国税職員ら7人が特殊詐欺で逮捕されました。持続化給付金を巡り、書類作成などを手伝っていたとされ、内部の人間がその知識を利用したケースでした。この数日前には10億円弱という持続化給付金詐欺としてはダントツの金額を搾取したとして家族(母親と二人の子供)が逮捕され離婚したとされる父親は海外逃亡しています。私の想像ですが、離婚は形式上、何か理由があってそうしたものであり、紙の上での処理だとみています。これはいずれ、警察が調べぬくでしょう。
日本では詐欺事件は昔から非常に多く、騙された経験をお持ちの方もいるでしょう。いまだにオレオレ詐欺は横行しているし、ちょっと手の込んだ投資話もあります。この手の事件は無数に起きており、ネットで検索すればへぇというほど日常茶飯事的事象であります。
そういう私も騙された口です。2度あります。1度目は学生時代、イタリアを単独旅行中にローマで引っかかりました。しっかりした身なりの中年男性が私に近づき、流ちょうな英語で自分はドイツから仕事できたのだが、今朝、財布を盗まれた。ドイツに戻る電車賃がないので貸してくれないかと。
なぜ、私がこれで騙されたのか、その後自己分析したのですが、中途半端に英語が出来たことが最大の落ち度だったと思うのです。全然できなければ相手は私を騙せません。一方、あまりにも流暢ならもうちょっといろいろ根掘り葉掘り聞けた、だけど当時の私の英語能力と併せ、欺きへの予防線と経験値がなかったことで相手の言うなりに圧されまくったというのが理由でしょう。
ではもう1つ。これはもう時効だと思うのですが、公開されていない話なのでほんのさわりだけ述べます。私がゼネコンで不動産事業部に在籍、特命係をしていた際に「断れない人からの案件」が舞い降りてきました。この断れない人からの持ち込み案件は一言でいえば、「腐った肉を再生させて高級レストランで提供するような話」です。
ある宗教法人が所有する東京の超一等地の敷地につき、宗教法人の内部問題に起因しその土地を売却することになった。ついては宗教法人のオンブズマンと称する人物が土地売却に関する一切の処理を任された。持ち込んだその方はこのオンブズマンを通じて土地を買収し、そこに高層ビルを建築し、双方でメリットを山分けしようじゃないか、という話です。
断れない相方と我々はこのオンブズマンに何度となく会います。そして小出しにされる情報に翻弄されながらも「断れない案件」故に怪しいと思うのではなく、どうやってこれを信じて物件取得することができるのか、と「前向き」に考えます。そして某銀行系リース会社がこの話に乗り、融資を得てオンブズマンに資金が渡ります。金額は言えませんが、以前、積水ハウスが騙されたあの案件よりはるかに大きい額でした。
のちに計画は破綻します。私がバンクーバーで仕事をしていた時、オンブズマンが逮捕され、週刊誌の記事が東京からファックスされてきました。その素性はプロの詐欺師でありました。その時の私の反応は「やっぱりねぇ」なのです。つまりわかっていたけどやられちゃったということでしょう。
持続化給付金を介した詐欺事件が後を絶たない本質は何処にあるのでしょうか?給付金の仕組みが緩かったといってしまえばそれまで。それは別次元の問題なのでここでは取り上げません。少し前、経済産業省に入省したキャリア組の若手2人も同じ給付金詐欺で逮捕されました。今回は国税職員。彼らは自分の人生を棒に振るといったリスクがあることを深く考えず「やろうぜ。絶対大丈夫だよ」という感覚なのでしょう。
なにが大丈夫か理由はないのですが、概ねリーダー格の声のでかさと押しが全てだと察しています。そしてそれに圧される仲間は「そうかなぁ。でもあいつがそういうなら…」と奇妙な信頼関係が構築され、一度でもそれに成功すると「お前ももうやっちゃったんだから次もやるぜ。断ったらお前のこと、ばらすだけだからな」と後戻りできない罠にはまるわけです。
では騙される方はなぜなのでしょうか?人々には常に不安心理があります。普段は出てこないのですが、あるツボを押されるとどどっと出てきてしまいます。例えば息子とは3年も会っていない、元気でやっているのだろうかと思うのは母親の愛情です。そこに「かぁちゃん、ちょっとまずいことになってさぁ…」と切り出されるとそれが嘘か本当か判断する以前に息子を守らねば、という心理が生まれます。このツボにはまれば割とイチコロです。
持続化給付金詐欺の協力者に於いても金がないという若者の心理を突いているのです。ご協力いただければ〇万円差し上げます、です。今の若者は5万円差し上げればえっと驚くようなことをする人は結構多いのです。5万円に困っているわけではないし、貧困という訳でもないのです。ただ、5万円がボーナス的に入ればちょっとうまいもの食って、欲しかったあれ買ってというお気楽具合のプチストレス解消でそれ以上のことは考えていないのでしょう。この持続化給付金事件でもそれに協力した人がいてこそ成り立った詐欺なのです。主犯だけがニュースになりますが、それに協力した人にスポットが当たることはないのです。
世の中が複雑になっているため、騙される方はまさか、というケースもあるでしょう。しかし、上手い話など世の中には存在しないのだという性悪説から入るべきです。ではオレオレ詐欺に騙される高齢者はどうしたらよいのか、ですが、私は銀行のシステムから防ぐ方法があると思います。
それはAIで預金者の預金引き出しパターンとよく使う送金先を覚え込ませ、突然、経験値と違う多額の預金引き出しや、過去歴がないところに多額の振り込みをする場合に警告が出たり、係員が確認するなどの二重チェック方式がシステムとして作れると思うのです。これ、全員にやると大変ですが、一定年齢の高齢者に付加サービスとして銀行が提示したらよいのではないでしょうか?
残念ながら騙そうとする輩はどんな社会でもいます。私は海外という社会の中で性悪説で望んでいますので初めての相手は信用度ゼロが前提です。自分で自分を守る意識、それができないなら技術でカバーすることが望ましいと思います。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年6月3日の記事より転載させていただきました。