時事通信のWebサイトを開いて国際記事を追っていると、列車事故を報じるニュースが多いことに気が付いた。ただし、統計に裏付けられたというより、当方が感じた印象であることを断っておく。以下、時事通信の列車事故報道記事を見る。(記事内容は時事記事をほぼそのまま紹介した)
ドイツ鉄道の快速列車の脱線事故
ドイツ南部バイエルン州ガルミッシュパルテンキルヘン近郊で3日、ドイツ鉄道の快速列車が脱線するという事故が発生し、5日時点で死者は計5人、重軽傷者は40人を超える大事故となった。
4日夜のニュース番組ではバイエルン州のマルクス・ゼーダー首相が現地を視察し、事故の原因調査に乗り出していることを明らかにしていた。5日には横転していた車両の一部が、クレーン(重機)で撤去されていた。事故当時、約140人の乗客がいたという、時速100キロのスピードでミュンヘン方法に向けて走行中だった。乗客には多数の子供がいたという。ゼーダー首相は、「休暇が始まる時期だっただけに、事故を聞いてショックを受けた」と述べていた。
同じ日の3日、隣国スロバキア北部で機関車が線路上に止まっていた列車に突っ込み、数十人が負傷した。地元警察の発表によると、「救急隊が74人を手当てし、うち34人は近くの病院に搬送された。このうち4人は重傷だ」という。
当方が住むオーストリアでも先月9日、首都ウィーン近郊で列車が脱線し、1人が死亡、12人が負傷した。地元メディアによると、事故はウィーン南郊のニーダーエスタライヒ州ミュンヘンドルフで発生。約100人を乗せた列車の客車2両が脱線し、うち1両が横転した。脱線の原因は不明だ。
欧州ではないが、中国南西部の貴州省で4日午前10時半ごろ、高速鉄道が脱線する事故があり、中国中央テレビによると、運転士1人が死亡し、少なくとも8人が負傷した。列車が線路に入り込んだ土砂と接触したことが原因という。
短期間に列車事故が頻繁に起きているわけだ。列車の移動は時間はかかるが、安全な公共交通機関と一般には受け取られている。その列車が脱線事故を頻繁に起こすと、「列車は安全」とは言えなくなってきたのを感じる。
乗り放題の通称9ユーロチケット
ところで、ドイツでは今月1日から通称9ユーロチケット(日本円で約1240円)の販売を開始したばかりだ。9ユーロチケットを買えば、地下鉄、バス、路面電車など乗り放題だ。6月から8月末までのバケーション期間だけに有効だ。長距離列車や高速バスを除けば全ての公共交通機関を利用できるのでかなり割安だ。
ドイツ民間ニュース放送N-tvによると、「夏季休暇を前に多くの国民が9ユーロチケットを購入している」という。ドイツ連邦鉄道関係者によると、既に700万人以上の国民がチケットを購入したという。ドイツ鉄道関係者は9ユーロチケットの反響の大きさに驚く一方、観光シーズン入りすれば、週末の9ユーロチケットの旅行者が列車に殺到する可能性があるだけに、「9ユーロチケットの乗客は列車が混まない時間帯に利用するようにしてほしい」とアピールしているほどだ。
ガソリンなど燃料価格の高騰で自動車の利用者にはコスト高だ。そこでドイツ鉄道は環境に優しい列車の利用をアピールし、航空機に比べて乗客1人当たりの二酸化炭素(CO2)排出量を10分の1未満に抑えることができると宣伝している。
列車を見直しする国民が増えてきたが、ここにきて夜行列車が復活し、人気を呼んできたという。ウィーン・パリ間を結ぶ夜行列車が再開したばかりだ。ウィーンで昨年12月13日、パリとの間を結ぶ夜行列車が14年ぶりに運行を再開したばかりだ。
当方は1990年代、ウィーン・パリ間の夜行列車を利用したことがある。ウィーンの午後6時ころ列車に乗り、翌日の午前中にパリに到着した。飛行機での移動とは違い、乗っている時間は長いが、出入国のコントロールや手続きは簡単で、非常に快適な列車の旅だったことを思い出す。
ウィーン・パリ間の再開に先立ち、ウィーンと欧州連合(EU)の本部があるベルギーの首都ブリュッセルへ向かう夜行列車が2020年1月19日、16年ぶりに既に運行を開始した。オーストリアのゲヴェッスラー環境相がブリュッセルの会合に参加するために空路ではなく、ウィーンから夜行列車に乗ってブリュッセル入りし、列車の利用が環境保護にとって大切であることを実演していた。
新型コロナウイルスのパンデミックがようやく沈静化し、コロナ規制も全面的に解除されたこともあって、欧州では2年半ぶりにバケーションのシーズンを迎えてきた。日本のメディアによれば、「GO TOトラベル」の再開が協議され出しているという。それだけに、列車事故の多発は列車を利用する人々に不安を与える。
欧州の場合、列車事故は長距離列車ではなく、主にロカール線で起きている。鉄道関係者の安全運行対策の徹底が必要となる。列車移動の良さが見直され出した矢先だけに、列車事故のニュースがその流れに水を差さないことを願う。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年6月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。