原油価格の高騰。原材料価格の上昇。そして円安。値上げ報道が続きます。そんな中、注目されているのが、100均ショップ(以下100均)の動向です。
「この値上げラッシュの中、100均は存続できるのか?」
残念ながら、難しいでしょう。もはや、100円という価格は、100均にとって安すぎる売価になりつつあります。一方、消費者にとって100円は最安値ではありません。企業と消費者のベクトルが逆なのです。
今後、100均は、一部「100円均一ショップ」として残るものの、多くは、均一価格から複数価格へ。100円均一ショップから「低価格生活雑貨店」へ。無印良品やKEYUKAに近い業態に変容していくものと思われます。
100均の今後について考察します。
100均は安くない
消費者は、以前より価格に敏感になりました。
「チューブのわさびや生姜は100均で買う」。かつての節約術のひとつでした。今は異なります。もはや、100均は最安値の店ではない。いや100均で買うと損をする。
「スーパーのプライベートブランドだと95円」
「いや、特売日だとナショナルブランドでも80円以下!」
「大きいチューブの方が割安…いや、業務用スーパーのほうがいいかな…」など、
・買う場所を変える(より安い店を熱心に探す)
・買う量を変える(大容量や箱買いで価格を抑える)
といった、マメな人しかやらなかった節約術が、一般消費者へ浸透する。100均で買うのは、安いと感じる商品、すなわち100均にとって儲からない商品だけ。それ以外は、より安いスーパーなどを利用する。100均の客単価・購買頻度は低下し、売上が減少します。加えて、仕入価格(売上原価)が上昇するため、100均の利益は大幅に減ることになります。
100均は100円では利益が出ない
100均の売上を費用と利益に分解すると、おおむね
「売上原価(仕入価格):60% 販管費:35% 営業利益:5%」
となります。売上原価・販管費が多く、利益が非常に少ない。「meets」や「watts」を運営する株式会社ワッツ(以下ワッツ)の場合、売上原価(仕入価格)が6%上がると営業赤字に陥ります(※1)。
一方、国内企業物価指数の上げ幅は、前年同月比プラス10%(※2)。この仕入価格の増加を、値上げすることなく吸収するのは困難です。
よって、100均大手4社(ダイソー、セリア、キャンドゥ、ワッツ)中、3社は値上げに踏み切っています。
ご存知の通り、100均の商品価格は「100円均一」ではありません。100円を超える価格の商品が店内で目立つようになりました。この傾向が、より強まることでしょう。300円や500円を中心価格帯とする新業態も生まれています。
ダイソー(株式会社大創産業 以下ダイソー)は、300円を中心価格帯とする新業態「Standard Products」と「THREEPPY」を、ワッツは、雑貨を主軸とする新業態「Tokino:ne(ときのね)」を展開しています。
今後、100均は、お手頃価格の生活雑貨店へと業態変容することでしょう。キッチン用品やテーブル用品など比較的安価な商品では、無印良品やKEYUKAなどと競合する可能性があります。
セリアは100円均一維持を明言
100均の大手4社中、唯一「100円均一維持」を明言しているのが、「seria」を展開する株式会社セリア(以下セリア)です。セリアは有価証券報告書(2021年6月発表)にて、以下のように述べています。
同業他社は、100円を超える価格の商品の取り扱いを開始、拡充する動きを見せており、当社は「100円商品に特化する」ことで、100円商品の「シェア獲得の好機」と考えております
(第34期 有価証券報告書 2021年6月24日)
ポイントは
1.「100円商品に特化する」(=他社の逆張り)
2.「シェア獲得の好機」(=店舗を増やす)
のふたつです。最初に 1.「100円商品に特化する」について考えます。
キャンドゥの10倍、ワッツの3倍超の利益率
この、強気の意思決定の背景には、高い利益率があります。
さきに、100均の利益構成を述べました。セリアと他社を詳しく比較すると、セリアには余裕があることがわかります。
キャンドゥ:「売上原価:62% 販管費:37% 営業利益:1%」
ワッツ:「売上原価:62% 販管費:35% 営業利益:3%」
セリア:「売上原価:57% 販管費:33% 営業利益:10%」
セリアの利益率は、他社より大幅に高い。仮に原価が18%アップしても、営業黒字を維持できる計算になります(※3)。セリアは他社よりも、原材料費上昇に耐性がある、と言えます。
なぜ、セリアは利益率が高いのか。
要因のひとつは、「食べ物を売らないこと」です。
セリアの大半の店舗は「飲食品」を扱っていません。利益率が低い食品をラインナップから除外することで、全体の利益率を向上させています。
もうひとつの要因は、「商品をメーカーと共同開発していること」です。
完成品を仕入れ販売する他社と異なり、セリアは商品の多くをメーカーと共同開発します。開発という製造の上流工程に踏み込む。そのことにより、「100円で売るための」原材料を採用する、などコスト管理を行いやすくしているのです。
100円均一維持のメリット
次に、2.「シェア獲得の好機」について。
100円均一ショップは、ショッピングモールやデパートなどの商業施設への出店、いわゆる「インショップ出店」が行いやすい業種です。集客力があるため、商業施設から歓迎されるからです。
セリアが「唯一の100円均一ショップ」となった場合、競合他社の「300円・500円ショップ」を出し抜き、店舗数を大幅に増やす可能性があります。
商品アイテム減少のリスク
しかし、店舗数の増加が、そのまま「シェア」拡大につながるとは限りません。1店舗当たり売上が減る可能性があるからです。セリア代表取締役社長 河合映司氏は、日経ビジネスの取材で、以下のように述べています。
「価格は100円と決めて、それを達成できる協業先を探している」
100円ショップ大手が高価格帯商品 広がる「脱100円」、もろ刃の剣 (2ページ目)|日経ビジネス電子版
セリアの取り扱いアイテム数は、20,000点。これを月に500~700品目入れ替えます。これを支えているのが、共同開発する「協業先」です。
原材料費高騰の中、この協業先を確保できるか。万一、確保できない場合、新商品開発のペースが遅くなる。アイテム数が減少する。伴い、店舗あたり売上が減少する。店舗数は増えたのに、売上はあまり増えない。そういった事態も起こり得るのです。
セリアが、シェアを伸ばすには協業先確保が課題となるでしょう。
強靭になることを期待
様々なものが値上がりする中で、100円という低価格を維持してきた100均。今後、価格が100円を超えるようになっても、高いパフォーマンスが求められることに違いはありません。原材料費高騰という逆境を乗り越え、100均がより強靭になることを期待したいと思います。
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※1 2021年8月決算値より算出
※2 2022年4月値 日銀 2022年5月16日発表
※3 セリア有価証券報告書2021年3月31日にて試算