移民国家の居心地:日本がなぜ、移民国家にならないか

先日、台湾系のイベントのグランドオープニングセレモニーを覗かせていただきました。驚いたことにカナダの副総督(クイーンエリザベスの名代であるカナダ総督の元にいる各州にいる代表者)をはじめ、連邦議員団、BC州の大臣ら議員団、そして開催地の市長をはじめとする市議会議員団がステージで次々あいさつするなど政治家の市民への寄り添い方が半端ではなかったのです。議員の総数は20名は下らなかったでしょう。

カナダ バンクーバー市 Oliver Crook/iStock

聞くところによると政党ごとの議員団はイベント会場に5-6人の議員軍団を送り込み、ステージであいさつをし、市民にイベントをアピールします。政治的発言は一切ありません。私も何人か知っている政治家と挨拶を交わしましたが、誰ともごく普通の会話で終始し、とてもフラットな感じがします。

このイベントが開催された場所はバンクーバー市の隣の成長著しいバーナビー市です。当地の成長力はバンクーバー市だけを見てもほとんど参考にならず、拡大バンクーバー地区(メトロバンクーバー)単位で見る必要があります。理由はバンクーバー市の開発余地が少なくなっていることとアフォーダビリティがなく一般の方はより遠い郊外に住まざるを得ないからです。関東で言う埼玉、千葉、神奈川と同じです。

その市議の一人が私に熱弁をふるいましした。バーナビー市は現在4か所を集中都市計画推進地区として開発を進めており、著しい人口増加に対応しているというものです。人口増加率は5年で7%増えており、拡大バンクーバー地区の年平均の1%を上回る状況にあります。現在、それらの地域には40-50階建ての住宅がにょきにょき林立していますが、じきに75-80階建ての住宅が複数建設されるとのことでした。

カナダには土地があるのになぜそんな高層住宅なのか、と疑問を持つと思います。答えは緑地や公園の確保であります。自然との共生ができやすいよう都市計画がしっかり考えられているわけです。また職住接近という発想からは戸建て住宅が広がるより鉄道駅のそばに高層住宅という方がアジア系移民には受けるのです。(白人は真逆で嫌がります。)

最近の傾向は政治の主導権が白人から様々な人種に変わってきている点でしょうか?アジア系移民の多いバーナビー市などは給与所得者の移民が主流です。2016年の国勢調査ですら移民が全人口の50.05%となっていますので今は更に増えているはずです。中華系の移民で有名なリッチモンド市は60%を超える人が移民でその大半はアジア系です。それゆえにそれらの住民を代表する政治家は非白人が半数以上を占めることになります。

これは政治判断にも影響するわけで、基本的にはよりリベラルに近くなります。そもそも連邦カナダが中道左派であり、移民国家の特性をそのまま表しています。では保守派はどこにいるかといえば基本的にはどんどん街の外に追いやられる感じでしょうか?あるいはバンクーバー島の多くの街も保守的な白人のメッカになります。これは英国のロンドンでも同じ傾向があり、街のセンターにいるのは移民と富裕層ばかり、という都市形成になります。バンクーバー市もダウンタウンはそれに近い状態になってきています。

住みやすいかといえばこれは太鼓判を押してよいでしょう。バンクーバーをはじめ、カナダ各都市が世界で最も住みやすい街トップ10に3都市ぐらいは常にランクインしています。その理由はアメリカほど格差を感じることもなく、移民も人種も差別されないことが大きいと思います。社会保障も充実しているし、移民への支援策も数多くあります。

コロナ後、カナダへの留学生が異様に増えているようです。数字として挙がってきませんが、とにかく短期の学校(3-6か月)には学生が溢れており、日本人も急増しています。昨日書いたように、その中にはカナダに残りたい、住みたいという方もいるわけですが、その夢を叶える方法がしっかりあるのもチャレンジや夢という点で人々の心を揺り動かすのかもしれません。

日本がなぜ、移民国家にならないかといえば最大の理由は社会がまだ移民と同化できず、言葉も交わせないことではないかと考えています。その点、カナダはベースが英語であり、アフリカ系でも南米系でもアジア系でも変な英語をしゃべる人も多いのですが、それを苦にすることなく受け入れ、やり取りできることが素晴らしいと思います。

逆に移民国家でのルールとは社会規範を守るということかと思います。どの人種もそれぞれ自分の常識観があり、生まれ育った風習があります。が、それを社会に強く要求することなく、あくまでも自分の希望が受け入れられるかその可能性を確認し、社会はそれをより多く受け入れることに注力します。例えば行政や銀行の窓口では最低でも5-6か国語ぐらいは対応してくれます。日本語サービスも一定程度は備えています。

では良いことづくめかと言えば経済に関しては必ずしも同意しません。競争力という点で劣るのです。地道な研究などはよいのですが、莫大な資金と投じて何か新しいことをするというようなことはアメリカに全くかないません。また優秀な人材がアメリカに流出しやすいという傾向も見て取れます。例えば医者など優秀な研究者はアメリカに行くと言われています。経済のみならず、例えばオリンピックなどをやっても案外メダル数が伸びないのがカナダで、とことん突き詰めるという気持ちにならないのんびりしたところがあるのが弱点といえば弱点かもしれません。

そうは言っても私も30年以上ここに住んでいるということは東京のど真ん中に住むよりもはるかに魅力的だから、ということを身をもって感じた結果なのだろうと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年7月31日の記事より転載させていただきました。