アメリカはリセッションに入るのか?:利上げを続ければ経済は壊れる

アメリカがリセッション(景気後退)に入るのか、様々な見方が出ています。今年1-3月のGDPは年率換算1.5%のマイナスでしたが4-6月はプラスに戻るとみられています。(現時点の予想は1.8%程度)アナリストが見ている景気後退時期は23年頃でその確率は半々とされます。

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私の肌感覚でみる限り、FRBが引き続き強気の利上げを継続するなら行き過ぎた引き締めで経済の失速が起こりうるとみています。

まず、足元の物価高の最大要因である原油と国際輸送を見てみます。

原油相場は正直、癖が悪いのです。市場参加者が少ないため、ぶれやすく基準価格の設定が難しく、相場はバイアスがかかりやすくなっています。3-4月に原油価格が高騰したのはウクライナ問題に絡み、ロシアの原油の供給が影響するという拡大解釈でした。原油相場を見ているとわかりやすく言えば主婦の井戸端会議で話が盛り上がるようなイメージが正しいと思います。つまり、実需より噂や逞しい想像話です。

ところが、なんだかんだ言いながらこの井戸端会議にも新鮮さが薄れてきていたところにいよいよアメリカが本腰を入れて原油高対策を打ち出す気配を見て取っています。例えばバイデン大統領はガソリンの免税期間を設定する案を議会に求めています。バイデン氏のサウジアラビアへの訪問も予定されており、何らの成果もない訪問はあり得ないため、一定の実務ベースの交渉が進んでいるとみています。

つまり、原油相場にとってはネガティブで再び相場の居所探しでさまようというのが私の読みです。そもそも需給関係で見れば70㌦台が妥当です。また、ロシアはこの原油高でウハウハの状態でルーブルは対ドルで7年ぶりの高値をつけていることなど誰も信じられないでしょう。これをアメリカが放置できないなら原油価格を下げる方策を打ち出すしかないのです。

次に国際輸送ですが、これは今年秋には落ち着くとされていましたが、私は実際には既に落ち着き始めているとみています。例えば私どものコンテナが数日前バンクーバーに入ったのですが、通関も倉庫への移動も格段に早くなりました。海上待機も短くなっています。また、次の便が間もなく東京港を出るのですがほぼ当初のスケジュール通りですので半年前までスケジュールから1か月遅れというような異様な事態からは脱却しています。

最大の理由がコロナで不足していた港湾労働者が戻ってきており、荷捌きがこなせていること、中国のロックダウンで一時的に北米向けの商品が減って整理がついたのだとみています。またアメリカの小売業者が次々と発表しているように企業在庫が増えすぎており、その調整を行うことも物流改善にはプラスです。多分ですが、消費の落ち込み具合から感謝祭、クリスマス商戦前まで在庫調整が続くとみており、北米路線の物流は当面落ち着くと予想しています。そうなれば貨物運賃も下がりますので物価に対する圧力は下がるでしょう。

原油にしても国際輸送にしてもこの1年はコロナ明けとウクライナ問題、さらに中国のロックダウンで落としどころを見つけられなかった、それゆえに企業は発注を増やし、人材を増やし、いざというときの対応を強化してきたわけです。ところがこれが落ち着けばどうなるか、といえば人はいらないのです。雇い過ぎた人材は「さようなら」をするのが北米の流儀ですので失業率が今以上に引き締まることもなさそうです。

当然ながら賃金上昇圧力は下がります。物価も沈静化する傾向にあるとすればFRBが利上げをやり過ぎることがリセッションへの最大の引き金になりかねないわけです。パウエル議長は22日に上院の銀行委員会で証言を行っていますが、「過去1年間インフレが上向きのサプライズとなっているのは明白であり、一段のサプライズが待ち受けている可能性もある」としています。私は過去1年のサプライズは特殊要因が重なっただけでその問題が今、解決しつつある中、利上げのテンションを上げ続ければ経済は壊れるとみています。

全ては7月に出てくる6月の様々な経済統計次第です。雇用統計、消費者物価指数、小売り販売、住宅販売、自動車販売などが目先の指標になると思います。7月のFOMCはそれらのデータが出たところでの開催ですが、個人的には市場が予想する75bpの利上げは疑問視しています。上げてもせいぜい50bpではないかとみています。仮に75bp引き上げれば景気のブレーキが利きすぎて今年後半から来年前半は大変なことになりかねません。

FRBは「物価高は一時的」といったのを軌道修正し突然強気に転じた経緯があります。もしもFRBがやっぱり強気すぎたと思った時、どう軌道修正するのか、彼らの威信の問題がその背景にあることもまた話をややっこしくしているのだろうと推測しています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年6月24日の記事より転載させていただきました。