先日、クリニックに突然、見知らぬ方から電話がかかってきた。
内容は、
- 次の春から子どもが小学校にあがる。
- 牛乳を飲めない子なので、学校に提出する診断書を書いてほしい
- 他院を受診したが、アレルギー検査が陰性で書いてもらえなかった。
というものだった。たまたまその日は時間があったので、そのまま話をお聞きすることに。
こうした相談ごとを聞くときに私が気をつけているポイントはいくつかあるのだが、今回はタイトルにもある通り、「答えが分かっても安易に提示しない」というコミュニケーションスキルについてお話しようと思う。
ちなみに、「答えを提示しない」以外の大事なポイントは
- 傾聴
- 共感
- 承認
を繰り返しながら相手の真意とその奥にある問題を引き出し、その上で、
- 相談相手の味方になる
ということだ。このことについては『人は家畜になっても生き残る道を選ぶのか? 』に詳しく書いたので、ご一読いただければありがたい。
さて、冒頭の相談の件に戻ろう。この相談を受けて、医師としての回答はすぐに浮かぶ。
- 「乳糖不耐症」は血液検査には出にくい
- そもそも学校給食において診断書は必須ではない
などなど。
ただ、この方の相談の場合、そうした答えをポンと提示することが良策には思えなかった。というのも、そもそもこれらの解決法は通常、「祖父母」や「ママ友」から情報を得られることが多いからだ。この方にはそうした相談できる相手が身近におられないのかもしれない。
私は、傾聴・共感・承認を繰り返していく話の中で必要な情報を少しずつ聞いていった。その中で
- 検査は血液検査のみ
- お子さんは第1子で親として初めての学校
- もちろん、まだ担任の先生も決まっていない
などが分かった。
初めての電話だったので、プライベートなことまではなかなか聞き出せなかったが、やはり「牛乳が飲めない」という相談の裏には「初めての子どもの小学校生活に対する不安」と「それを共有できる仲間の不在」が、見え隠れした。
こちらからは「なるほど〜」「それは大変ですね〜」「とてもよく分かります」など、あいづち程度のお返事をしながら、10分程度電話でお話を聞いた。もちろん、先程あげたような具体的な解決策は提示しないままだ。
実は医師としては、
- 「乳糖不耐症」は血液検査には出にくい
- そもそも学校給食において診断書は必須ではない
などの医学・医療的な情報をスパッと伝えたほうが手っ取り早いし、専門家としての満足度も高い。しかし私は、このケースで本当に大事なものはそこではないような気がした。
本当に大事なのは、
- お母さんの不安に寄り添い
- お母さんが自分で問題を解決していくことを支援すること
のように思えたのだ。
なので私は、
- 私はあなたの味方になるので、いつでも相談して良いこと
- 担任の先生と自分で交渉すること
- 地域の交流の中に身を置くこと
以上のことを伝えたいと思った。具体的な言葉としては、こうだ。
「育児は大変だし、初めての学校はとても不安ですよね。とても良く分かります。医師として最大限の協力をしたいと思いますので、診断書を書いてほしいとか、診察してほしいとか、そいうことはいつでも言ってください、必ず対応します。」
「ただ、今回の場合は一旦学校の担任の先生に『牛乳が飲めない』ということを率直に言ってみてからでもいいのかな、と思います。昔と違って今の先生は、給食を強制することは少ないです。」
「おそらくそうした地域の情報は、学校にあがったら地域の交流の中でたくさん手に入るはずですので、PTAなどにできるだけ参加して、地域の情報を集めてみてください」
医師の診断書は絶対なので、こちらがそれを書いてしまえば先生と交渉する余地はなくなってしまう。また、診断書で解決してしまったら、あえて地域で情報を集めようというモチベーションも失われてしまう。
もちろん、こうした相談ごとは千差万別・ケースバイケースだ。こうした対処法で全てが丸く収まるわけではない。
でも実は「正しい答え」にもまして、その相談の裏にある真の問題を解決するために、あえて「回答を提示しない」という選択肢が必要なときもある、ということは覚えておいて損はないだろう。
さて、本件のその後だが・・・。
実はあれからご本人から連絡がないのでその後のことはわからない。ただ、「診断書を書いて」という電話が来ないところを見ると、いい感じで丸く収まったのではないかな?とも思っている。
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