米6月個人消費は物価高受け拡大も、パウエル発言通り可処分所得はマイナス

米6月個人消費支出は前月比1.1%増と、市場予想の0.9%増を上回った。前月の0.3%増(0.2%増から上方修正)を超え、6ヵ月連続で増加した。

個人所得は前月比0.6%増と上方修正された前月と並び、市場予想の0.5%増を上回った。5ヵ月連続で増加した。

FRBパウエル議長 FRB公式ツイッターより:編集部

個人所得の伸びが消費支出を上回ったため、貯蓄率は5.1%とリーマン・ショックが直撃した2008年9月以来の低水準だった。詳細は以下の通り。

〇個人消費支出

個人消費の結果は以下の通り。名目ベースとインフレを除く実質ベースともに増加した。

・前月比1.1%増、市場予想の1.0%増を上回り6ヵ月連続で増加、前月は0.3%増(0.2%増から上方修正)
・前年比8.4%増と16ヵ月連続で増加したなかで2番目に低い伸び、前月は8.5%増
・実質ベース前月比0.1%増、5ヵ月ぶりに減少した前月の0.3%減からプラスを回復
・前年比では1.6%増と16ヵ月連続で増加したなかで最も小幅な伸び、前月は2.1%増

米6月新車販売台数が改善したように、耐久財が過去4ヵ月間で3回目のマイナスとなった前月からプラスへ戻した。非耐久財もガソリン価格が過去最高値を更新するなか、2ヵ月連続で増加サービスも値上げも重なり、光熱費や外食が主導し16ヵ月連続で増加した。

個人消費支出の内訳(前月比ベース)
・財 1.6%増、前月は0.8%減と4ヵ月ぶりに減少
・耐久財 1.5%増、過去5ヵ月間で2回目の増加、前月は2.9%減
・非耐久財 1.7%増、前月の0.5%増を含め2ヵ月連続で増加
・サービス 0.8%増と16ヵ月連続で増加、前月は0.8%増

チャート:個人消費、前月比の項目別内訳

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(作成;My Big Apple NY)

〇個人所得

個人所得の結果は以下の通り。実質ベースの前年比は21年3月に成立した追加経済対策の現金給付の反動もあって減少した。

・前月比0.5%増、市場予想並びに前月(0.4%増から上方修正)と一致、4ヵ月連続で増加
・前年比では2.6%増、前月は11.4%減
・実質ベース前月比0.1%減、年初来で3回目の減少、前月は0.3%増
・前年比では1.0%減と過去5ヵ月間で4回目の減少、前月は3.4%減

個人所得のうち、名目ベースで賃金・給与は16ヵ月連続で増加し、家賃収入も引き続き力強い伸びとなった。なお、米疾病対策センター(CDC)は21年8月、新型コロナウイルス感染予防策対策として、感染率が高い地域を対象に新たに21年10月3日まで住宅立ち退き猶予期間を設定。しかし、家主や不動産団体が撤回を求め提訴し、米連邦最高裁判所が21年8月26日に無効の判断を下したため、販売用物件の減少も重なって家賃の上昇が進行中だ。

所得の内訳は、名目ベースの前月比で以下の通り。

・賃金/所得 0.5%増と16ヵ月連続で増加(民間は0.5%増、政府部門は0.1%増)、前月は0.6%増
・経営者収入 1.4%増と6ヵ月連続で増加(農業は5.5%増、非農業は1.1%増)、前月は1.2%増
・家賃収入 2.5%増と12ヵ月連続で増加、前月は2.6%増と合わせ2011年1月以来の高い伸び
・資産収入 0.6%増と5ヵ月連続で増加(金利収入が0.6%増、配当が0.7%増)、前月は0.6%増
・社会補助 0.4%増、前月は横ばい
・社会福祉 横ばい、前月は0.2%増と5ヵ月連続で増加(メディケア=高所得者向け医療保険は0.6%増、メディケイド=低所得者層向け医療保険は0.1%増、失業保険は0.5%増と15ヵ月ぶりに増加、退役軍人向けは0.4%増と増加基調を維持、その他は0.7%減)

チャート:個人所得、前月比の項目別内訳

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(作成:My Big Apple NY)

