大物テロリスト殺害:続く米国とテロとの戦い

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今回は米軍は関係ない。CIA独自の作戦だろう。

元CIA工作員の友人が、先ほど電話で言った。

ほぼ同時にバイデン大統領がTVで演説。一回コロナ陰性になったが、再度陽性。しかしこの作戦成功を聞いて元気が出たとみえる。カメラに向かって数回指差しながら、いつもの弱々しい老人とは違う強い口調で言った。

「いまや正義が下された。どんなに時間が必要でも、どこに隠れても、米国民に驚異である限り、米国は貴様を見つけ出し、排除する」と言った。

9.11など数々のテロ事件を引き起こしたイスラム過激派アル・カイダ。そのリーダーだったのがウサマ・ビンラディン。ウサマは2011年米国海軍特殊部隊シールズによって、パキスタンの隠れ家で、胸と顔を1発ずつ撃たれて殺された。

ウサマの後を引き継ぎ、ナンバー2から指導者になったのがアイマン・アル・ザワヒリ(71)だ。911の作戦計画にかなりの程度まで関わった。エジプト出身の医師で宗教研究家。

殺害されたザワヒリ氏

2日ほど前、CIAのドローンが、アフガニスタンの隠れ家に潜むザワヒリに対して、通称「忍者ブレード=R9X」改良型ヘルファイアー・ミサイル2発を撃ち込み、殺害した。

ウサマの時は一緒にいた家族も射殺された。爆破を伴うドローン攻撃はリモートのため、家族や民間人の巻き添えも多い。だが今回民間人の巻き添えはいない。そのため、周りを広範囲に爆破するいままでの通常型ヘルファイアーではなく、ピンポイント攻撃が可能な新型「忍者」と言われる。

この忍者ミサイル。手裏剣、空飛ぶギンスとも呼ばれる。基本的にいままで無人機に搭載されているヘルファイアー・ミサイルに似る。決定的な違いは爆薬・炸薬が積まれていないこと。通常は発射され目標に当たると爆薬が炸裂、その破片で標的を破壊する。この忍者は爆薬の代わりに6枚の大きく鋭い刃が搭載されており、発射され目標に当たる前に6枚の刃が広がり、回転しながら標的を切り刻む。これまで多かった戦車や家屋を爆破するのと違って、周りへのダメージが最小限で済むため、今回のような高価値ターゲットの人間をピンポイントで殺す。オバマの指示で作られたヒトの暗殺に特化したミサイルといえる。こんな兵器に日本語が使われるとは、嬉しいような、悲しいような。

改良型ヘルファイア・ミサイル「忍者ブレード=R9X」

昨年8月には近い場所で、誤爆があった。同じ無人機だが、通常のヘルファイア・ミサイルの通常弾頭が使われた。ビデオをみると、画面の中央、プラスの中央、標的を意味するが、車に照準が合ってしばらくすると車が爆発した。今回の忍者ミサイルと違う爆薬使用なので、周辺が吹っ飛んだ。死んだのは10人、テロリストだと思われたのは、善意の男性で米との良好な関係もあった。巻き添えは7人の子供。さすがに米国内でもかなりの騒ぎになり、巨額の賠償金が支払われた。

この事件もあり、今回のザワヒリ殺害は慎重に進められた。忍者ミサイルが使用され、周りの被害が殆ど無しに、ザワヒリだけを切り刻み、引き裂いた。現場の隠れ家の写真をみると、本当に一部だけが破壊されている。物凄い精度が高い、精密誘導兵器だ。GPS利用で、一部は自律的に飛ぶ。一部はモニターをみながら操作する。昔アフガンで取材したものは、大金で雇った子供近い協力者が、目標の隠れ家に発信器を投げ込んだ。その電波を頼りに上空からミサイルが突っ込む。旧式でいまやそんなことはしないと思われる。

