トランプは妊娠中絶否定判決を喜んでない?

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人工妊娠中絶を認める=pro choiceか、認めない=pro lifeか。米国の国論を二分する大問題だってことをNYT imesのウェブサイトを眺めていてつくづく実感しました。

最高裁が1973年のRoe対Wade裁判で中絶を認める判決(これは「Roe」と表現されます)を出し、女性に「中絶権」があるとされてきたものが、つい先日の6月24日の最高裁判決で49年ぶりに覆ったのですが、それに関連する記事がNYTサイトを埋め尽くしているのです。

正確に勘定したわけではありませんが、全米各地の抗議活動に関する短いレポートは除外して、ちゃんと見出しと写真、動画を添えた長文記事だけで100本は下らないと思います。

とても当方の英語力では読み切れないのですが、見出しを眺めていて、「トランプはこの判決は共和党を傷つけると憂慮している」とあるのに気づきました。

トランプ氏と言えば、大統領在任中に3人の最高裁判事を任命しましたが、いずれも保守派で、その結果、最高裁の色分けは保守派6人、リベラル派3人となって、国論を二分する問題が最高裁に持ち込まれれば、共和党に有利な結果になることは自明の理でした。

つまり、pro life派に支持される共和党の主張が通る仕組みにした当の本人が、pro life派の主張が通ったことで、友人や政治顧問らに<bad for Repblicans>と言うのはどういうことなのか。

おそらくは、この最高裁の判断は女性に評判が悪いと見ているのでしょう。最高裁の草案をPoliticoがスクープして、全米が沸きたった5月2日に、奇しくもスタートしたGallupの世論調査によると、この10年間、pro choice派は45~50%で推移していたものが、一気に55%と1995年以来の高水準になったのです。とりわけ女性に限れば昨年比で9%もアップして61%になっていました。

党派別に見ても共和党支持者では大きな変化はないものの民主党支持者では18%も増えて88%になっています。おそらく民主党支持者の投票率は上がることでしょう。

それが11月の中間選挙で共和党への逆風になるかもしれませんし、2024年の大統領選への出馬意欲を漲らせるトランプ氏としては、2020年選で女性票がいまいちだったことから、中絶反対の姿勢を強く出すことに躊躇いがあるのでしょう。

とりわけ、2024年大統領選には、強硬な保守派で知られるフロリダ州のロン・デサンティス知事が出馬するとされ、フロリダでは妊娠15週以降の中絶を禁止する法案に知事が署名したばかりとあって、知事との色合いの違いを出そうとしてるのではないか、と記事は示唆しています。さらに、日本のテレビでもpro lifeの立場から「国中で闘おう」と力んで演説する姿が映る、これも出馬予定とされるペンス前副大統領とも違いを意識してるのでしょう。

さらにこの問題の「政治的複雑さ」について話し合ったという有力な支持者が、「トランプ氏は中絶の反対者であると同時に『現実主義者』でもある」と述べたことを紹介しています。風向きを見ているのでしょう。

とまれ、NYTの100本を超える記事の多くは、全米で盛り上がる抗議行動の動きと女性たちの声のよう。明らかにNYTはpro choiceの立場です。全国的な影響力を持つNYTをはじめとする大手メディアに対し、得意の「fake news!」を連呼して当面は敵に回さないという政治家としての配慮もあるのかも。それは、NYTと同じく全国的影響力のあるWashington Postのトップ画面がこの件で埋まってることへの配慮でもあるでしょう。

日本では参院選が始まりましたが、なんとはなし、盛り上がりませんが、米国では2年後の大統領選を睨んだ動きが早くもうかがえて興味深いことです。


編集部より:この記事は島田範正氏のブログ「島田範正のIT徒然ーデジタル社会の落ち穂拾い」2022年6月26日の記事より転載させていただきました。