プーチンのG7サミットへの「答え」:最大級の野蛮で非人道的な戦争犯罪

ドイツ南部バイエルン州のエルマウで26日から3日間の日程で先進7カ国首脳会談(G7サミット)が開催された。主要テーマはウクライナ支援問題だ。ロシア軍が2月24日、ウクライナに侵攻して以来、世界の政治、経済、エネルギー分野で大きな影響が出、食料不足、エネルギー価格の高騰などに直面、世界はその対応に苦慮している。それだけに、G7の対応が注目された。

エルマウG7サミットに参加した首脳陣の記念写真(2022年6月26日、首相官邸公式サイトから)

プーチン大統領の回答

ウクライナのゼレンスキー大統領はビデオでG7サミットに参加し、ウクライナへの武器供給、経済支援を要請する一方、ロシアに対して更に厳しい制裁を求めた。一方、ウクライナ戦争の張本人、ロシアのプーチン大統領は、ウクライナを支援し、武器を供給するG7を含む西側に対して黙認はしていない。ちゃんと答えている。具体的には、①核搭載可能な弾道ミサイルのベラルーシへの供給、②キーウ空爆を再開、③ウクライナ中部のショッピングモール空爆だ。

①ロシアのプーチン大統領は25日、サンクトペテルブルクでベラルーシのルカシェンコ大統領と会談し、核弾道搭載可能な弾道ミサイル「イスカンテルM」をベラルーシに数カ月以内に供与すると表明した。プーチン氏はウクライナ侵攻後もウクライナに武器を供給する欧米諸国に対して、必要ならば核兵器を使用する可能性を示唆してきた。

問題は、プーチン氏はベラルーシの独裁者ルカシェンコ大統領に核搭載可能な弾道ミサイルを本当に供給する考えがあるのかだ。ズバリ、ない。プーチン氏の狙いは、ウクライナに重火器を供給する欧米に警告することだ。同盟国、友邦国に対して核関連技術を提供する国は核保有国の中にはないだろう。

政変が起きて、いつ自国に向かうか分からない大量破壊兵器を同盟国に対して提供する国は原則としてないからだ。ベラルーシに対するプーチン氏の立場も同じだ(例えば、日本の場合だ。米軍の核の傘下にあるが、その核は米軍の管理下にある)。プーチン氏の今回の発言はG7サミットに結集している欧米首脳への警告が第一目的だったはずだ。

②ロシア軍は26日、ウクライナ首都キーウを空爆した。ミサイルはキーウ市内の住宅街に命中して犠牲者が出た。キーウへの大規模な攻撃は6月上旬以来。1人が死亡、6人が負傷した。

戦線を広げることは現在のロシア軍にとっては厳しいが、キーウを制圧しなければ、ウクライナをロシア側に屈服させたことにはならない。東部をほぼ掌握した現在、次はキーウだというシグナルを欧米側に送ったことになる。首都への攻撃は軍事的にも他の地方を攻撃するよりインパクトがある。エルマウで集まったG7の首脳にそのシグナルを送ることで、ロシア側の戦争への決意を表明したわけだ。

③ウクライナ中部ポルタワ州クレメンチュクの大型商業施設が27日、ロシア軍のミサイル攻撃で大破して炎上した。現地メディアによると、少なくとも20人が死亡し、40人以上が行方不明になった。ゼレンスキー大統領はロシア軍による「計算されたテロ攻撃」と非難した。民間施設へのミサイル攻撃は欧米側から「ロシア軍の戦争行為」として激しい批判の声が挙がった。

プーチン氏の狙いは欧米諸国に向けられていたというより、ウクライナ国民に向けられていた。すなわち、ウクライ国民の国防への士気を崩し、長期化する戦争への国民の怒りと不満を与える狙いだ。そのために民間人が集まるショッピングモールを空爆したのだ。狙いは可能な限り多くの民間人を殺害することにあったはずだ。

ロシア軍の撤退はあり得ない

以上、牧歌的な環境に包まれたエルマウ城で開催されたG7首脳会談に対し、プーチン氏はウクライナへの目標を達成するまでロシア軍の撤退はあり得ないというサインを送ったことになる。

①、②、③はエルマウのG7サミット開催を意識して計画的に行われたものだ。G7首脳がドイツに一堂に集まっている時、最大級の野蛮で非人道的な戦争犯罪を行うことで、プーチン氏は欧米首脳へ痛烈なメッセージを送ったわけだ。G7首脳はプーチン氏のウクライナ戦争への真剣度を少なくとも肌で感じることができただろう。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年6月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。