消費の二極化、景気は本当に回復しているのか?:上期ヒット商品番付に見る惨状

アメリカの消費関連の代表的銘柄、ターゲット社が抱え込んだ在庫を処分し、第2四半期の目標利益率を5.3%から2%に下げると発表し、株価に影響しています。5月17日に発表した第1四半期は投資家を裏切り、4月につけた高値からは株価は4割も下落しています。

市場には経済見通しについて様々な声が飛び交っています。比較的弱気なのが企業経営者、一方、強気なのはFRBや政府関係者です。明らかに言えるのは現在の物価高についていけるグループと脱落したグループに分類できることでしょう。

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2008年のリーマンショックの直後、私はこのブログでアメリカは100均が大ブームになる、と申し上げました。事実その通りとなりました。経済学的に人々は一度身についた消費癖は直しにくい、ということが証明されており、お金の入りが減ったり物価が高くなっても今までのペースでお金を使うことを止められないのです。

これはコロナの間にバラマキをした政府部門がもたらす最大の副作用となるでしょう。家計部門、つまり個人のお財布の管理と価値観は100人100様であり、コロナ支援金を即座に使ってしまった人から大事に貯金した人までいます。一般的には物価高に対して給与の上昇率がついて行っていないため、消費ペースを落とせなければ家計部門の貯蓄の取り崩しが起きるか、貯金できる金額が減っているのは自明です。この状況を映し出しているのが消費者の小口ローンの急増であります。それはクレジットカードローンという何の審査もない麻薬のようなローンであります。

アメリカの家計債務残高は今年の1-3月期で7四半期連続の過去最大、住宅ローンは12四半期過去最大を更新しており、なければ借りるという状況が続いています。一部の専門家からはこのバブルが飛べば過去に類を見ない不況が訪れるとする声もありますが、現状、ほとんど話題になりません。むしろ、FRBはこの景気が続くなら9月も0.50%の利上げを排除しないというタカ派発言まで飛び出しており、一体何が本当なのか、さっぱり読めないというのが個人的感想です。

それでもおまえはどう思うのか何か述べよと言われれば、ポストコロナのしわが伸びるまで紆余曲折が続き、バブル崩壊でもないし、金利が果てしなく上がるわけでもないところに着地するとは思っています。但し、2020年代を、テクノロジーを背景にした新しい時代と称するのですが、少なくとも2025年ぐらいまでは一般消費者がそれを実感することはないだろうとみています。

理由はテクノロジーのハード部分を担う半導体があまりにも不足しすぎており、企業が素晴らしい技術の製品や自動車、精密機器をいくら新発売してもそれは幻と化し、我々の目の前にお目見えするのは数年先という現実が待ち構えているからです。とすれば消費は結局、消極的なもので既存の製品に向かうしかなく、経済はしばし低迷ないし沈滞するとみる方がより保守的な見通しではないかと思います。

それと戦時下であるという不安要素は新たな技術を求めて知能を集結するといった革新的行動よりより保守的になりやすく、残念ながらそのあたりもハイテクに対する期待感が若干剥離している理由でありましょう。

日本に目を向けましょう。日経MJ上期ヒット商品番付が発表になりました。この番付は過去も経済、景気の現状と先行きを占う上でしばしば参照されるデータです。それによると東の横綱が「値上げ消費」、西の横綱が「リベンジ旅行」となっています。「値上げ消費」のワーディングが悪いので何を意味しているのかパッと理解できないと思いますが、要は「様々な値上げに対抗する消費者の涙ぐましい努力」ということです。リベンジ旅行と合わせて見ればこの傾向、アメリカのそれと何ら変わらないのです。つまり、日々の生活では防衛策を取らざるを得ないものの過去2年以上のコロナ制約から解放されたい気持で「パーッと行こう」的な「打ち上げ花火消費」という一見背反するような状態が起きているわけです。

では番付の横綱以下に何があるか、といえば申し訳ないのですが、さっぱりわからないものばかりでした。あるいは知っていても「それが流行っているのか」と思わず耳を疑うものです。大関は「ノンアル生活」「メタバース」、関脇が「次世代自販機」「平成ギャル文化」でここから先は目を覆うほどの内容で編集部はさぞかし苦労したのだろうと思います。つまり、この半年、ほぼ何も生まれていないのです。これもアメリカと同じ。トンネルの出口に来てみたらそこは物価高の世界だったわけです。消費者は右往左往している、これが私の見るところです。

ところで日本人は海外旅行に復活できるのか、という点も個人的には興味があります。現時点では100メートル障害物競走のような状態です。まず、航空機が取れません。日本入国の枠以上に成田などをトランジットで使う客で日本人のための飛行機の席が確保できないのです。二つ目にこの2年半の間に生まれた物価ギャップです。ホテルや外食はどの国でも目が飛び出てしまいます。3つ目はこの円安で余計にそれが増幅されている点です。ズバリ申し上げると海外旅行に出来る人は裕福ではないと無理な時代に再び戻ってしまう気がしています。学生や社会人が休みや連休を利用してお手軽海外旅行は当面お預けではないかと思います。

洋の東西を問わず、一般市民レベルで見ると今の状態は「生活防衛」そのものではないかと思っています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年6月8日の記事より転載させていただきました。