正教徒プーチン氏は教会を破壊する:敬虔なロシア正教徒を自負する“偽キリスト者”

軍事関連施設と病院、学校など民間公共施設の区別なく、兵士と民間人の区別もなく無差別攻撃を繰り返すロシア軍にとって、歴史的、文化的遺産と高層アパートメントの区別を要求してもダメだろう。

ウクライナの152カ所の文化的遺跡を破壊

パリに本部を置く国連教育科学文化機関(ユネスコ)が23日発表したところによると、「戦争が始まって以来(2022年2月24日)、ウクライナで152カ所の文化的遺跡が部分的または完全に破壊された」という。

文化施設を軍事攻撃から保護する関係者(2022年6月23日、ユネスコ公式サイトから)

具体的には、「ウクライナ軍とロシア軍との戦闘の結果、70の宗教建築物、30の歴史的建造物、18の文化センター、15の記念碑、12の美術館、7つの図書館を含む152カ所の文化施設が部分的または完全に破壊された」というのだ。もちろん、全てがロシア軍によって破壊されたとは断言できないが、壊された施設は全てウクライナ領土内にあるものだ。

文化的施設への破壊行為は国際法違反

ユネスコのオードレ・アズレ事務局長は、「ウクライナの文化的遺跡に対する軍事攻撃は止めなければならない。あらゆる形態の文化遺産は、いかなる状況においても攻撃されてはならない。私は、国際人道法、特に武力紛争の際の文化財保護のためのハーグ条約(1954年)の遵守を紛争関係国に求める」と述べている。文化的施設への破壊行為は国際法違反とみなされ、起訴される可能性が出てくるという。

ユネスコによると、文化施設が被害を受けたウクライナ地域で、その4分の3は3カ所の地域に集中している。ドネツク地域で45カ所、ハルキウ地域で40カ所、そして首都キーウ地域で26カ所だ。

ユネスコは戦争が勃発して以来、文化関連施設の破壊防止と緊急措置を行ってきた。現地の文化施設に従事する人々にアドバイスを提供し、移動可能な物体を確保するための避難所を指定し、消防措置を強化してきたという。

世界遺産に登録されているキーウペチェールスク大修道院(ウキィぺディアから)

幸い、これまでのところ、被害を受けた「世界遺産」はない。ウクライナには7カ所が「世界遺産」に登録されている。代表的なものとしては、1990年に「キーウ、聖ソフィア大聖堂と関連する修道院の建物、キーウペチェールスク大修道院」が文化遺産として登録されている。

ユネスコはウクライナ側に文化的施設を戦闘から守るために独特の青い盾のエンブレムでマークするように助言してきた。このマークが記された施設はハーグ条約に基づいて保護されることになっている。

ちなみに、世界遺産の破壊といえば、旧タリバン政権による「バーミヤン遺跡」の破壊を思い出す読者も多いだろう。アフガニスタン中部の山岳地帯にあるバーミヤン遺跡は仏教遺跡群。旧タリバン政権は2001年、イスラム教の教えに反するとして大仏立像2体を破壊したことから、世界から激しい批判の声が出た。その後、ユネスコは2003年、バーミヤン遺跡一帯を世界遺産に登録すると同時に存続が危ぶまれる遺産として「危機遺産」に指定している。

キーウからの情報によると、ロシア軍はウクライナで宗教施設を恣意的に攻撃している。正教会の建物が破壊され、シナゴーグ(ユダヤ教会堂)、イスラム教寺院(モスク)、プロテスタントとカトリック教会の礼拝所が被害を受けている。

敬虔なロシア正教徒を自負するプーチン大統領は自分をキーウの聖ウラジーミルの生まれ変わりと密かに誇り、キリスト教の保護者ぶっている。「キーウ大公国」の聖ウラジーミルは西暦988年、キリスト教に改宗し、ロシアをキリスト教化した人物だ。その生まれ変わりのプーチン大統領が軍に宗教施設の破壊を命じているとしたら、“偽キリスト者”と呼ばれても仕方がないだろう。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年6月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。