安倍元首相の国葬費用は、税金ではなくクラウドファンディングで

NHKより

安倍元総理の国葬の是非が問題視されている。大きく分けて以下の2点が争点だと思われる。

第1の問題点は「法的根拠」の有無だ。

この点について、岸田総理は内閣府設置法で内閣の所掌事務として定められている「国の儀式」として閣議決定によって実施できると説明している。

内閣府設置法4条3項33号には、「国の儀式並びに内閣の行う儀式及び行事に関する事務に関すること」と規定されている。

葬儀も「儀式」の一種なので、内閣府設置法を根拠として実施することは可能だ(葬儀の「儀」は儀式の「儀」と同じだ)。

内閣府設置法を素直に解釈すれば、国葬の法的根拠は存在すると私は考える。

第2の問題は、国葬に要する費用を税金で賄うことだ。

これは大いに問題がある。

南九州税理士会事件の最高裁判決は、強制加入団体である税理士会が特定の政治団体に対する政治献金のための特別会費を会員から徴収する決議を違法とした。

会員税理士各人には「思想信条の自由」(憲法19条)があるので、それに反する会費の徴収は強制加入団体として許されないという趣旨だ。

日本国民には「納税の義務」があり、日本国籍を有する限りその義務を免れない。

ある意味、日本国は巨大な強制加入団体であり、国民は税金という会費を支払って国籍を有していると考えることができる。

先の税理士会の事例を当てはめれば、強制的に徴収された税金を自民党元総裁の葬儀に使うのは、自民党と対立する感情を持つ納税者の「思想信条の自由」を侵害するものと考えることができる。

自民党に限らず、安倍元首相個人に対して敵対的な感情を有している納税者の「思想信条の自由」を侵害する恐れがある。

以上の点から、私は、国葬を行うことは法的に問題ないが、費用を税金で賄うことは法的に大いに問題があると考える。

代替案として、費用をクラウドファンディングのような寄付で全額集めるべきだと考える。

石原元都知事の時代に竹島を東京都が買うと表明したときに莫大な寄付金が集まったことを斟酌すれば、安倍元首相の国葬には想像以上に莫大な寄付金が集まると思われる。

クラウドファンディングの利用方法がわからない人たちのために、送金や持参による寄付も大々的に募ればいい。本当に偲んでくれる人たちの寄付によって葬儀が執り行われた方が、安倍元首相や遺族の方々も嬉しいのではないだろうか?

また、これを気に、行政等が大々的なクラウドファンディングの利用を始めてみてはいかがだろう?

保育園の設置や維持の費用をクラウドファンディングで募集すれば、心ある高齢者たちから多額の寄付が寄せられると期待できる。その他の子育て費用なども、使途を明確にすればクラウドファンディングの利用が可能だ。

いっそ、行政活動には財政的措置が必要という常識を一度見直すことはできないだろうか?

様々な政策を執行する前段階としてクラウドファンディングや寄付という方法を利用することができるものと私は考えている(この考えは、自由意志による寄付を前提とすべきだとするリバタリアニズムの立場にも近づく)。

ただでさえ日本政府の財政状況は悪化の一途を辿っている。

クラウドファンディングや寄付によって、「日本に従来から存在した支え合いの精神」が大々的に実現すれば、よりよい社会になるものと期待している。


編集部より:この記事は弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2022年5月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。