アフガンは主権国家。アフガン(タリバン)政府への通告無しに、米諜報が勝手にやった事件なので、国際法違反では?という疑問も当然出る。米政府はこう言った。2年くらい前にタリバン政権とアルカイダなどテロリストの活動はさせないという約束をした。今回明らかになったように、ザワヒリを匿っていた。そのドーハ合意違反なので、米国は勝手に攻撃した。やはりパキスタンの主権侵害でウサマを殺害したケースに似ている。アフガンもパキ当局もテロリストとつながっていそうなので事前に知らせると情報が漏れる。信用できないので、言わなかった。なにが悪いのだ?という声が聞こえそうだ。

テロとの戦いに関して米国は遠慮などしない。個別的自衛権とでもいえる、どこの国でも合法の正当防衛なので、遠慮などする必要はないという考えだ。

筆者は昔、キューバ危機を現地訪問も含めて深く取材した。その時、カストロ暗殺のためにマフィアまで使うことも含めてなんでも米国はやったのを知った。さすがにいろいろな問題が起きて後悔もあり、その後、政治的な理由で外国主権を侵して要人を暗殺してはいけないという国内法が成立した。だが相手がテロリストになると話は全く別だ。やりたい放題に近い。他国はあまり文句を言えない。これからもこの「個別的自衛権」行使は続くだろう。

世界中で失笑をかった昨年8月の「撤退」以降、アフガン国内には米軍などは現在はいない。完全にCIA、 DIA ,NSAなどによるリモート諜報活動の結果だ。詳細はまだ不明だが、ウサマの時と同じように、ヒューミント(ヒトが絡む諜報活動)、シギント(通信傍受など電子技術利用)、オシント(公開情報を独自の方法で分析)等々、ありとあらゆる方法を使って居場所を突き止め、生死関係なく”正義”を与える。居場所に関する貴重な情報には数億円が払われることも珍しくない。ザワヒリの首は33億円の懸賞金がかかっていた。今回は通報者はないと聞く、米諜報独自の業績だ。見つかれば大体のケースが、有無を言わさない問答無用の殺害だ。切り刻むミサイル使用と共に、どこにいても見つけて殺す、これが米国お得意の「抑止力」の典型だ。

上記はプレデイターだ。この前にヘルファイアミサイルが搭載された。それまでは偵察中心で攻撃用武器はなかった。しかし有名なエピソード。追いかけていたウサマ本人を上空から見つけたが、ミサイル搭載がなかったので、逃した。それを切っ掛けにミサイルを搭載するようになった。CIA当事者と話したが、すぐに殺せたのにと、口惜しがっていた。

筆者が知っている限り、米諜報は20年間に渡り、ザワヒリの行方を追っていた。

米軍撤退後、タリバン政権が復活した。ザワヒリは安心したのか、それ以降、アフガン首都カブールの親戚を頼って、引っ越してきた。筆者も行ったことがあるカブールの日本大使館近くの住宅地だ。過去10年以上取材したタリバンのハッカーニー族が仕切る家屋の2階バルコニーにいる時に、米ミサイルが爆殺したという。7月31日午前6時くらいのことだ。

事件後すぐに未確認情報が入った。今回ザワヒリと共に2階のバルコニーにいて、米CIA無人機から発射された6枚の大型刃付きのミサイルで引き裂かれたターゲットに、もう1人いた。米軍撤退後、アフガンを仕切ったタリバンの強硬派の1人、シラジュデイン・ハッカーニという。

筆者は20年くらい前に、米軍の対テロ作戦チームの取材をした。それが切っ掛けでハッカーニ一族の行方を追った。父親は特に残酷で有名、かなりのヒトを殺害したといわれる。

今回ザワヒリと一緒に惨殺されたと思われた息子はまだ40代。筆者が追い始めた時は20歳くらいの若者だった。父子共に、行方が分かっても、すぐに移動、なかなか場所が特定できない。しかし米軍撤退後、この息子のシラジュデインはタリバン政権の治安などを司る内務大臣になった。最近はアフガン警察の行事に登場した。

