安倍元総理の国葬:国民の選択

安倍元総理の国葬が決まりました。岸田総理のリーダーシップだと思いますし、素晴らしいご決断だと思います。

私は、安倍元総理は、日本の憲政史上今までにいなかった真の意味での国際的リーダーであり、希代の戦略家であり外交官であられたと思います。これほど多くの国民(多分意見を必ずしも同じくしない方々も含め)に惜しまれ、これほど多くの外国首脳要人達から惜しまれた日本の総理はいません。したがって、国葬は順当だと思います。

したがって、国葬について異論があること自体残念だと思います。が、同時に、国葬の是非について議論ができる日本は自由な民主主義国だと改めて思うところでもあります。

私は、ご葬儀がどうあるべきかどうかについては、国民の皆様がどのように感じるかが一番重要だと思います。「葬儀」というのは、カタルシスです。亡くなられた安倍元総理は既に天のどこかにおられます。残された我々が、どのようにケリをつけるか、そのことによって、どのような納得感、平安を得られるかということです。

と同時に、安倍元総理は日本の宰相だった方です。その死を惜しむ世界の首脳や要人達をはじめとする多くの世界の方々達に対し、日本という国がどのような対応をしたかを示すという日本国としての姿勢の問題でもあります。弔問外交の機会となるのであれば、それは日本の国益です。なぜそれを否定的に捉える方々がいるのか残念でなりません。

首相官邸HPより

後世の歴史家に委ねるべきかもしれませんが、私は、安倍総理の功績は極めて大きいと公正に評価されるべきだと思います。もともと安倍総理は国内における評価よりも国際的評価が高かった。それは、今までの日本の総理が殆どやってこなかった国際的アジェンダ作りにイニシアティブを発揮したことを国内メディアが本来あるべき程には発信をしてこなかったからです。それを理解するリテラシーが日本社会に不足していることも背景にありましょう。日本は島国で基本的にドメスティックなので、そういう感覚が不足しているように思います。

第一に、「自由で開かれたインド太平洋」アジェンダです。これは、安倍元総理に直接お伺いしたこともありますが、もともと第一次安倍政権の時から温めてきた構想とのこと。中国という隣国であり将来の超大国であり安全保障上の懸念である国とどのように向き合っていくかは日本にとって今世紀最大の外交課題です。

中国との安定的な関係の維持は日本にとっての死活的に重要です。その時に、日中という二国間での対峙で考えては、質量ともにマネジメントは難しい。でも、日本には多くの仲間がいる、日米だけでなく、特にインドという中国と比肩し得る重みのある国が仲間になってくれれば、比重の面で対抗できる、地政学的にもインド洋から太平洋までの重要なシーレーン地帯を守ることができる、そして、外交的にも、日米豪印、欧州、東南アジア諸国という状態を作りだすことができれば、それは、中国という国の行動に影響を与え、そして、日本の外交・安全保障に大きな力を与えるということです。

中国が「自由で開かれたインド太平洋」アジェンダに反発したとしても抑止効果があり、仮に、中国が「いいね一緒にやりたい」と言ってくれれば(可能性は極めて低いですが)、それまた、日本にとっては、地域の平和に資するという素晴らしい構想です。

かつて、ハワイに所在する米軍はアジア太平洋司令部と称されていましたが、今や「インド太平洋総司令部」です。これは、日本の提唱した「自由で開かれたインド太平洋」戦略を米国が採用した結果です。今や、安倍総理が提唱した「自由で開かれたインド太平洋」は、英仏独といった欧州主要国や東南アジア諸国にも浸透している世界的アジェンダです。「インド太平洋」アジェンダは、英仏独のみならずEUの主要戦略となっています。このこと一つとっても、安倍元総理の功績は甚大だと思います。

第二に、平和安保法制や特定秘密保護法など、世界における常識的な法整備であっても、日本ではなかなか実現が難しかった基本法を整備し、日本の防衛を全うしたことです。

現代の日本は、未だに米軍占領統治下において、日本を弱体化するために作られた憲法体系に縛られている面が多々ありますが、安倍元総理は、かなり「正常化」に寄与されたと言えるのではないでしょうか。

日本の平和を守ってきたのは自衛隊と日米同盟であって、憲法9条ではありません。むしろ、憲法9条解釈のおかしな自縄自縛の縛りがあるにも関わらず、よくまあ平和にやってこられたなというのが元外交官としての率直な感想です。これからも、本来の「日本を取り戻す」ということはこれからの政治の大きな課題だと思います。

経済については、正直、金融緩和と財政出動まではともかく、その先の本丸であった構造改革に踏み込めなかったことはとても残念だったと思います。憲法改正も、まだ期が熟していないと思われたのでしょう。安倍政権時代には目に見える進展がなかったのは残念でしたが、岸田政権に引き継がれていくと確信しています。

完璧な人間はいません。どこかしら足を引っ張りたくなるところ、気になるところは、人によってはあるものと思います。でも、瑕疵なき人間などそもそもこの世に存在するのでしょうか。反対されている方々の論拠と功績とを比べたときに、そして日本国民の感情を考えたときに、国葬についての異論を唱える方々の論拠は、事の軽重をわきまえないもののような気がしてなりません。

それから、「国葬についてのルールを明確化せよ」という議論にも若干の違和感を感じます。そんなにはっきり事前に明確化できるものなのでしょうか。これは本質において「ご葬儀」なのです。最終的には、法律にあるとおり、時の内閣が決める、それで良いのではないでしょうか。私はこの類の話は、「歴史の評価」以上に正当な審判はないと思うのです。国民の皆様が日本の民主的手続きにより選ばれた、現在の政権与党である岸田内閣が国葬の判断をした。それを尊重頂ければと思うところです。

凶弾に倒れるという悲劇的な死だったから国葬というわけではありません。私は、正真正銘、安倍元総理という国民から愛された宰相であり、希代の戦略家であり外交官であられたその功績からして国葬は順当なものと思います。是非、この論議には終止符を打って頂いて、むしろ、安倍元総理の死を無駄にしないよう、日本が日本自身の国益のために、日本人が心を合わせる機会として頂きたいと思います。


編集部より:このブログは参議院議員、松川るい氏(自由民主党、大阪選挙区)の公式ブログ 2022年7月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は、「松川るいが行く!」をご覧ください。