欧州議会「EUタクソノミー」を承認:投資対象のリストに原発や天然ガス発電を追加

欧州連合(EU)の欧州議会は6日、ストラスブールでの本会議で、気候変動抑制などに寄与する持続可能な投資対象のリスト「EUタクソノミー」(EU-Taxonomie)に原発や天然ガス発電を条件付きで追加するEU委員会の法案を賛成328票、反対278票、棄権33票で承認した。この結果、EU委員会が提案したEU分類案は来年1月から施行される公算が大きくなった。

ストラスブールの欧州議会(欧州議会公式サイトから)

EUは温室効果ガス排出量を2050年までに「実質ゼロ」(カーボンニュートラル)とする目標を掲げている。その目標を達成するためには原発、天然ガスを持続可能なエネルギーとして活用することが不可欠と判断し、「グリーン」と認定することで投資家を呼び込むことを目的としている。

自動的に法律になるEU委員会の分類案

EU委員会の分類案は、2018年3月に発表された「持続可能な成長のための資金調達のための行動計画」の一部で、委任された法的行為だ。これは、適格多数派を持つ国または絶対多数派を持つ欧州議会のいずれかが反対票を投じない限り、自動的に法律になる。適格多数派には、2つの基準を満たす必要がある。第1に、加盟国の55%、つまり27カ国のうち15カ国が同意すること、第2に、同意国はEUの総人口の65%を代表しなければならないことだ。

EUの欧州員会は2月2日、条件つきだが「天然ガスと原子力を気候に優しいエネルギー」とグリーンラベルを付け、投資対象の基準となる「EUタクソノミー」の最終案を提出した。欧州委は昨年12月31日、既に草案を加盟国に送付し、加盟国からの意見や反論を配慮したうえで今回最終案をまとめた。欧州理事会と欧州議会が4カ月以内に拒否しない限り、同最終案は来年初めには施行されることになっていた。

欧州議会の経済金融と環境の合同委員会は6月14日、原発と天然ガスを入れた欧州委員会案に反対の文書を採択したが、欧州議会の本会議で今回、支持票が反対票を上回ったことから、EU分類案が発効される道が開かれたわけだ。

原子力と天然ガスを気候に優しいと分類

EU委員会は、原子力と天然ガスを特定の条件下で気候に優しいと分類し、今年2月2日にブリュッセルで詳細を発表した。それによると、2045年までに建設許可が与えられ、国内に核廃棄物処分の計画と財源がある場合、原子力発電所は気候に優しいと分類される。

ガス火力発電所の場合、条件はさらに緩和され、新しいガス火力発電所への投資は、クリーンでない発電所に取って代わり、2035年までに、より気候に優しいガスで運転される場合、2030年まで持続可能と見なされることになっている。

EU分類の目標は、多くの資金を持続可能な技術や企業に振り向けることにある。欧州グリーンディールの野心的な目標を達成するためには、公共部門や企業からの生態学的に持続可能な活動への数十億の投資が必要となる。

EU委員会は、分類法草案に6つの環境目標を設定している。①気候変動の防止、②気候変動への適応、③水と海洋資源の持続可能な利用、④サーキュラーエコノミー(循環経済)への移行、⑤環境汚染の防止と削減、⑥生物多様性と生態系の保護と回復。

企業は将来、EUの6つの環境目標の少なくとも1つに経済活動を一致させ、さらに、社会的領域または人権の最低要件を満たす必要があるとしている。

欧州委員会は欧州議会の採決結果を評価し、「多くの加盟国の気候中立への移行に役立つ現実的なアプローチを認めるものだ」と歓迎したが、EU加盟国内の中には、EU分類法は再生可能エネルギーの推進に逆行し、障害になると反対している国がある。

特に、原発を「持続可能ではない」としてグリーン認定することに強く反発する国が少なくない。ドイツ、オーストリア、ルクセンブルグ、デンマーク、ポルトガルらだ。一方、フランスとスウェーデンは原発推進派だ。欧州で唯一「反原発法」を施行するオーストリアは欧州委を提訴する構えを見せている(「欧州委の決定にオーストリア提訴へ」2022年2月4日参考)。

ちなみに、「投資ファンドには独自の持続可能性基準があって、多くの場合、原子力発電を除外している。原発の場合、政府の巨額の助成金がない限り、保険がつかず、現行側も原発に投資を控える傾向がある」(ドイツ放送)という。

ロシア軍がウクライナに侵攻して以来、ロシア依存から脱皮し、安全なエネルギー供給が大きな課題となってきた。対ロシア制裁でロシア産石油、天然ガスの禁輸が進められてきた現在、クリーンなエネルギー源として原発の操業延期問題が再び脚光を浴びてきている。

脱原発、脱石炭の路線を決定しているドイツにとって、ロシア産ガスが完全に停止した場合、エネルギー危機に陥り、産業にも大きなダメージを与えることが予想される。ウクライナ戦争が終わり、再生可能エネルギーが十分なエネルギーを生産するまで操業中の原発に継続を求める声が産業界で高まっている。

EU議会の本会議でのEUタクソノミー支持派の勝利はウクライナ戦争によってもたらされたエネルギー危機に対する最適な対応だろう(「揺れ出したドイツの『脱原発』政策」2022年6月24日参考)。

注:ドイツ放送のEUタクソノミー関連記事を参考にした。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年7月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。