フランス下院選挙にみる不調和:今後の欧州は不安定な時期に

フランスの下院議会で選挙があり、マクロン大統領の与党連合が議席数を101も落とし、過半数を割る大敗北を喫しました。フランスの議会選挙は欧州の今後の展開や混とんとするグローバリズムや優先課題のあり方に一考を投じるとともに日本の参議院選の戦略についても参考にすべき点があるかと思います。

政治や思想に関しては歴史的にフランスは世界を主導してきており、強い個人主義と権利の主張にうるさい国民のボイスと世相の関係からは時代のトレンドを垣間見ることもでき、私は注目しています。民主主義を語らせてもフランスの影響力は非常に強く、日本やアメリカのそれとは異なる発想があります。

その中、今回の与党敗北の伏線はマクロン大統領が好きか、嫌いか、というそもそも論が背景にあったとみています。ご記憶にある方もあるかと思いますが、就任後、黄色いベスト運動で反マクロン氏の声が高まり、支持率は20%台半ばまで落ち込み、そのまま失速するかと思われましたが、その後は持ち直し、40%程度を維持しています。既に大統領2期目に入っており、現在の任期である2027年まで大統領の座に留まることになります。

問題は現在の下院議会が反対派の多いマクロン氏への「追認機関」と化しており、大統領の実質独裁化が進んでいることに対して反マクロン派が立ち上がったとみています。フランスでは極右のルペン氏がしばしば有力大統領候補に挙がってきますが、今回はルペン率いる国民連合が選挙前の8議席から89席への11倍増となりました。また、メランション党首が率いる左派連合は131議席と最大野党を形成しました。

これでフランス下院は左派、中道、右派がそれぞれが強い声を持ちながらも、何処も過半数を持たない形となったのです。当然ながら右派と左派は反マクロンで一部の分野に関しては共同歩調をとることもあり得ます。

今回、国民の声が割れた理由は物価高であることは間違いありません。私は選挙は内政、国内問題が主体で外交はポイントにならず、としばしば申し上げているその通りの結果になっています。そして右派、左派ともに親ロシアというよりNATOへの疑問を持っています。もともとマクロン大統領もウクライナ問題については腰が引けており、「停戦講和」派でありますが、渋々、国際世論に足並みをそろえるふりをするというスタンスにあります。

なぜ、マクロン氏が欧州外交で足並みをそろえる役割を演じなくてはいけないか、といえば今回のウクライナの紛争で欧州の一枚岩に明らかにひびが入ってきているからです。地政学的なスタンスの違いやハンガリー、トルコなどの声が欧州のバランスに不安定感をきたし、それを修正できるような、例えばドイツのメルケル前首相のような強いリーダーシップを持つ人も不在だということです。マクロン氏は消去法的に欧州外交の顔役の一人になっていますが、とてもじゃないが引っ張り切れないというところではないかと思います。

とりもなおさず、国民の声を取りまとめ強いフランスを築くベクトルを形成できなかったことで国民がより自己保身的な姿勢を強めたとみています。それゆえ、バゲットやチーズの価格により敏感になり、ウクライナ問題より赤ワインの確保になっているように見えるのです。近視眼的声が大きくなるということは国民のストレスが溜まってきているということであり、それは外交より内政を重視しないと自らの基盤がより弱体化するともいえるのです。

私は欧州は今後10年ぐらいは不安定な時期に入ってくるとみています。リーダー無き巨大連合EUも理念で押し通せるのか、自国の利害関係がより優先されるのか次第ではその行方すら占うことは難しいかもしれません。

少なくともウクライナ問題は欧州のメンタルの繊細な部分に微妙な亀裂を生んだとみています。ウクライナ問題の終結のさせ方次第ではロシアを相手にしているどころではなく、欧州そのものがぎくしゃくしてしまうことになりかねないとみています。

では今日はこのぐらいで。

エマニュエル・マクロン フランス共和国大統領 同大統領HPより


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年6月21日の記事より転載させていただきました。