日の丸すら無い防衛省ユーロサトリパビリオン:防衛省に産業振興やる気なし

「防衛品は稼げない」払拭なるか 相次ぐ国内メーカー撤退→装備運用に懸念 国は新機軸の対策

カヤバは戦前に日本海軍の零式艦上戦闘機の着陸脚にも採用された「オレオ」と呼ばれる緩衝装置や、日本で唯一実用化されたオートジャイロの「カ号観測機」などを生産、戦後も航空機事業ではC-2のブレーキや、ボーイング777旅客機のアクチュエータなどの製造を手がけてきた企業です。

近年では、オレオの技術を活用した四輪車や二輪車の緩衝装置、建設用油圧機器などを事業の柱としており、2022年2月8日に開催された取締役会で、経営資本を柱となる事業に集中して競争力を強化するため、航空機事業からの段階的な撤退を決定していました。

防衛用航空機は、新型コロナウイルスや原油高、景気の悪化などの影響も受けにくく、安定した需要が期待できるはず。にもかかわらずカヤバが防衛用の航空機事業からも撤退した背景には、日本の防衛装備品調達のあり方と、防衛装備品の利益率の低さがあると筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は思います。

欧米諸国などでは軍用機を調達する際、何年間で何機を調達するかを明確にした上で発注される事が多いのですが、日本では概ね5年間を見込んだ中期防衛力整備計画の期間中に何機、という形でしか明らかにされていません。これでは何年後まで生産ラインやサプライチェーンを維持しなければならないのかがわからず、企業は長期的な事業計画を立てにくくなります。

防衛事業から撤退する企業は増加しており、三井E&S造船、横河電機、AGC(旧旭硝子)といった大手企業が次々と手を引いています。これらの企業は事業を継承する企業が見つかりましたが、今後も撤退企業が増加すると、事業を継承する企業が見つからず、結果として航空機を含め、自衛隊の装備品の運用に支障をきたす可能性が高くなると思われます。

処方箋はすでにでています。ところが防衛省にはそれをやる気がない。苦い薬を飲むのは嫌だとダダをこねているわけです。改革はやっているフリだけです。

装備庁にしてもその本来中枢に置くべき改革派の官僚を疎ましく思って島流しにしてきました。現在の防衛装備庁の惨状をみれば、組織としてまともに機能していないことは明らかです。

このため防衛装備庁は、6月にフランスのパリで開催された防衛装備展示会「ユーロサトリ2022」でレーダーなどの完成品をアピールする一方、海外の防衛企業の下請け受注を得ることで、国内防衛産業の維持・育成を図るための働きかけも開始しています。

これは随分前から行っているプロジェクトです。2013年のDSEIから始まりました。今だから言いますが、実はぼくは間接的にこれに関わってきました。

ユーロサトリ2022防衛装備庁ブース
防衛装備庁Twitterより

さて今回のユーロサトリのパビリオンは電通の仕切りに変わったようです。ですが惨憺たる有様のようです。まずナショナルパビリオンなのに日の丸すらない。

装備庁も電通もパビリオンの意義を全く理解していない、ということです。そして装備庁はこのパビリオンを拠点に情報収集や情報交換、人脈つくりに使うべきですが、それをやる気はありません。長年に渡って「お店番」のおっさんが座っているだけ、あとは装備庁長官ら偉い人が来たときのレセプションだけ。電通さん、何ならコンサルタント引き受けますよ(笑)

まともに本邦の中小企業の海外進出を助けようという意識が感じられません。これは長年取材してきた実感です。そもそも国内の下請け含めた防衛産業、潜在的な防衛産業のデータベース作りすら終わっていません。

英国は80年代に当時のベンチャー企業であってスパキャット社のATVを空挺部隊用に採用しました。そういう思切ったことができない。

対して水陸機動団用に採用された川重製のATVはオスプレイに搭載するはずが、寸法が大きすぎて搭載できないことが調達されてから判明。他の候補を初めから除外していたのでしょう。はじめに採用ありだったのではないでしょうか。

今月発売の月刊軍事研究のグラビアではページの上にオスプレイから降りて散開する隊員、そして下の写真ではチヌークで空輸された件のATVが掲載されています。

装備庁、陸幕の調達当事者の能力欠如を見せつけるページとなっています。

【本日の市ヶ谷の噂】
防衛医大の整形外科スタッフの専門は骨腫瘍で、防衛医大ではほぼ不要な分野。都内で飯の食えない整形外科医の巣窟となっている。そのため防衛医大の研修では骨折の患者の研修もギブスの巻き方も学ぶことが出来ない。自衛隊の基地で必要な骨折やギプスの研修は他に丸投げ。労力の伴う外傷治療も救急部に丸投げ。防衛医大教官の責任は放棄されている、との噂。

週刊東洋経済今週号は自衛隊特集です。「世界を常識を知らない装備開発の黒歴史」を寄稿しました。また企画の段階から関わっておりました。バランスのいい特集になっているかと思います。


編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2022年7月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。