トウキョウ盛衰論:事務所しかなくその顔は分かりにくい

日経ビジネスが「TOKYO再起動、衰退か、進化か」という特集を組んでいます。「世界のトウキョウ」が向かう道は興味深いところです。皆さんと一緒に考えてみましょう。

そもそも東京が日本の中心になったのは徳川の江戸時代。その江戸も秀吉が家康の影響力を抑え込むために家康を体よく三河から江戸に追いやったからでした。当時はやはり京都と大阪をキーに目線は西に向いていました。毛利、長曾我部、島津家を押さえれば次は朝鮮半島と思ったのは秀吉だけで出兵を担う大名はいやいや、渋々で大名家の財力と体力の消耗戦になる中、東に取り残された家康だけは出兵に参加することなくその間、しっかりと力を蓄えたというのが始まりでしょう。

xxwp/iStock

ある意味、江戸は他都市や日本のそれまでの文化を継承することなくほぼゼロスタートを切ったことがその繁栄の原点だったかもしれません。朝鮮半島からも遠く日本独特の文化を生み出す土壌がそこにあり、かつ、260年の天下大平の間に江戸文化と商人気質が育まれ、大阪との二大文化を築いたともいえましょう。

明治になり、政治機能が東京に集中すると大阪、京都は実質的に骨抜きになります。大阪文化はそれでも残りますが、政治機能のある無しでは全くレベルが違う戦いになります。企業が集積し、人も集まり、インフラが整備され、都市は拡大の一途を辿ります。

ではこれからの東京はどうなるのでしょうか?先の日経ビジネスの特集では東京都の人口がコロナもあり減少に転じたこと、規制が多く、映画撮影などが出来ないこと、ユニコーンが少ないこと、一方でミシュランの星印のレストラン数は2位のパリを1.7倍の203軒もあること、世界都市の総合ランクではロンドン、ニューヨークに次いで3位につけていることなどを挙げています。

個人的にはこれらは表層的な結果論でしかありません。真の意味での東京の盛衰論を語るならば一つは東京の人口ミックス、住環境と職住接近、東京の強みの掘り下げをしないとほとんど無意味だと思います。

まず、東京はニューヨークを目指してはいけないと考えています。マンハッタンは単なるコンクリートの塊で特殊な世界を作り出します。そこはアメリカ人の街ではなく世界の富豪の街です。ロンドンもそれに近いと思います。そうではなく、東京は日本人が日本人のために誇りをもって作り上げた街であるべきです。

その美しさとは商人文化に支えられた商店街や人と人のふれあいです。高層オフィスビルの下層階にある高級なイメージのリーテール街はいかにもよくできているように見えますが、開発の視点からは陳腐化しています。では同じ高層ビルのリーテールである池袋のサンシャインは駅から遠いのになぜ、あれほど集客ができるのでしょうか?それはサンシャインに入居する商店はほとんど普通の商店街の様相で有名店が支配する構造ではないからです。だから、発見の面白さがあるのです。

日本人はなんだかんだ言って商店街文化が大好きなのです。中野ブロードウェイ、十条銀座、武蔵小山、大山…いくらでもあります。実は原宿の竹下通りも中高生に特化した商店街だという見方をする人は私ぐらいでしょう。

基本的に世界のトレンドは大手、ブランド志向から個店へのシフトが起きつつあります。音楽一つとってもかつての国民的大ヒットが生まれなくなったのは音楽の個性化が進んでいるからです。飲食でもデパートのお好み食堂が変形した居酒屋は衰退し、特色をもった店がふえてきています。これはマス文化からより個性を尊重したものに変わってきているとも言えます。

東京は経済の中心地だと言われます。私が時折日本に行くと「で、トウキョウで何が作られているの?」と思うのです。東京には事務所しかなく、その顔は分かりにくいものです。街の顔がないのに人はたくさんいるのです。こうではなくて、渋谷のスクランブルを歩いている人が皆違う顔をしているそんな街づくりを支えていくべきだと思うのです。

とすれば答えは見えてきます。私が推奨する東京のあるべき姿とは「街の見える化」ではないでしょうか?東京には強いポテンシャルと歴史と文化伝統が全て備わっています。老若男女が住み、決して富豪が支配する街になっていません。その点ではパリに近いのかもしれません。祭りは日本文化の大作の一つだと思いますが、その入り口は割とハードルが高いのです。「あれは誰?」という狭き世界の門戸を広げられればと思います。

東京はあくまでも町人文化の街である限り、企業も町人の血統を受け継ぎ、どんな仕事をやっているのか見せて欲しいところです。企業の常設大博覧会がそこにあってもよい、日本人の強みである改良や工夫を示し世界に売り出せる恒久性のある施設としてもっと増やしてもよいでしょう。

工場見学ができるところは多くなりました。でも我々は企業文化だけではなく、文化や画像、音楽制作さらにはITの分野でもどうやってそれらが生み出されるのか見せることで発展するという発想もアリだと思うのです。企業のブラックボックスから開示型の「見せる文化」を作る、これは日本が世界に類を見ない特徴を持たせる一つの解ではないかと思っています。

普通の発想から3歩ぐらいジャンプしてみると面白い発想は浮かんでくると思います。こんな発想、小池さんでは無理かもしれません。都知事に造詣の深いビジネスマンを持ってきたらどうでしょうか。政治力学でギトギトするより今は夢と希望への道筋がきちんと立てらえる方への期待が高まっていると思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年7月11日の記事より転載させていただきました。