朝鮮半島有事こそ日本有事だ

潮 匡人

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先月、当欄に寄稿した記事「本当に『台湾有事は日本有事』なのか」のとおり、台湾有事は極東有事であり、必ずしも日本有事になるとは限らない。だが筆力乏しく、相変わらず保守陣営は「台湾有事は日本有事」と合唱している。

しかし、極東有事でありながらも日本有事となる蓋然性が高いのは、台湾有事ではなく、朝鮮半島有事である。以下、その理由を述べる。

まず、1960年1月6日付の「朝鮮議事録」(いわゆる「朝鮮密約」)の存在が挙げられる。

「朝鮮議事録」によると、当時の米マッカーサー駐日大使が「朝鮮半島では、米国の軍隊が直ちに日本から軍事戦闘作戦に着手しなければ、国連軍部隊は停戦協定に違反した武力攻撃を撃退できない事態が生じ得る。そのような例外的な緊急事態が生じた場合、日本における基地を作戦上使用することについて日本政府の見解をうかがいたい」と問いただし、藤山愛一郎外相が、「(以下が)日本政府の立場であることを岸総理からの許可を得て発言する」と、こう述べた。

「在韓国連軍に対する攻撃による緊急事態における例外的措置として、停戦協定の違反による攻撃に対して国連軍の反撃が可能となるように国連統一司令部の下にある在日米軍によって直ちに行う必要がある戦闘作戦行動のために日本の施設・区域を使用され得る(may be used)」

つまり、朝鮮半島有事における国連軍としての戦闘作戦行動は事前協議の対象としない、という密約である。以上の議事録は半世紀にわたり秘密にされてきた。

たとえば2000年8月、この密約について問われた宮澤喜一元首相は、「知りません。これは、『知らない』という返事しかありえないですね」、「外務省も知りません。これは『知らない』ということでなければならない。米国が勝手にどう言っているかは我々の知ることではない」と煙に巻いた(外岡秀俊、本田優、三浦俊章『日米同盟半世紀 安保と密約』朝日新聞社)。

それが2009年9月、岡田克也外相(当時)のリーダーシップのもと、外務省内に「密約」に関する調査チームが設置され、同年11月に有識者委員会が発足(北岡伸一座長)。翌2010年3月9日、岡田外相に提出した報告書のなかで、安保改定時の核兵器持ち込みに関する「密約」と、沖縄返還時の原状回復補償費の肩代わりに関する「密約」について、それぞれ「広義の密約」と認定。安保改定時の朝鮮半島有事における戦闘作戦行動に関する「密約」(朝鮮密約)については「狭義の密約」に該当すると認定された。

なお、この議事録の効力について前出報告書は、「同議事録は、事実上失効したと見てよいであろう」とした一方、「議事録を未解決のままとし、正式に消滅させることはしない」との米政府見解(1974年のリチャード・スナイダー国務次官補代理メモ)も引用されており、「今なおあいまいな部分が残ると考えておく方が無難であろう」。

そう論じた防衛研究所の千々和泰明・主任研究官の「若干戯画的な説明」を借りよう(『戦後日本の安全保障 日米同盟、憲法9条からNSCまで』中公新書)。

仮に今北朝鮮が韓国を攻撃したとしよう。(中略)そこで北朝鮮攻撃のために、一機の米軍機が日本の基地から飛び立ったとしよう。

これに対し日本政府は、岸=ハーター交換公文にもとづいて、「ちょっと待ちなさい!この米軍機の直接戦闘作戦行動は日本政府との事前協議の対象だ!」と制止することができる。

するとこの米軍機は途中でいったん元いた日本の基地に引き返す。そして、機体にペタっと一枚のシールを貼る。(中略)「国連旗」のシールである。そのうえで、この米軍機は再度出撃する。(中略)たったこれだけのちがいで、この米軍機の直接戦闘作戦行動に対し、日本政府は今度は口出しできなくなるのである。

なぜなら、事前協議を定めた日米安保条約にもとづく地位協定とは別に、国連軍地位協定が存在するからである。

朝鮮国連軍は1950年6月25日の朝鮮戦争の勃発に伴い、同月27日の国連安保理決議第83号及び7月7日の同決議第84号に基づき、「武力攻撃を撃退し、かつ、この地域における国際の平和と安全を回復する」ことを目的として翌7月に創設された(同月、朝鮮国連軍司令部が東京に設立)。さらに1953年7月の休戦協定成立を経て、1957年7月に朝鮮国連軍司令部が東京からソウルに移され、我が国に朝鮮国連軍後方司令部が設立された(現在は横田飛行場)。この後方司令部には、豪空軍大佐他3名が常駐しているほか、9か国の駐在武官が連絡将校として在京各国大使館に常駐している。

1951年9月、日本政府は、いわゆる吉田・アチソン交換公文により、サンフランシスコ平和条約の効力発生後も朝鮮国連軍が日本国に滞在することを許し、かつ、容易にする義務を受諾した。1954年6月には、朝鮮国連軍が我が国に滞在する間の権利・義務その他の地位及び待遇を規定する「国連軍地位協定」が締結された。

この国連軍地位協定に基づき、朝鮮国連軍は、「日本国における施設(当該施設の運営のため必要な現存の設備、備品及び定着物を含む。)で、合同会議を通じて合意されるものを使用することができる」(第5条)。

また「合同会議を通じ日本国政府の同意を得て、日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約に基づいてアメリカ合衆国の使用に供せられている施設及び区域を使用することができる」(同前)。具体的には、キャンプ座間、横須賀海軍施設、佐世保海軍施設、横田飛行場、嘉手納飛行場、普天間飛行場、ホワイトビーチ地区の7か所の在日米軍施設・区域(基地)である。

当たり前だが、これら在日米軍基地からの「戦闘作戦行動」を、北朝鮮が見逃すはずがない。緒戦において弾道ミサイルなどで無力化を図るであろう。そうなれば文字どおり「日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃」(安保条約第5条)であり、自動的に日本有事となる。

誰がなんと言おうが、台湾有事ではなく、朝鮮半島有事こそ、日本有事である。