同じ研究室でプロジェクトがなければ、「同じ大学内の他のプロジェクトに移ること」で、研究を継続していくことができるのですが、そのチャンスを日本の制度は奪うことになるのです。

この法律を議論する時に、なぜこのような大学や研究機関の事情を反映させなかったのか、大いに疑問ですが、法律制定10年後の来年が来る前に早急に法改正して、この悪法を廃止する必要があると思っています。

政府・厚労省のHPには以下の文書が公開されています。

労働契約法の改正により、有期労働契約の濫用的な利用を抑制し労働者の雇用の安定を図ることを目的とした「無期転換ルール」が平成25年4月から導入されていますが、研究開発能力の強化及び教育研究の活性化等の観点から「研究開発システムの改革の推進等による研究開発能力の強化及び研究開発等の効率的推進等に関する法律及び大学の教員等の任期に関する法律の一部を改正する法律」(平成25年法律第99号)が平成25年12月13日に公布され、大学等及び研究開発法人の研究者、教員等については、無期転換申込権発生までの期間(原則)5年を10年とする特例が設けられました。

動画のノギタ教授は、豪州クイーンズランド大学・機械鉱山工学部内の日本スペリア電子材料製造研究センター(NS CMEM)で教授・センター長を務めています。