米5月ADP全国雇用者数は予想以下、4業種で人員削減予定数が急増

5月のADP全国雇用者数、チャレンジャー人員削減予定数、新規失業保険申請件数をおさらいしていきます。

米5月ADP全国雇用者数は前月比12.8万人増となり、市場予想の30万人増に届かなかった。前月の20.2万人増(24.7万人増から下方修正)に続き、3ヵ月連続で前月を下回った。Fedが5月に大幅利上げを行い、保有資産の縮小と合わせ積極的な金融引き締めに動く見通しから金利が上昇、インフレ高進や供給制約と合わせ、企業の採用の勢いを部分的に削いだとみられる。ただし、求人数が過去最高水準にあるため、人手不足も一因だろう。なお、ADP全国雇用者数は民間のみであり、政府を含まない。

チャート:ADP全国雇用者数、20年12月以来のマイナス

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(作成:My Big Apple NY)

セクター別では、サービス部門が27.4万人減と前月の64.5万人減(修正値)を上回り、13ヵ月ぶりに減少した。内訳は以下の通り。

・教育/健康→4.6万人増、2020年5月以来、25ヵ月連続で増加<前月は6.0万人増
・専門サービス→2.3万人増、2020年5月以来、25ヵ月連続で増加<前月は4.1万人増
・娯楽/宿泊→1.7万人増、17ヵ月連続で増加<前月は4.7万人増
・金融→1.0万人増、2020年5月以来、25ヵ月連続で増加>前月は0.7万人増
・貿易/輸送→0.8万人増、2020年5月以来、25ヵ月連続で増加>前月は1.5万人増
・その他サービス→2.3万人減、13ヵ月ぶりに減少<前月は1.5万人増
・情報→0.2万人減、3ヵ月連続で減少=前月は0.2万人減

財部門(製造業、建設、鉱業)は前月比2.7万人減と前月の13.1万人増(修正値)に反しマイナスとなった。11ヵ月ぶりに減少した。内訳は以下の通り。

・製造業→2.2万人増、2020年5月以来、25ヵ月連続で増加>前月は1.5万人増
・鉱業→0.5万人増、14ヵ月連続で増加>前月0.4万人増
・建設→0.2万人減、15ヵ月ぶりに減少<前月は1.2万人増

ADPリサーチ・インスティチュートのニラ・リチャードソン首席エコノミストは、インフレ高進や労働市場のひっ迫を受け雇用が増加した点を評価しつつ「ほとんどの業種で雇用の伸びが鈍化した」と指摘。特に中小企業は「大企業と競わねばならず、採用が困難になっている」と付け加えた。

▽米5月チャレンジャー人員削減予定数は3ヵ月ぶりに減少も、4業種で急増

米5月チャレンジャー人員削減予定数は前年同月比14.7%減の2万712人と、3ヵ月ぶりに前年比で減少した。前月比では15.8%減と年初来で4回目の減少となった。

チャート:人員削減予定数、5月は前月比と前年同月比そろって減少

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(作成:My Big Apple NY)

年初来では前年同期比47.6%減の10万694人と、1993年の統計開始以来で最低を更新した。しかし4業種は、5月の単月だけで年初来の4ヵ月分の人員削減予定数を上回った。経済の正常化を経て、パンデミック下での特需を失ったテクノロジーで急増し、20年12月以来の高水準となった。暗号資産の急落の煽りを受けフィンテックも大幅増に。その他、インフレ高進や価格高騰、加えてFedの利上げや金利上昇など逆風を受け建設、長引く供給制約から自動車が入った。

チャート:5月の人員削減予定数が1~4月分を上回った4業種

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(作成:My Big Apple NY)

人員削減が多かったセクターのランキングは、単月で以下の通り。

1位 テクノロジー 4,044人
2位 自動車 2,918人
3位 ヘルスケア 2,373人
4位 教育 1,812人
5位 フィンテック 1,619人

人員削減が多かったセクターのランキングは、年初来で以下の通り。

1位 ヘルスケア 18,301人、前年同期は11,656人
2位 サービス 9,297人、前年同期は16,608人
3位 金融 8,788人 前年同期は15,193人
4位 娯楽 7,523人 前年同期は11,848人
5位 倉庫 5,424人 前年同期は9,397人

