サラリーマン的に参院選ってどうだったの?と思ったときに読む話

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先日実施された参院選で、大方の予想通り与党が改選過半数を超える76議席を確保する結果となりました。自民単独で改選過半数の63に達しているので、予想以上の大勝といってもいいでしょう。

労働市場の流動化を支持する政党の議席数(自民党、維新、国民民主、あとなぜかN党も!)は152議席と大きく過半数を超えることになりました。キャリア論という観点からもメモリアルな選挙だったように思います。

【参考リンク】終身雇用やめるべきか…『日曜討論』各党の主張に議論百出

今回の選挙ではほかにもいくつか興味深い論点が明確になったような気がしますね。いい機会なのでまとめておきましょう。

なぜ有権者はリベラルを拒絶したのか

ところで筆者自身は無党派層であり、イデオロギー無しでその都度より優れた政策を持った政党に投票するようにしています(民主党に入れたことも普通にあります)。

そんな無党派な筆者から見ても、今回のリベラルの主張はあまりにもレベルが低すぎたように見えますね。

選挙前後の彼らのぼやきを並べてみればよくわかります。

彼らの主張をまとめると、こんな感じになります。

自公政権は法人減税のために消費税を増税し、年金減額など社会保障も切り捨ててきた。おかげで大企業は今や400兆円以上の内部留保をため込んでいる。本当は消費税の引き下げで景気回復するべきなのに、今回の大勝で大増税時代が来るだろう。有権者は自らの意志で衰退する道を選んだのだ。

以下でつっこんでおきますけど、これほど中身のない主張も珍しいと思いますね(苦笑)

● 自公政権は法人税減税と引き換えに消費税を増税し、おかげで大企業の内部留保は400兆円  

→ デマです

はい、以前述べた通り明白なデマです。

【参考リンク】法人税が消費税に置き換えられたって本当?と思ったときに読む話

というか、千歩譲って内部留保に課税したとしてもストックへの課税で賃上げ等を賄うのはどう考えても無理があります。どんな優良企業だって数年で経営危機に陥るはずです。

● 景気回復のために消費税は引き下げるべきだった 

→ 若い世代、とりわけサラリーマンの負担が増えることになるのでダメです

高齢者の医療費負担を巡り、医師会と連合・経団連の間で延々と綱引きが行われていることは有名ですね。

医師会はお得意様の高齢者に「別に悪いところが無くてもサロンがわりに遠慮なく通ってほしい。ツケはサラリーマンに保険料という形で負担させよう」というスタンス。

一方の連合・経団連は「まずは高齢者の自己負担を上げろ。それでも増税するなら高齢者自身や自営業も負担する消費税にしろ」というスタンスです。

この状況で「とりあえず消費税減税する」のがどれだけ現役世代、とりわけサラリーマンにとってヤバイことか説明するまでも無いでしょう。

恐らく最初は「期間限定で」とかなんとかマイルドに取り繕ってねじ込んでくるはずです。でも一度下げたら二度と上げられないでしょう。天引きの保険料率は厚労省が鉛筆舐めればすぐ変えられますけど。

【参考リンク】医療改革、患者負担で対立 医師会×経団連・連合など

あ、SNS上でひたすら「消費税廃止しろ!」とか繰り返してるアカウントがいたらよく見てみてください。社会保障の“し”の字も口にしないし、仕事の話もしないし、平日昼間っから消費税廃止とか一律給付金の話ばっかしてると思います。

彼らは高確率で無職でしょう。というわけでサラリーマンはそういうのからもがっつり徴収できる消費税推しでOKです。

● 次の選挙まで3年間あるので、自公政権はやりたい放題、大増税時代がくる

→ 正しいですけど、誰がやってもそうなります

いつも述べているように、国の一般会計歳出のうち最大の割合を占めるのはボリュームという点でも伸びという点でも社会保障であり、その65%は高齢者向け給付です。

そしてその金額は現在の129兆円から団塊世代が後期高齢者入りする2025年にはもう20兆円ほど伸びることが確定しています。

20兆円なので消費税にすると+10%ですか。来年くらいには議論が始まるんじゃないですかね。

一時期、経団連が「消費税19%に」という提言出して叩かれてましたが、あれって根拠がない数字というわけではないんですね。「今の社会保障を維持するなら、これだけ消費税上げなかったらサラリーマン死ぬぞ」という警鐘でしょう。

政権交代ですか?立民も共産党も「高齢者の社会保障をカットする」なんて一言も言ってないので政権交代しても確実に増税はされますね。むしろ彼らは安倍総理が行った年金減額措置を批判していたから、その見直しでもっと消費税上がるんじゃないですかね。

「そんなの信じられない!」という人もいるかもしれませんが、以前「埋蔵金があるから財源は大丈夫」って言って政権取ったら速攻で消費税5→10%に引き上げることを決めた政党がありましたね(苦笑)

と、ここまで見てきて思ったんですが、彼らリベラルがやっていることというのは要するに「内部留保とか法人税のデマを駆使して、議論の矛先が『高齢者の既得権』に向かないようカバーしつつ、現状維持すなわち『緩やかな衰退』を目指す」ということに他ならないんですね。
というわけで彼らの最大の勘違いも訂正しておきましょう。

● 今回の選挙で日本人は衰退を選んだ  

→ いえいえ、衰退を選んだリベラルを有権者が拒絶しただけです。

TBSが昨年の衆院選で行った出口調査によれば、自民党の年代別支持は10代20代が最も多く、70代がもっとも多い共産党、立憲民主党とは明確な違いが出ています。

有権者の中でもとりわけ若い世代は、衰退を避けるべく合理的な選択を行っていると言えるでしょう。

【参考リンク】■自民党は若者に超人気! 民主党を源流とする2政党なのに人気の年齢層が全然違う?!

以降、
れいわの本質は「今だけ、金だけ、自分だけ」
明暗を分けた2つの民主党

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Q: 「入社3か月で離職すると次の転職に影響ありますか?」
→A:「そういうのが続いてればあんまり印象は良くないですね」

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編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2022年7月21日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください