株主総会攻防の本質:海外の常識を押し付ける物言う株主たち

株主総会のシーズンが終わりました。今年はいわゆる大荒れで数時間にも及ぶ総会となったケースはあまり聞かれなかったと思います。それはさておき、経営側への通信簿であり評価面接でもある株主総会とは一体何なのだろうとふと思うことがあります。

株式を公開することで多くの方に株を持っていただくと同時に会社の中身をディスクローズし、投資家の疑問に答えます。その一方で会社という人格が社会的信用を得て、金融機関からお金を借りやすくし、社債を発行して事業資金を調達したりすることも可能になります。そして信用度が高ければ貸し手や投資家も増え、その調達コストはより下がっていきます。

MarsYu/iStock

日本の上場企業は金融機関から資金調達を増やし、社債の発行も増えています。金融機関からの借り入れは2006年を底に着実に増えています。但し、あくまでも大企業の話です。社債についても2021年の発行額が31兆円余りでした。これは過去最高です。特に21年は外貨建て社債が円建てを初めて上回っており、企業活動が海外に、そして資金も海外からという構図が見て取れます。なお、2022年は海外金利が上がっているため、外貨建て調達は落ちるとみられています。

しかし、株式を公開することで企業経営をぶち壊すような「物言う株主」が経営陣を揺さぶり、本業が翻弄されている東芝のような例もあります。私は東芝は極めてよい社員と社風を持ち、日本的でまじめな企業だと評価しています。いうなれば「電機のトヨタ」のようなイメージでしょうか?しかし、経営陣の問題で今は一部の部門や子会社を売却し、会社はどんどん小さくなっています。その上、今回の株主総会で選任された役員は船頭ばかり。その船頭たちに意見した「物言う取締役」の綿引万里子社外取締役が株主総会直後に辞任しました。私は綿引さんは正論を述べてきたと思っています。

環境問題と企業の取り組みに対する株主の介入についても私は正直、いただけないのです。脱炭素に消極的だったり、石炭火力発電事業やそれを支援する企業活動をすればあるまじき行為だと海外の環境絡みのNGOあたりの株主は強い声を上げます。企業は株主の声に弱いところがあり、攻められそうな分野はあらかじめ、防御線を張っています。よって企業は「環境問題は経営の最重要課題」「SDGsへの取り組みに最大のシフト」といった対策を施し防御します。

更には企業の財布の中身にも苦言を呈し、「お宅はなんでそんなに現預金が多いのだ。それを使うところもないのに抱えているだろう。新規投資など積極的経営を行わないなら、株主に配当せよ」と迫るわけです。

これが何を意味するか、といえば結局、企業の個性を失わせるたり、自由裁量を奪うわけです。これは大変です。もちろん、多くの企業はその対策を必死にやっていますので炎上する企業はごくわずかですが、それでも必ず誰かターゲットにされるわけです。特に企業の成績表の一つである株価が不振だった場合にうるさい株主に攻め入られる格好のターゲットにされます。

ただ、海外と日本では企業マインドも全く違う訳でそれを一緒くたにされても困るだろうと私は思うのです。

例えば海外では借金こそ企業の信用を意味するとされます。つまり「借金は企業の勲章」なのです。ところが日本の多くの企業は雨の日に傘を奪う日本の金融機関をいやというほど見てきたので「とんでもない、そんな借金をすれば経営不安定一直線です」ということになります。つまり常識観が180度違うのに海外の投資家は海外の常識を押し付けるわけです。

それでも国際的に名が知れ、海外事業展開を図っている企業はよいでしょう。一定の対策は打てます。が、国内専業のような上場企業も概ね全体の1/3はあるとされます。つまり海外に全く無縁の国内上場企業が外国人に株式を握られ、海外の常識を押し付けてくるのです。これに勝てますか?

個人的には小さな会社が上場する価値は薄れてくると考えています。大企業や持ち株会社がそれを代表し、うるさ型の株主の対応をし、現場は現場の仕事に集中できるようにした方が良いのです。以前、私は国内の上場企業数が多すぎる、そしてそれがどれも押しなべて小粒である、と申し上げました。

株主総会の攻防、そして過剰ともいえる株主総会対策を見るたびに経営陣はもったいないエネルギーを使っているなと思います。日本の上場企業は今の半分ぐらいの会社数でも多いぐらいでしょう。お山の大将でも小さくまとまるよりでっかい山を連ねる山脈のような企業体を作る方が私は日本には向いていると思っています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年6月30日の記事より転載させていただきました。