5月までの州別動向は年初来で以下の通りで、4位までは人口別でのトップ5に入る州が並んだ。

1位 カリフォルニア州 3,455人 前年同期は25,237人
2位 ニューヨーク州 2,020人 前年同期は7,439人
3位 ペンシルベニア州 1,908人 前年同期は5,072人
4位 フロリダ州 1,293人 前年同期は7,155人
5位 ウィスコンシン州 1,080人 前年同期は1,169人

リストラ実施の理由別ランキングは、前月比で以下の通り。供給制約の深刻化もあった強まるインフレ圧力が影響したのか、コスト削減が1位となった。

1位 コスト削減 8,782人
2位 理由不明 4,895人
3位 閉鎖 2,509人
4位 再編 1,720人
5位 契約切れ 1,635人

リストラ実施の理由別ランキングは、年初来で以下の通り。

1位 閉鎖 22,169人
2位 理由不明 19,717人
3位 市場動向 13,748人
4位 コスト削減 12,430人
5位 ワクチン拒否 12,430人

採用予定数は5月に前年同月比26.0%増の12万6,083人だった。前月比でも42.3%増となり、そろって3ヵ月ぶりに増加した。年初来では、前年同期比38.7%増の61万2,686人となった。

チャート:5月の採用予定者数、年初来で2番目の強い伸び

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(作成:My Big Apple NY)

セクター別では、単月で以下の通り。小売や金融、娯楽など対面サービスの業種で目立った。

1位 小売 102,030人
2位 金乳 12,000人
3位 娯楽 6,410人
4位 テクノロジー 1,165人
5位 資本財 774人

採用予定数は、引き続き人員削減予定数を上回った。

チャート:採用予定数は年初から人員削減予定数を大幅に超える

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(作成:My Big Apple NY)

▽米新規失業保険申請件数、3週間で2回目の減少

5月28日週までの米新規失業保険申請件数は20.0万件と、市場予想の21万件を下回った。前週の21.1万件(21.0万件から上方修正値)以下となり、過去3週間で2回目の減少となった。

5月21日週までの継続受給者数は130.9万人と、前週の134.3万人(修正値)を下回った。前週こそ増加したが、再び減少トレンドに回帰した。

失業者に占める被保険者の割合は0.9%と、5月14日週に記録した過去最低に並んだ。

チャート:米新規失業保険申請件数は、約1ヵ月ぶりの水準へ減少

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(作成:My Big Apple NY)

――米新規失業保険申請件数は低水準を維持しましたが、米5月ADP全国雇用者数と米5月人員削減予定数には、”労働市場の分岐”が確認できます。米5月ADP全国雇用者数は民間就業者数の伸びが鈍化し、特に専門サービスは20年5月以降、25ヵ月連続で増加したなかで過去2番目に低い伸びにとどまりました。また、建設は15ヵ月ぶりに減少していましたよね?

米5月人員削減予定数をみると、4業種すなわちテクノロジーを始めフィンテック、建設、自動車が急増していました。この中で、テクノロジー採用予定数がトップ5に入ったとはいえ、人員削減予定数の4,044人には届かず。経済活動の政情かだけでなく、Fedの金融引き締めの影響がじわじわ効き始めたと受け止められます。しかも、テクノロジーは6月2日にマイクロソフトがドル高を理由に4~6月期(Q4)見通しを引き下げるなど、悪材料がまたひとつ増えました。経済活動が正常化するなかでパンデミック下での恩恵剥落、Fedの金融引き締め、金利上昇とドル高、インフレ高進、供給制約の打撃が走る業種で、採用活動が伸び悩む兆しが出てきたと言えるでしょう。

実際、足元でテクノロジー企業を中心に人員削減、採用人数の削減を発表する企業が増加しています。航空会社や娯楽・宿泊などが採用を活発化している動きと正反対です。

チャート:人員削減、採用人数の削減を発表した企業一覧

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(作成:My Big Apple NY)

パウエルFRB議長がいうインフレ減速の代償の「痛み」、即ち失業率の上昇や景気減速の兆しなのかを確認する上では、まず米5月雇用統計での平均時給の上昇率が、ひとつの試金石となるでしょう。

Chris Mat/iStock


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2022年6月2日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。