憲法9条を守って日本は生き残れるのか(屋山 太郎)

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会長・政治評論家 屋山 太郎

岸田文雄首相は参院選で大勝したことを受けて「改憲発議を進める」と明言した。次の総選挙、参院選までの時間はたっぷりと3年ある。議論を尽くして内容の濃い憲法にして貰いたい。共産、立民などの野党は相変わらず改憲反対の意向のようだが、これだけ圧倒的民意が改憲を求めているのに「反対する」というのは何故か。中国やロシアのヒモがついているのではないかと勘繰る。

安倍晋三氏の死という、とてつもない災難が降りかかってきたのに、共産、立民、国民はほとんど無言だった。政党としてどう動くべきか基礎的教養が欠落しているかのようだった。

民主主義というのは選挙の度に湧き上がってくる民意を正直に受けて政治を運営していくべきものだろう。自民党は、今回の参院選も含めて国政選挙において7回の勝利を重ねた。選挙の度に議席数を伸ばしてきた。

今年5月2日と3日に発表された各紙の世論調査を見ると「自衛隊明記」に関し、読売は賛成58%、朝日は賛成55%、毎日は賛成58%、共同は賛成67%となっている。国家緊急事態条項の導入についても、読売55%、朝日59%、FNN産経72%、日経49%、共同69%が賛成だ。

世界が今日のような様相の時に、野党側が「安倍を叩き切ってやる」といった程度の反応しかできないのでは、言論界では勝てる訳がない。共産党に及んでは、いざという時に暴力も辞さないという「敵の出方論」も正式には引っ込められていない。ということは共産党は民主主義的政党ではないことを物語っているのではないか。

米ソ冷戦中に西側諸国の共産党は、ソ連のハンガリー、チェコ弾圧を見て、党のあり方を変えた。イタリアの共産党は200万人以上いたが、党首公選の採用、民主集中制の廃止を断行し、94年の選挙では政権を獲った。共産党から恐ろしいという印象が消えたからこそ、大衆が政権の一つとして選んだのである。

現在、ドイツ、イタリア、フランスなどで気軽に政権交代が行われているが「元共産党」だからといって敵視されない。尖がった共産党は「ユーロコミュニズム」という風にもまれて一挙に軟化し、新しい政治情勢を作り上げていった。

日本の共産党はどうやらそんな気風はないようだ。1922年の創立時は「革命路線」を突き進んだ。55年の全国協議会で武装闘争方針を放棄すると、61年には社会主義・共産主義体制を目指すとする「二段階革命論」を盛り込んだ党綱領を採択し、平和路線に転換した。

一頃300万人に及んだ党員数は今や30万人を下回る程度に減っている。党幹部の理屈では勉強させて理解者を増やすというものだが、やるべき勉強が難しすぎて、赤の他人は入っていけない状況だ。知られているのは「憲法9条を守る」「自衛隊は便宜的に使う」ことだけ。これだけで日本は大丈夫なのか。

(令和4年7月20日付静岡新聞『論壇』より転載)

屋山 太郎(ややま たろう)
1932(昭和7)年、福岡県生まれ。東北大学文学部仏文科卒業。時事通信社に入社後、政治部記者、解説委員兼編集委員などを歴任。1981年より第二次臨時行政調査会(土光臨調)に参画し、国鉄の分割・民営化を推進した。1987年に退社し、現在政治評論家。著書に『安倍外交で日本は強くなる』など多数


編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2022年7月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。