韓国新大統領に期待してはならない

10日就任した韓国の尹大統領
NHKより

最悪の日韓関係

日韓関係にとって文政権の任期は悪夢のような5年間だった。日韓合意という形でついに決着が着いたと思われた慰安婦問題は無いことにされ、徴用工の問題に関し、司法が国際的取り決めを一方的に撤回するという現代の法治国家とは思えないような所存も座視するだけであった。文政権は日韓関係の発展を阻み続けた歴史問題を改善するどころか、悪化させただけだった。

また、レーダー哨戒機事件や経済安保の観点から輸出規制を決定した日本政府のアクションも拍車をかけ、日韓両国は互いに対する敵意が増長し、日韓関係は歴史的に見ても最悪な状態にある。

しかし、昨今の情勢を看過するわけにはいかない。国際政治が民主主義対権威主義で二分化され、東アジアで権威主義勢力が台頭していくなかで、同じ民主的価値観を共有する存在が隣国にいることは日本にとって安心材料であり、現状の民主的な生活体系を守るためには韓国の協力が必要である。

さらに、歴史的に朝鮮半島の動向が日本の安全保障に直結してきた歴史的経緯を考慮すれば、韓国が日本が参画している西側陣営の一角を占めることは死活問題である。例えば、日清、日露戦争は朝鮮半島が敵対勢力の下に落ちないようにするために日本は戦っている。

特に日本の安全保障を真剣に考えれば日本との関係促進に意欲的な韓国はウェルカムである。そして、ユン・ソクヨル新大統領の就任は日韓関係の改善を望む筆者にとっては一種の希望を抱かせる。

タフな大統領の誕生

パワーバランスの違い、近接性が原因で中国の顔色を伺い続けるざを得なかった韓国の歴史を考えるとユン氏は稀有な存在である。彼は大統領選挙期間中から北朝鮮だけではなく、中国に対しても強硬的な姿勢を見せていた。そして、現行の対中政策を大きく変えることを示唆している。「韓国は挑戦しなければならない」と題するフォーリン・アフェアズ誌での論考の一節がそれを表している。

れらの国々と同様に、韓国も中国の経済報復に直面してきた。しかし、彼らとは異なり、韓国は自国の安全保障上の利益を犠牲にして、中国の経済報復に屈してきた。

屈してきたというのは強い表現であり、続く部分では北朝鮮に主眼を置きながらも、中国の反対を無視してでもTHADD導入を目指すことを主張している。実際、大統領選挙期間中もTHADDの導入についてたびたび言及していた。中国から脱却し、自立的な外交・安保政策を志向する姿勢は安保面で日本などの民主主義国と共同歩調を取って中国を抑制する余地があるように思える。

また、日本に対してのアプローチも敵対的だった文政権と真逆の印象を受ける。上記と同じフォーリン・アフェアズ誌の論考でユン氏は日韓の友好関係のビジョンを描いた日韓共同宣言の精神に立ち返り、日韓の高官同士の交流だけではなく、特に若者の間の人材交流の促進を訴っている。また、日米との安保協力にも前向きだとしている。

このようにフォーリン・アフェアズ誌でのユン氏の主張だけを見れば、中国に経済的、安全保障に係る圧力を受けている状況から抜け出したい意図が見え、それを果たすために日本を有力なパートナーとして見据えていることが読み取れる。

だが、果たして主張したことを実行するだけの裁量がユン氏にあるのだろうか?

政権運営は可能か?

表面的な印象は期待を寄せたくなるが、ユン氏を取り巻く政治的状況を冷静に見れば、実際にどれぐらい決定権の幅が彼に与えられるかは眉唾ものである。

2020年の文氏の与党の大勝により、ユン氏は野党に国会の立法権を握られた状態で政権発足せねばならない。また、1%以下の差で大統領選で勝利を収めたことは、ユン氏が大胆な政策を推進するだけの信任を国民から与えられたことを意味するのだろうか。

強烈なレトリックとは裏腹に、ユン氏は自身が置かれている厳しい現実を理解しているのだろうか?

言うは易く行うは難し。ユン氏にはただでさえどん底の日韓関係をさらに悪くさせないで頂きたい。