物価高よりいびつになる為替に危機感あり:月末に向け1ドル140円も視野に

注目された6月のアメリカの消費者物価指数は9.1%上昇となりました。市場の予想を上回り、また私の想定はもちろん、外れています。この発表を見た時思ったのは「数字が独り歩きしているのではないか?」であります。

6月に入って原油価格は下がりました。ですが、市中のガソリン価格は高止まりしています。理由は夏休みシーズンに入り、需要が増加、ガソリン在庫が季節的要因を含め下がっていることが要因とみています。つまり、今までの供給元の価格上昇から需要増によるガソリン高ともいえるのでしょう。

この状態が継続するのかどうか、この見方が非常に難しいところです。

GoranQ/iStock

今日、カナダ中央銀行は1.00%の利上げを決めました。市場予想は0.75%でした。カナダも物価上昇の鎮静化が見られないので中央銀行はアグレッシブになるかもしれないとは一部で囁かれていました。しかし、ここまで急速に上がると住宅ローンなどに影響が出て、消費志向は当然下落が見込まれるでしょう。問題は今、夏の真っただ中にある点です。見て見ぬふりをするのが消費者。旅行の予定もあるし、パーティや楽しいイベントもあるのでとりあえずそれは予定通りということでしょうか?

先日、あるホテル経営者と話をしていたところ、「部屋単価がこんなに上がってよいのか」と売るほうが驚くほど上昇しているそうです。私はあるユーチューバーのグルメ紀行を拝見しています。現在欧州編ですが、申し訳ないほどの物価高で普段は暴飲暴食気味の当人もテイクアウトや飲む量を減らすなどしてお財布加減を気にしているのが手に取るようにわかります。

アメリカのFOMCは7月26-27日に開催されますが、今日のブルームバーグには1.00%の利上げも織り込みつつあると報じています。カナダが先陣を切って1.00%の利上げをしたならばその公算は当然出てくるのでしょう。

ここで気になるのがアメリカ、カナダの利上げ競争に対して最もダイレクトに響く為替レート。欧州は利上げをもくろんでいるものの天然ガスの供給に不安があり、経済的ダメージが大きいと見込まれユーロはドルに対してついに20年ぶりになるパリティ(等価)を下回る事態になりました。先行きについても弱気見通しとなっており、一部には0.9までつけるという予想もあります。

日本円も当然にして弱く、本日、一時137円80銭までつけています。円ドルは歴史的に見ていくつかの節目があり、大雑把に言えば125円、135円、145円となっています。当初、アメリカの物価高は5-6月で鎮静化するとみていたので135円の節目は大きいと考えていました。が、あっさり突破しており、月末に向け140円が視野に入ることになりそうです。

このドル独歩高(カナダドルも含めて)は利上げできる国とできない国のマネーの大移動が起きていると考えられるわけですが、流出する側の国内物価は上昇するも、輸出ドライブが効くというのが従来の考え方で自然の調整機能で自律回復するというのが昔の教科書です。しかし、輸出ドライブという言葉そのものが今や死語であって、グローバル化で生産拠点は散在し、地産地消が進む現在、通貨安のメリットは少なくなっています。

もちろん、トヨタなど超大手は設定為替レートとのギャップというテクニカルな点もあるのでその数字が過大に見えますが、それはごく一部であり、また一般的には為替ヘッジをしているので一方方向に振れてもそれが企業業績に直接的に響かないケースも多くなっているのです。

この為替問題も円やユーロならともかく、新興国では通貨防衛が必須となります。韓国では21年8月から5度0.25%引き上げたのち、一昨日0.50%引き上げをしています。もちろん、同国の歴史的インフレ率もありますが、通貨防衛も一つの理由でありましょう。

既にスリランカは破綻し緊急事態宣言が出ていますが、似たような問題は他の国にもいつ波及してもおかしくない事態にあります。当然ながら国内不和やストライキなどが起きやすくなり、新興国は内政へのシフトが強まることになります。一部で景気の下支えをしてきた半導体なども供給が追い付き、半導体価格が急落しています。つまりモノづくりを得意としている国は為替と輸出減少のダブルパンチになり、深刻な問題になりかねないとみています。

お前の予想は当たらないじゃないか、と言われるかもしれませんが私はいまだに今年の秋に大きな衝撃が来るような気がしてならないのです。今の世の中の動きは全体的にあまりにもいびつ過ぎてまともな予想を立てるのすら至極困難と言わざるを得ない気がします。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年7月14日の記事より転載させていただきました。