未だに日本がシンガポールよりも軍事技術で優勢があると思いこんでいる人がなんと多いことか。
岸田文雄首相は11日、訪問先のシンガポールでリー・シェンロン首相と会談した。防衛装備品・技術移転協定の締結に向けた交渉開始で合意した。同協定は日本から防衛装備品を輸出するために必要になる。
日本政府は2014年に「防衛装備移転三原則」を定めた。日本の安全保障に資する場合などの一定の条件下で防衛装備品の輸出を認めるようにした。
それ以降の完成品の輸出契約はフィリピンへの警戒管制レーダー1件だけで、国内企業による防衛産業からの撤退も相次ぐ。協定を結ぶ各国への輸出促進を急ぐ。
この記事読むと、「日本の進んだ防衛装備と技術をシンガポールに輸出する」というふうに読めますが、それはありません。
日本のような軍事技術後進国がシンガポールに輸出できるものがあると思うのは傲慢だし、夜郎自大です。既に我が国は軍事技術では途上国、それ以下です。
こんなことは世界の見本市に3年も行っていればバカにでも分かる話ですが、自民党の国防部会の先生方はそういう認識はないでしょう。
小火器、火砲、装甲車両、サブシステムなど多くの分野でシンガポールの軍事技術は日本を既に凌駕しています。英国はじめ多くの先進国がシンガポール製装備を調達しています。
わざわざ国際市場の数倍の値段で性能、品質の怪しげな日本製装備を買う必要はありません。買うならば欧米やトルコ、イスラエル、南ア、韓国あたりからいくらでも調達ができます。
火砲で需要があるならば日本製鋼所のつくる砲身ぐらいでしょう。あれは精度が高い。ですが同社の火砲をシステムとしてみた場合、性能には大変疑問があります。
あとは特殊車両や装甲車のベースとしてトヨタのランクルやらハイラックなど、SONYの光学センサーなどですが、既に汎用品として輸出されております。純粋に軍事用装備で売れるものは殆どないでしょう。
やるとした共同開発に乗っかるぐらいでしょう。
「防衛装備移転三原則」にしても文面からは日本の優れた装備や技術を、条件が合えば出してやる、という傲慢さがにじみ出ています。オフセットの体制も整っていない国に潜水艦とか、大物の輸出ができるわけがないでしょう。
いわゆる武士の商法です。世界の現実をみずに、国内で褒めあっているのは喜劇でしかありません。
可能性があるとするならば、共同開発、それもシンガポールの下請けとして、両国で採用する装備を共同生産してコストを下げて、輸出も行う、というぐらいではないでしょうか?
【本日の市ヶ谷の噂】
三菱重工の言うことを聞かずに、陸幕、装備庁が軽量化のために10式戦車の転輪を一個減らしたために、履帯離脱が頻繁に発生する以外にも、接地圧が高くなって不整地走行性能が低下して現場では不評、との噂。
編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2022年6月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。