〇可処分所得
・前月比0.7%増と5ヵ月連続で増加、前月は0.6%増
・前年比は3.3%増と2ヵ月連続で増加、前月は2.8%増
・実質ベースの可処分所得は0.3%減と年初来で3回目の減少、前月は横ばい
・前年比は3.2%減と6ヵ月連続で減少、前月は3.3%減

〇貯蓄率
・5.1%と2008年9月以来の低水準、前月は5.5%

チャート:実質の個人消費は、再び貯蓄を取り崩して拡大した様子を示す

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(作成:My Big Apple NY)

〇個人消費支出(PCE)デフレーター
→ガソリン価格が最高値を更新したほか、光熱費や食品も上振れするなか、インフレは前月比と前年比そろって市場予想を上回り再加速した。PCEデフレーターの前年同月比は、1982年1月以来の高い伸びを記録した。

・PCEデフレーターは前月比1.0%上昇し1981年1月以来の高い伸び、前月は0.6%の上昇
・前年比は6.8%上昇し1982年月1月以来の高い伸び、前月の6.3%を超え
・コアPCEデフレーターは前月比0.6%上昇し2021年5月以来の高い伸び、前月の0.3%超え市場予想の0.5%以上に
・コアPCEの前年比は4.8%上昇、市場予想並びに7ヵ月ぶりの低水準だった前月の4.7%以上

チャート:物価上昇ペースは再加速、引き続き実質賃金に下方圧力

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(作成:My Big Apple NY)

――米6月個人消費は物価高も重なって市場予想を上回る伸びでしたが、貯蓄率を押し下げ2008年9月以来の水準へ低下しました。

チャート:個人消費、貯蓄を取り崩して拡大してきたが・・

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(作成:My Big Apple NY)

インフレは6月に再加速したとはいえ、ガソリン価格を始め商品価格が下落し消費者センチメントにも変化がみられています。米7月ミシガン大学消費者信頼感指数・確報値のうち、1年先インフレ期待は5.2%と5ヵ月ぶりの低い伸びとなり、5~10年先インフレ期待に至っては2.8%と1年ぶりの低水準でした。インフレ期待に頭打ちの兆しがみられるなか、消費者信頼感指数自体は51.1と前月の50.0からわずかながら改善したものです。

チャート:米7月ミシガン大学消費者信頼感指数・確報値は、インフレ期待を支えに改善

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(作成:My Big Apple NY)

パウエルFRB議長は27日、7月FOMC後に「利上げペースは、今後入手するデータと経済の見通しの進展次第となる」と発言しました。記者会見では米Q2実質GDP成長率がマイナスとなるかは不透明と発言していたものの、米6月個人消費支出からPCEデフレーターの加速まである程度FRBスタッフのモデルにより把握していたことでしょう。その上で7月FOMCでは、景気かインフレかを天秤に掛けた上で、これまでのインフレ重視姿勢から景気に配慮する方針を決定したと考えられます。何より、インフレは「一時的」との表現を修正し、且つ75bp利上げを決断する前にバイデン大統領と会談していた事実を踏まえると、景気後退入りを否定し続ける政権のスタンスに配慮したようにも見えます。

個人消費支出は力強い伸びを遂げたとはいえ、インフレの下駄を脱いだ実質ベースでは0.1%増にとどまります。しかも、可処分所得は実質ベースで前月比0.3%減と年初来で3回目のマイナスとなり、前年同月比では3.2%減と年初来からのマイナス基調を維持しています。まさしく、景況判断を下方修正したパウエル氏の「個人消費は、実質可処分所得の減少や金融引き締めを一部反映して著しく鈍化(slowed significantly)」との発言と整合的です。

チャート:可処分所得、6月は前月比と前年同月比そろってマイナス

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(作成:My Big Apple NY)

パウエル氏が6月の数字を理解した上で利上げペース鈍化に言及したと考えるのは、自然ではないでしょうか。やはり、こちらで指摘しましたように、現時点ではパウエル氏はボルカー氏になれそうもありません。実際、FF先物市場では米6月個人消費支出やPCEデフレーターの上振れなどを受けながら、引き続き9月20~21日開催のFOMCで50bpへの利上げ幅縮小の確率が71%と優勢です。

チャート:FF先物市場、9月は引き続き50bp利上げを有力視

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(作成:My Big Apple NY)

仮に再び豹変するならば、インフレ加速が持続的となった時であり、バイデン氏との会談がカギとなりそうです。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2022年7月29日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。