マーケットは最悪期を脱して長い夏休みに:ただし今年の秋は要注意

USB紛失で尼崎市住民の情報が漏洩か、と大騒ぎになったものの一日で紛失したカバンが見つかるお騒がせ事件となりました。そもそもを請け負っていたのは東証プライム企業のビプロジーでそこが再委託したもの。結局、自社のみならず取引先社員までの統制ができない上にUSBという無くしやすく感染しやすいものを使っているわけです。これでは情報管理が性善説というか、甘すぎると言わざるを得ません。ましてや酒飲んで路上で寝ていてカバン無くしたなんて世界のびっくり仰天話です。

では今週のつぶやきをお送りします。

最悪期は脱して長い夏休みに

欧米は7-8月は休暇の時期に当たり、大きな経済ニュースも減ることから取引ボリュームも減り、一種の空白地帯に入ります。一般的には株価には悪くない時期でその分、秋に落とし穴に落ちるというケースがしばしば見られます。

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北米市場では先週の大激震の余波が今週も続いていたのですが、明らかに変わったのはハイテク株は底打ちする一方、原油、資源株が大きく調整に入り、注目の中身がそっくり入れ替わっています。私もハイテク株などに打診買いを入れていますが、パフォーマンスは悪くないです。

その中で日本の株式市場はしばし上昇となりそうです。マネーの行き先がないので日本に向かうのが最大の理由。東京市場はあまりにも陽が当たらな過ぎたと思います。指標的にも底で、選挙期間は株は買いなので目先は大丈夫だと思います。

ただ、私は今年の秋を警戒しています。9月のFOMC、ウクライナ情勢、中国共産党大会、アメリカ中間選挙など重要イベントが続々とあり、市場はそのたびにびくつかねばならないとみています。もちろん、悪い情報が出れば急落もあるし、想定外の好材料がでれば暴騰もあるでしょう。年初、私が予想した乱高下の2022年を年後半も演じるということです。

その中で金曜日日経一面の「洋上風力『1社独占』制限」は注目の記事でした。前回三菱商事が次元の違う落札額で全部かっさらったことは風力発電のみならず事業を行う企業にとって衝撃でした。他の業者がまるで排除されたような形となり、日本全体で見た場合、健全な市場形成をしないと経産省と国交省が考えたのでしょうか。

これを日本はGAFAのような巨大な独占企業を作らないと取るのか、前回落札した三菱商事がGAFAになるわけではなく、儲け第一主義の商社に市場のインキュベーション(孵化)を邪魔されたくないという役所の反乱なのか、興味深いところです。

妊娠中絶が出来ないアメリカ

1973年1月、アメリカでは歴史的転換ともされる「ロー対ウエイド判決」で最高裁は7:2の判断で妊娠中絶規制を違憲、つまり中絶は合憲としました。妊娠中絶の可否は宗教的視点が非常に影響します。敬虔なる宗教的思想からすれば妊娠中絶は殺人である、と考えるわけです。

一方でこの裁判の判決もあり自由のアメリカは更に大きく開花したのです。それが良かったのか、これは一概には言えません。麻薬とセックスという闇の問題も抱える一方、不幸な妊娠を救うという道筋も作りました。

それから49年半たった今日、6月24日が再びアメリカの歴史的転換点となります。アメリカ連邦最高裁は半世紀前の判決を6:3で覆します。最高裁判決にリンクする州の法律は多く、全米50州のうち26州がこの判決の影響を直接的に受けることになります。

また当然ながら国外での中絶も起こりうるわけでカナダはこの判決の影響に戦々恐々としています。妊娠中絶の可否が個人の信念をベースにしているものだけにこれを最高裁で縛ることは常に誰かが不満を募らせるということに他なりません。

今回の判決の伏線はトランプ前大統領が最高裁判事に保守派勢力を確保したことであります。これを踏まえるとアメリカの分断は明白となるでしょう。民主主義を標榜するアメリカの試練ともいえます。

一旦下った最高裁の判決はそう簡単に覆せるものではありません。保守的にならざるを得ないアメリカがあるとすれば繁栄の一時代の終わりを告げる予兆となるかもしれません。なんだかんだ言いながらもリベラルで好き勝手やりたい放題を開拓者精神として受け入れてきたのがこの国の良さでもありました。

国の東部と西部では産業構造も全く違いますが、近年の経済成長はリベラル派が築いた西海岸が主導しているのはご存じのとおりです。私が初めてアメリカに行ったのは1981年です。それ以降、私の人生観はすっかり変わりました。が、あれから40年以上たった今、その舵は何処に切られるのか、ボイス オブ アメリカをじっくり聞いてみたいところです。

ウクライナのEU加盟候補国

今週はこの報道が奇妙に引っかかりました。ゼレンスキー大統領は喜んだようですが、加盟したわけではなく、加盟候補国に名を連ねただけです。実際にいつ加盟するかなどは神のみぞ知る話です。

最近加盟したブルガリア、ルーマニア、クロアチアは10-12年かかっています。トルコは1999年に加盟候補国に上がっているので23年も待っているのにまだ入れません。個人的にはウクライナがEUに加盟するには相当の長い道のりがあるとみてよいと思います。

そのハードルには民主主義の確立、経済市場の安定、法制度とその手続き論など様々あります。また財政に関してはユーロという単一通貨の規律のためには財政赤字3%以内、公的債務残高60%以内という具体的縛りもあります。

一方、ウクライナの2022年度のGDP予想はマイナス39%から60%とほぼ崩壊状態にあります。ここまで国家の経済基盤が破壊され、まだその先行きが見えないとすれば経済復興には天文学的な復興支援額が求められます。

もう一つはウクライナの政治的安定であります。数年先のことは闇なのです。プーチン氏やゼレンスキー氏がどうなるか、この戦争の結末がどうなるのか、誰もわからない中、一切の予想をすることは無意味に近いのです。

私には現在彼らがおかれている状況が日本が敗戦濃厚になっても大本営が振り上げるこぶしに惑わされたあの状況が重なるのです。そもそも同国には強い親ロシア派がいること、社会制度思想的にも欧州の主軸たる大陸北西部の国々とは相当違うように見えるのです。とすればこの加盟候補国から加盟に昇格することは藁をもつかむ話のようにすら感じてしまうのです。

後記
今年もこれで半分終わりました。来週は株主総会のピークで東芝が最大の注目になりそうです。どんなドラマが待ち受けているのでしょうか?

今年前半はとにかくいろいろなことがあり過ぎでした。本当の夏休みが欲しいと思っている人が案外多いのかもしれません。私も一週間ぐらい、携帯もなくパソコンもない晴れ渡る無人島で釣り糸でも垂れながら何も考えない充電時間が欲しいです。いやホントですよ。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年6月25日の記事より転載させていただきました。