ウクライナのEU加盟候補国入りか:EUの4カ国首脳がキーウを訪問

欧州連合(EU)欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長は17日、ブリュッセルでウクライナとモルドバの2カ国を加盟候補国に認定する旨を加盟国に勧告した意見書を明らかにした。それを受け、27カ国の加盟国はその是非を検討し、今月23日から始まるEU首脳会談で最終決定が下される運びとなる。

ウクライナとモルドバ両国の加盟候補国入りを推奨するフォンデアライエン委員長(独民間ニュース専門番組ntvの中堅放送から、2022年6月17日)

キーウで記者会見する欧州4カ国首脳とゼレンスキー大統領(ショルツ首相公式ツイッターから、2022年6月16日)

EUの4カ国首脳が列車でウクライナの首都キーウを訪問

それに先立ち、EUの4カ国首脳(独仏伊ルーマニア)が16日、列車でウクライナの首都キーウを訪問し、ゼレンスキー大統領と会談。ショルツ独首相は記者会見で「ウクライナはヨーロッパの家族の一員だ」と強調し、ウクライナのEU加盟候補国のステイタスを支持すると主張した。フランスのマクロン大統領、イタリアのドラギ首相、ルーマニアのヨハニスイ大統領も同様、ウクライナの加盟候補国の地位に同意を表明したことから、ウクライナの加盟候補国入りはほぼ確実と受け取られている。

ウクライナは2月24日のロシア軍の侵攻を受けて北大西洋条約機構(NATO)の加盟を模索したが、米国やNATO加盟国はロシアとの軍事衝突を回避するために加盟申請を拒否した。それだけに、「ウクライナにEU加盟の道を提示して、国民を鼓舞する必要性がある」(ショルツ首相)というコンセンサスがEU加盟国内では生まれてきている。ゼレンスキー大統領は、「今日はウクライナにとって歴史的な日となった」と、欧州4カ国の首脳の加盟候補国入りの支持を喜んだ。

加盟候補国入りは正式加盟への第一歩に過ぎず、その後、長い加盟交渉が待っている。加盟候補国入りしても加盟交渉が始まらず、トルコのように長い年月、ウェィティング・ルーム(待合室)に待機している候補国もある。

加盟候補国入りは本来、領土問題を抱えている国は除去される。ウクライナの場合、2014年のクリミア半島のロシア併合とウクライナ東部の親ロシア分離主義地域問題を抱えている。ウクライナで蔓延している汚職と法の支配の欠如も大きな障害だ。欧州会計監査院は昨年9月、「大規模な腐敗問題を抱え、オリガルヒ、高官、政治家、司法および国営企業の間でも汚職、派閥争いが絶えない」と指摘していた。

加盟交渉が始まれば、加盟候補国は、35章からなるEU法の総体系を全て受諾し、国内法にする必要がある。加盟候補国は「法の支配の欠如」と「民主主義の深刻な欠陥」、「犯罪ネットワークの拡大」、「経済問題」などの諸問題への解決の道を明確にしない限り、加盟交渉は完了しない。

ショルツ首相が指摘していたように、4000万人以上の国民を有するウクライナのような大国がEUに参加した場合、ブリュッセルからの送金や欧州議会の各国の投票の重みにも大きな影響を及ぼすことは必至だ。マクロン大統領が、「新規加盟問題を決定する前に、EUの機関の改革が急務だ」という主張はもっともだ。

EU加盟を願う国の長い列

ちなみに、EU加盟を願う国の列は長い。先述したように、トルコは1999年に加盟候補国入りしたが、その後の加盟交渉は進展していない。加盟交渉が控えている候補国はトルコのほか、モンテネグロ、セルビア、アルバニア、北マケドニアで、潜在的加盟候補国はボスニアヘルツェゴビナとコソボの2カ国だ。

加盟プロセスでは、加盟国と候補国との間で問題が生じることがある。例えば、ブルガリアは北マケドニアの少数民族政策に抗議して同国の加盟交渉開始をボイコットしている。セルビアとコソボは民族対立がくすぶり続け、セルビアはコソボの主権国家を認知していない。スルプスカ共和国(セルビア人共和国)出身のボスニアのミロラド・ドディク大統領はボスニアからの離脱を脅かし、民族紛争を煽っている、といった具合だ。

ウクライナのEU加盟候補国入りはNATO加盟とは異なるが、欧州統合への重要なステップであることは変わらない。ロシアのプーチン大統領はこれまで、「NATOとEUの相違はない」と指摘し、欧米諸国主導の両機関に対して敵意を露わにしている。メドベージェフ前ロシア首相は15日、「ウクライナは2年後、世界地図に存在しない」と威嚇した。

ウクライナのEU加盟がいつ実現するかは現時点では大きなテーマではない。ウクライナが欧州の統合プロセスに参画する道が開かれたという点が重要だ。独仏伊の欧州主要3カ国がウクライナの候補国入りを支持表明したことで、他の加盟国も欧州委員会の勧告に同意するものと受け取られている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年6月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。