それが1つの切っ掛けでCIAが場所や動きを特定。ザワヒリと共に、ハッカ二一族が所有する家屋のバルコ二ーに2人でいる時、一石二鳥とばかり、米の忍者ミサイルが発射されて、2人を同時に切り刻んだという可能性があった。米にとっては、ターゲットの2人が同じ場所にいて、同時に殺せる絶好のタイミングだった。

だがそれから10時間くらいで、米当局者は現場にハッカー二はいなかった。死んだのはザワヒリだけと言った。今回はなかったが、米はもしテロリストと断定、機会があれば、ハッカー二を排除する可能性が残る。

無人機プレデイター基地のオペレーションルーム
筆者撮影

今回も各種の説があり、どこで忍者ミサイルの発射ボタンを押したか明確ではない。可能性の1つは米本土のCIA基地でモニターを見ながら操作。恐るべきピンポイント攻撃だ。

筆者は過去30年くらいイスラム過激派の直接取材をしてきた。一回はウサマの右腕をロンドンで対面取材。その時に「カブールに行けばウサマにも会える」と言われた。当時ウサマは米メデイアを憎んでおり、ある意味”無難な”日本人ジャーナリストなら話しても良いと言ったそうだ。その時、エジプトで別のテロリストのアポがあり、涙を飲んだ。人生で上から3本の指に入る後悔だ。

さらに9.11事件で、大型飛行機が(筆者などの)「予告通り」衝突、崩壊した世界貿易センタービル。この建物は9.11の8年前の1993年にも同じ組織アル・カイダに攻撃された。同じビルの地下駐車場に爆発物を積んだトラックが駐められ、爆発した。10数人の死亡者と負傷者多数が出た。

その事件の主犯がエジプトから来た盲目のオマル・アブドラ・ラーマン師だ。

イスラムでは絶対の命令「ファトワ」を発することができる。そこまではできないウサマより格が上だ。

2013年。アルジェリアで日揮の日本人10人を含む約40人が惨殺されたテロ事件で、犯人側がラーマン師の解放を要求したことでも知られる。

筆者はFBIとほぼ同時に友人を通してラーマン師と親しくなり、FBIにより逮捕され、刑務所に収監された同師に数時間会って話ができた。それ以降、米司法省は居場所を隠して、場所が極秘の獄中で死んだ。世界で最初で最後の対談インタビューだった。

ラーマン師(右)。アルジェリアのテロ事件後、機密の場所に移されて自然死したと言われるが真相は不明。
筆者提供

筆者に対して同師が言ったこと。

俺たちは聖戦を継続。自分の息子はウサマと動いている。必ずやまた米本土の主要施設を攻撃する。

筆者は友人の司法省、CIA、FBI に対談の内容、新たなテロの警告を知らせた。(それとは別筋で、飛行機を乗っ取り、、米国内の目標に突っ込むというシナリオも取材で聞いた)

だがそれから8年後に9.11が起き、約3000人が亡くなった。

筆者が直接話したイスラム過激派はかなりの数だ。なぜか皆に好かれる。似ているからか。アフガン北部同盟のマスード将軍爆殺事件の主犯も含む。皆が一見、穏やかな感じだ。口調もきつくない。だが、全身から信念、怨念、確信のようなオーラが発散されているのを感じる。本気で米国を憎んでいる。自分の命を平気で賭ける。彼らには彼らの理屈がある。筆者が「本当の聖戦とは違うだろう」と言っても、聞く耳を持たない。

憎悪が憎悪を生む。今回のように指導者を殺しても、「モグラ叩き」のように、次から次に新しい指導者が生まれる。

今回のザワヒリ排除で、アルカイダはますます弱体化したとされる。だがISや他の似た組織はまだ元気だ。残念ながら、米国とテロとの戦いは永遠に続くだろう。