大手企業と零細企業、それぞれのつき合い方:零細で大丈夫でも大手になるとダメな理由

私はゼネコンに20年間在籍したのですが、本社にいた約3年半は企業経営とその判断プロセスを学ぶのに大変重要な意味を持った期間でした。当時は稟議書は手書きで急ぐ案件や重要案件は手回しが原則でした。私の担当案件は金額的にも時間的にも超特急ものが多く、社内の説明に駆けずり回る日々だったのをよく覚えています。財務部長なんて「またお前か?」と機嫌が悪い時は相手にすらしてもらえないところを無理やり説得してハンコをもらうなんていうことをしました。

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ただ、私が担当していた特殊案件は致し方ないとして、稟議は基本的には自動回覧制ですので起案してから社長なり会長までの決裁が取れるまで10日ぐらいかかるのは普通でした。そしてカリスマ会長の会社でしたので稟議とは社長ないし、会長だけが判断するという「事実の報告に長けたまじめな社員」が取り柄の会社となったのです。

その後、会長の秘書を務めた際、「うちの社員、役員は優秀なのだが、俺が怖いのか、判断をしない」とブツブツ言っているのをよく耳にしました。

下から上に議案を上げる場合、まず、そもそもの起案者のとげとげしいアイディアは上に上がるころは概ね丸く穏健な形に仕上がります。関連部署がコメントや修正意見を入れるからです。つまり、現代組織論において普通の意思決定プロセスは異論や異見を経ながら原型からかなり逸脱したものにならざるを得ません。

例外はカリスマ社長、創業社長が自分で決定する場合と企業サイズが小さい場合です。後者の場合、根回しや異論へのハードルが低かったり、トップの影響力で「社長がそういうならしょうがない」という討論諦め型が生じるからでしょう。

ではお題の大手企業と零細企業、それぞれのつき合い方ですが、私は「無理強いをしない」のなら大手と付き合っていれば安心安全安定の3Aは確保できると思います。大手と付き合うのは入口のハードルが異様に高いのですが、いったん入るとあとはとても大事にしてくれます。他方、零細企業は一発勝負には向いていると思います。

最近、こちらで仕事をしていて思うのは零細だった企業が買収され準大手になり、そのうち、その会社も買収され、大手になるような二段階買収案件が増えているのです。担当者は同じでも小さな会社の時はOKだったことが大手の看板になると突然コンサバになります。理由はライアビリティ・リスクです。つまり、こんなことをしてトラブルになった場合、会社としてのリスクが大きくなる、というわけです。こうなると石橋を叩いて事業を進める手法になりやすく、コストは増大し、事業をする側は目も当てられなくなります。

零細企業で大丈夫でも大手になるとダメ、というのは概ね手法や作業プランは問題ないはずですが、あくまでもコーポレートポリシー、特にリスクマネージメントが邪魔をします。よって私は自分が新たに何かする場合には事業の目的とスピード感などを勘案したうえで大手が関与すべき事業なのか、小規模の会社とやり取りして問題はないのか、判断するようにしています。

例えば弁護士はよほど困難な案件ではない限り著名弁護士を高価な金額で雇う意味はないでしょう。会計士の場合、自分の事業が街中で数店舗しかやっていないのに大手会計事務所にサービスをお願いする意味はありません。ウェブサイトの制作をお願いするのに著名なマーケティング会社に依頼すればいくら取られるかわかりません。

多くのお勤めの方は会社の取引先を評価し、見直すということをしないと思います。長年付き合っている「なあなあの関係」を重視します。故に3A取引なのです。が、私の会社では取引先は一定頻度で変わります。それは担当が代わったり会社のポリシーが代わり、私の評価が変わることが引き金になることもあります。それ以上に新しい取引先は新しいアイディアを提示し、ディールを持ち込み、一生懸命対応してくれます。

では大手企業は融通が利かないのか、といえば大手故の懐の深さからびっくりするようなディールを提示してもらえることはあります。つまり、表向きとは全く違う特別条件というのは常に存在しており、仮に零細企業でもそれを引き出せるかどうかがビジネスパーソンの能力ともいえそうです。

こんな条件を引き出す方法はオンラインミーティングでは100回やってもダメだと思います。本当にリアルに会ってお互いの信頼関係を構築することが第一歩です。これは大手も零細企業も同じです。ビジネスがオートマティックに展開するようなドライな社会はあるけれど顧客の忠誠心やチームの結束力も薄いということではないでしょうか?

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年6月15日の記事より転載させていただきました。