プーチン氏の「病」と独製「重火器」:もはや長期化は避けられないウクライナ侵攻

プーチン大統領がロシア軍にウクライナ侵攻命令を出してから今月23日で120日目を迎えた。戦況は、プーチン氏だけではなく、ウクライナ側にとっても予想外の展開となってきた。北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は19日、独メディアとのインタビューの中で、「戦いは長期化が避けられない状況だ」と警告を発している。

C‐17輸送機に搭載される独製自走砲「PzH2000」(ウィキぺディアから)

ロシアとウクライナ両国だけではない。戦争は世界の経済、食糧、エネルギー市場にも大きな影響を与え、程度の差こそあれ、今後の世界の情勢はウクライナ戦争の行方に左右されてきた。

ウクライナ戦争の今後を予測することは難しいが、明確な点は、ウクライナ戦争は「プーチン氏の戦争」であり、その勝敗を左右するのはやはり戦争である以上、「武器」だ。換言すれば、戦争主犯者のプーチン氏の健康状況と欧米同盟国からのウクライナへの重火器供給問題だ。

そこでプーチン氏の健康問題についてはこれまでの情報をまとめ、武器供給問題ではドイツのショルツ政権が公表した武器供給リストを紹介する。

①プーチン大統領の健康問題

独裁者のウラジーミル・プーチン氏の健康問題について、これま多くの憶測が流れてきた。信憑性の高い情報から、首を傾げざるを得ない噂まで多種多様だ。プーチン氏は今月15日から18日まで、自身の出身地サンクトペテルブルクで開催された「国際経済フォーラム」で自身の健康状態について語っている。

プーチン大統領の近影 クレムリンHPより(編集部)

プーチン氏は、「自分は死んだという噂を聞いたことがある」と、生前何度も死亡説が流れた米小説家マーク・トウェインの言葉を引用しながら、「自分の死についての噂はめちゃくちゃ誇張されている」と嘲笑しながら答えている。ただし、プーチン氏は、「自分は完全に健康で、病気ではない」とは述べなかった。

ロシアのウクライナ侵略戦争以来、プーチン氏の健康についての情報は絶えない。ロシア大統領は「がん」に苦しんでいるとか、「パーキンソン病」に罹っているという噂が流れた。もちろん、そのような情報はこれまで確認されていない。ほかにもプーチン氏は背中に問題がある、という情報も流れた、といった具合だ。

信頼性の高い情報としては、2019年11月、プーチン氏は、脊髄専門医と腫瘍学者を含む13人の専門医から構成された医師団の訪問を受けていることだ。耳鼻咽喉科の医師、感染症の専門医、外科医もその中に入っていた。

がんを含む甲状腺疾患は、耳鼻咽喉科医によって最初に診察され、腫瘍学者と外科医の助けを受けて治療されたことがあるという。2020年の夏、プーチン氏はまた、甲状腺がんについて内分泌学の専門家、国立医学研究センターの所長と会っている。

今年10月になれば70歳を迎えるプーチン氏が、がん、脊髄専門医などから治療を受けている可能性は排除できない。ただ、「国際経済フォーラム」や外国要人との会談ビデオを見る限りでは、外形的にははっきりとした症状は見られない、顔が少し膨れ上がってきたように感じる程度だ。アドルフ・ヒトラーと同じように、右手がパーキンソン患者のように震えがみられる、ともいわれている。

②独製重火器供給

ドイツ連邦首相府は、ウクライナへ供給予定、ないしは完了済みの武器の正確な供給リストを初めて公開した。政府スポークスマン、ステフェン・へベストライト氏は、「リストはインターネットで見ることが出来る。リストは絶えず更新される予定だ」と説明、「ウクライナは間もなく緊急に必要な武器を受け取り、それらを迅速に使用できるようにするために引き続き取り組む」という。

リストには「準備中/実装中」を入れ、多数の重火器システムも含まれている。Gepardタイプの約30両の対空戦車、7基の自走砲2000、3基の多連装ロケット砲MARSII(M270)、弾薬、防空システムIRIS-TSLM、砲兵検出レーダーCorbra、10基の対空砲だ。

480万発の手弾、55万3000発の対空戦車弾、1万発の砲弾はこれから供給される。54台の装甲兵員輸送車、80台のトヨタのピックアップ車、22台のトラック、65台の医療品用冷蔵庫も同様だ。

同スポークスマンは、「独連邦政府は米国などの同盟国と連携して適応していく。ウクライナが必要とする限り、ドイツはそれを支持し続けるだろう」と述べている。すなわち、さらなる軍事支援サービスが追加されるわけだ。

そして「連邦政府は、旧ワルシャワ協定の武器と装備をまだ持っている中欧・東欧のパートナー国と協議を行っている。それらの国は保管している旧ソ連製の武器をウクライナに届け、その交換としてドイツからドイツ製の武器システムを受け取ることになる」と説明した。

キーウからの外電によると、ウクライナのレズニコフ国防相は21日、ドイツから供与された自走榴弾砲が配備されたことを明らかにした。同武器は、ウクライナが求めてきた長距離精密兵器だ。

ウクライナ戦争は、プーチン氏の体調で急変があった場合か、欧米同盟国のウクライナへの武器供給が絶えた時、戦況が変わるだろう。プーチン氏が健康を維持し、自身の独自の歴史観を堅持する一方、欧米とウクライナ間の結束が緩んだ場合、戦争はロシア側に傾き、プーチン氏の健康に問題が生じ、欧米同盟国とウクライナの結束が緩まないならば、勝利の女神はウクライナに傾くだろう。

いずれのシナリオでも、ウクライナ戦争が長期化するならば、ロシアとウクライナ両国にはこれまで以上の犠牲者が出て、両国の国力は消耗戦に耐えられなくなる。その結果、両国は“痛み分け”で停戦に向かわざるを得なくなる。現状では、最後のシナリオが現実的だ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年6月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。