私の周りにいるお勤めの方、あるいは職を求める若い方々をみて時々聞いてみたくなることがあります。「あなたはなぜ、この会社で働くのですか?」と。
年層によりその理由と傾向は大きく変わるようです。私が一番安心していられるのはいわゆるリタイアした層が第二の人生を送る中でフルタイムとは言わなくても週に半分ぐらい仕事をしてくれる方でしょうか?一生懸命やってくれる点は日本もカナダも同じなのですが、仕事の内容が違ったりします。カナダでは自分の職歴を通じた得意分野を少しでも生かせるものに高い関心を持ってくれます。一方、日本の場合は職歴にこだわっていると何も仕事が見つからないので全く門戸外のことでもやる方は多いと思います。
日本で時々リタイアが見えてくる年齢の方と話をしていると「どうせ次は工事現場のガードマンとかだろうなぁ」と寂し気に呟くのを聞くとせっかく持てる能力が活用できないのはもったいないな、と思います。ただ、その一方で日本の仕事の仕方、特に今、リタイアを迎えようとする世代はまだ終身雇用が主流でその会社だけで通じる専門的で狭い分野の仕事をしてきています。悪く言えば、歯車の歯車の仕事ですので「あなたのご専門は?」と聞けばほとんどが管理畑で、かつ他の会社で働いたことがないので自分が40年近くやってきたそのやり方以外全く応用が利かないという雇う側からはやりにくさが出てしまうのです。
私が以前勤めていた会社の日本全国の各支店には「社印担当者」がいました。概ね、定年が近い人で会社では「次長」の肩書。あらゆる契約の際には社印が必要なのですが、それを押すだけの仕事です。一日何枚押すのか知りませんが、若い時分「こういう風にはなりたくないな」と思ったものです。
ではミドル層はどうなのでしょうか?正直、家族を持ってしまうと「家庭を守る」という気持ちが強いと思います。「家庭を守る」=「職でへまをせずきちんとこなす」ですのでまじめでよい働きですが、殻を破ることますます難しくなります。もちろん、会社組織で殻を破ることがそもそも困難ではありますが。
20代などの若手組となると自分のなかで葛藤を起こしている人も多いでしょう。「私はこの会社にずっといるべきか?」と。独身故の身軽さもあり、転職も視野に入れます。
アメリカの離職率は現在史上最高水準の3.0%レベル。毎月450万人近い人が「一身上の都合により」離職するわけです。そして1150万から1200万もの求職情報に目が向くのです。アメリカ、カナダに共通する職を代わる理由の一つは「今の会社から自分が吸収できるものがなくなったから」というものです。若い方はとにかくハングリーです。
先日も弊社の新規開発事業で水道工事をしてくれる予定の推定40歳ぐらいの社長と話をしていたら、自分はもともとはレストランで働くために調理学校に行き、レストランで働くもコックほど陽が当たらない職はないと気がつき、バーテンダーをやり、あるきっかけで配管業者になると決め、また学校に行ったと。なるほど、紆余曲折ながらも人生経験がそれなりにあり、話もつい引き込まれる面白さがあるのです。
では日本でこのようなタイプの方がいるのでしょうか?離職理由が「自分と合わない」「会社の雰囲気が悪い」「給与が少ない」といった現状不満足型が多い気がします。それなのに転職してもまた会社務めをする理由は「とりあえずの生活資金が欲しい」。これでは仕事は生活のためという受け身ですからこの人にとっても会社にとっても面白くない結果になる気がするのです。
日本の雇用状況もひっ迫しており、統計の数字としては満足しうるのでしょうが、それが労働への歓びを引き上げているということにはならないかもしれない危惧はあります。
今や先進国においては従業員の扱いは腫れ物に触るようなもので何かあれば「辞めます」といいます。だけど、給与が異様に上がった北米では労働市場の流動性が高いので「どうぞ」と言える業種もあります。案外、困るのは大企業や従業員が一定数いないと困るところ。あるいは業務のキーになる部分を担う人がいないと相当困るようです。当地ならレストランのシェフ、すし職人、美容師…は足りなければオーナーが自分でカバーしなくてはならず、悲鳴が聞こえそうなところも多々あるというのが間近で見る現場の様子であります。
従業員の扱いも時代と共にどんどん変わりますが、正直、とても難しくなった気がします。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年6月23日の記事より転載させていただきました。