「内的刷新」が求められる時

混迷を極める世界

2019年後半から広がった新型コロナウイルスの感染がまだ消滅していない中、ロシア軍のウクライナ侵攻が勃発し、戦争の長期化に伴い、ロシアと欧米諸国間の軍事緊迫も深まってきた。同時に、世界的に食料危機、エネルギー価格の高騰が起き、アフリカなど開発途上国では飢餓が出てきた。また、地球の温暖化に関連して、イタリアでは雨が降らず干ばつに悩まされている。

▲ヘロデ王時代の神殿の壁「嘆きの壁」
出典:Wikipedia

世界の情勢は第3次世界大戦の夜明けの様相を深めてきた、と指摘する声も聞かれる。そのような時、日本では選挙応援演説中の安倍晋三元首相が銃撃を受けて亡くなるという大事件が発生し、日本の針路を提示してきた政治家の突然の死に多くの日本国民はショックを受けている。

それぞれ現象、出来事の原因はさまざまだろうが、世界が大きな曲がり角に来ていることは間違いないだろう。どの方向に向かって歩み出せばいいのか、自信をもって進言してくれる人は多くはない。数年前まで「グロバリゼーション」という言葉は新時代の夜明けを告げるキーワードのように受け取られ、「多様性」が重視されてきたが、ここにきてグロバリゼーションの問題点が指摘される一方、国益を最優先とする「自国ファースト」が再び叫び出されてきた。

世界で閉塞感が漂い始め、価値観としてはニヒリズムが広がってきた。もちろん、現在のような危機感は人類が初めて経験することではなく、過去にもあった。例えば、ディアスポラと呼ばれ、世界を放浪してきたユダヤ民族の歴史を振り返ると、そのことが一層明らかだ。

ユダヤ民族の歴史を振り返る

それではユダヤ民族はさまざまな迫害、困難に直面したが、どのようにしてそれらを克服し、明日に希望をもって生きてきたのだろうか。

少し「聖書」の話となる。アダムとエバが「エデンの園」から追放された後、神は1600年後、ノアを選び“第2の創造”を始めた。その400年後、アブラハムを選び、その血統からヤコブが生まれ、ヤコブは成長して神から勝利者を意味するイスラエルという呼称を受け取っている。

そしてヤコブから始まったイスラエル民族はエジプトで約400年間の奴隷生活後、モーセに率いられて出エジプトし、その後カナンに入り、士師(指導者)たちの時代を経て、サウル、ダビデ、ソロモンの3王時代を迎えたが、神の教えに従わなかったユダヤ民族は南北朝に分裂し、捕虜生活を余儀なくされる。

北イスラエルはBC721年、アッシリア帝国の捕虜となり、南ユダ王国はバビロニアの王ネブカデネザルの捕虜となったが、バビロニアがペルシャとの戦いに敗れた結果、ペルシャ帝国下に入った。そしてペルシャ王朝のクロス王はBC538年、ユダヤ民族を解放し、エルサレムに帰還させた。その後、ユダヤ教は教義的に発展し、現在のユダヤ教となっていった。

神は自身が選んだユダヤ人が異教の教えに傾いた時もユダヤ民族を見捨てず、ユダヤ人自身が悔い改め、内的刷新するのを忍耐強く待ってきた。そのために何度も預言者を送ってユダヤ民族の覚醒を促した。キリスト教の歴史でも同様だろう。

イエスの教えを忘れ、免罪符を発布するなど、腐敗堕落したキリスト教会を捨てることはなく、マルティン・ルターなどの宗教改革者を送り、キリスト教会を刷新させている。ただ、その努力にもかかわらず、従わない群れに対しては、神は外的な試練を与えて、処罰している。ちょうど、アッシリア帝国の奴隷となって滅亡した北イスラエルのようにだ。

神はユダヤ民族に対して、自身の選民が道を外すと、まず内的刷新を促す。それが難しい時は外的試練を与えた。ユダヤ民族は長い歴史を通じて、神に訓練を受けてきた。「内的刷新」と「外的試練」を受けながら、神への信仰を深めていったのだろう。

「内的刷新」謙虚に悔い改めよ

ユダヤ民族の歴史は21世紀のわれわれにも大きな助けとなる。国家、民族、そして機関、団体から個人に至るまで「内的刷新」に取り組まなければならない。神が預言者を送ったように、必ず、助け手、指導者が現れてくるはずだ。

「内的刷新」とは宗教的には悔い改めを意味する。相手を批判する前に、謙虚になって内省しなければならない。それが出来ない場合、外的試練に直面し、最悪の場合、存続できなくなる。「北イスラエル」の運命に陥るか、「南ユダ王国」のように存続し、発展する道を歩み出せるか、現代の私たちはその選択に直面しているのではないだろうか。時代が示すサイン(徴=しるし)を見落とさないでいきたいものだ


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年7月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。