独カトリック教会、脱会者が急増:教会は何かが壊れているという罪悪感

独ローマ・カトリック教会司教会議(DBK)が27日、ボンで公表した2021年の教会統計によると、35万9338人の信者が昨年、教会から脱会した。22万1390人だった2020年に比べ、教会脱会者が約62.3%と大幅に急増したことが明らかになった。

独カトリック教会司教会議のゲオルク・ベッツィング議長(独カトリック教会司教会議公式サイトから)

ネガティブな新記録

DBKの広報官、マティアス・コップ氏は「ネガティブな新記録だ」と指摘し、DBKのゲオルク・ベッツィング議長は、「教会脱会者の急増は、ドイツの教会(27司教区から構成)が現在、深刻な危機の中にあることを端的に物語っている」と認めている。ちなみに、ドイツのカトリック信者総数は2164万5875でドイツ全体で26%を占める一方、プロテスタント信者数は約1972万人で23.5%。ドイツで新旧両教会の信者総数が50%を初めて下回った。

教会統計をもう少し詳細にみていく。小教区の数は9858から9790に減少した。神父数は1万0313人(2020年1万2565人)、そのうち6215人は教区神父(2020年6303人)だ。そのほか、執事は3253人(同3245人)、神父助手は3198人、教区助手は4318人だ。なお、昨年の司祭叙階の数は62人だった。いずれも担当者数、組織数も縮小してきている。礼拝参加率は昨年4・3%で前年の5・9%よりさらに減少している。

興味深い傾向としては、秘跡を受け取る信者の数は増えているのだ。例えば、教会の結婚式の数が2万0140(2020年:1万1018)、洗礼の数が14万1992(同10万4610)、初聖体の数が15万6574(21年:13万9752)と、それぞれ増加している。教会埋葬件数もわずかだが増加した(2021年24万0040、2020年23万6546)。

教会脱会者の急増の主因

教会に脱会届を提出した信者の脱退動機はさまざまだ。これまで熱心に教会に通っていた信者が教会に足を向けなくなったケースが増えている。正式に脱会していないが潜在的な脱会候補者が多いともいわれているから、教会の実情は統計に出ているより深刻かもしれない。

教会脱会者の急増の主因はやはり聖職者の未成年者への性的虐待問題への影響だ。特に、ケルン大司教内の聖職者の性犯罪、それに対応すべき最高指導者ライナー・ヴェルキ大司教(枢機卿)への批判が絶えなかった。実際、ケルン大司教区だけで昨年4万0772人の信者が脱会した。前年は1万7281人だから脱退者数が2倍強、急増した。

ケルン大司教区で昨年3月18日、同大司教区内で発生した聖職者による未成年者への性的虐待事件の調査報告書が発表された。同大司教区の騒動は、最高指導者ヴェルキ大司教が2017年に実施した調査報告書が「調査方法が十分だ」として公表を避けたことが原因で、同大司教の辞任要求が起き、教会脱会者が急増した。

それを受けて、同大司教は自身が任命した刑事弁護士ビヨルン・ゲルケ氏に調査を依頼し、改めて調査報告書(約800頁)を公表したわけだ。ただ、信者たちの教会指導部への不信感は深く、バチカンはヴェルキ枢機卿に一時聖職を休むように要請せざるを得なくなった経緯がある。

続発する性的虐待事件

それだけではない。昨年5月にはミュンヘン・フライジング大司教区のラインハルト・マルクス枢機卿がフランシスコ教皇宛てに大司教辞任申し出の書簡を送った。同枢機卿の辞任申し出の意図について、さまざま憶測が流れた。

マルクス枢機卿(67)はフランシスコ教皇の信頼を得ている枢機卿顧問会議の1人だ。2012年から20年2月まで、独司教会議議長を務めてきた。その枢機卿が突然、辞任を申し出たのだ。理由は同枢機卿が2007年11月から担当してきたミュンヘン・フライジング大司教区で過去発生した聖職者による未成年者への性的虐待事件に対して「指導者としてその責任を取りたい」というものだった。それに対し、フランシスコ教皇は昨年6月10日、同枢機卿の辞任申し出を受け取らなかった。

マルクス枢機卿が責任を感じた「過去の問題」とは、具体的にはミュンヘン・フライジング大司教区での聖職者の不祥事だが、ベネディクト16世もラッツィンガー時代、1977年に同大司教区の大司教に任命され、81年末までその聖職を務めていたことから、責任追及の矛先が名誉教皇ベネディクト16世に向けられた。

ミュンヘン大司教区が弁護士事務所に調査報告を要請し、その調査報告書が1月20日公表されたばかりだ。その結果、「ベネディクト16世は大司教時代、少なくとも4件、聖職者の性犯罪を知りながら適切に指導しなかった」と批判されている。ベネディクト16世は今月、聖職者の性的虐待事件の犠牲者から責任を追及され、訴訟が起こされた、といった具合だ。

「私たちの教会は何かが壊れている」。これは、イエズス会のアンスガー・ヴィーデンハウスが南ドイツ新聞とのインタビューで述べた言葉だ。聖職者の性犯罪、それを隠ぺいしてきた教会の指導者に対し、「このような教会に所属することは道徳的にも間違っているのではないか」といった罪悪感を抱く信者が増えてきているという。

神はキリスト教初期時代、信者たちが迫害に耐え、結束を堅持するために守りの館として教会を創設したが、教会が神から離れていく時、教会は神への信仰の手助けとなるどころか、障害となってきたからだ。

モーセが60万人のイスラエル人を引き連れ、神が約束したカナンに向かって「出エジプト」したように、多くの敬虔なキリスト者たちは教会という組織から出て、神が本来願われてきた世界を探し出してきた。ただ、どこへ行けば神に出会えるのか、はっきりとしたビジョンがあるわけではない。現代人は、砂漠を彷徨しながら羊飼いを探す羊の群れともいえるわけだ。

ローマ・カトリック教会のミサが行われているドイツ・ケルン大聖堂 Horst Gerlach/iStock


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年6月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。