12人の国会議員、ジェンダーを語る①

衛藤 幹子

昨年の上半期、シンガポールにあるコンラート・アデナウアー財団が主催するアジア9カ国(日本、韓国、インドネシア、マレーシア、フィリピン、東ティモール、バングラデシュ、ネパール、スリランカ)+台湾の比較研究プロジェクトに参加した。

研究では、それぞれの国で10人前後の国会議員に聞き取り調査を行い、かれらがジェンダー平等をどのように考え、またその実現に向けていかなる活動を展開してきたのか検証した。私は日本を担当、12人の現役国会議員にインタビューをした。

SeanPavonePhoto/iStock

調査結果は「Substantive Representation of Women in Asian Parliaments」という本になり、オープンアクセスの電子版が一足先にアップされた。詳細は電子版を読んでいただきたいが、12人の方々の興味深い見解、そして何よりも実にユニークな活動を英語書籍の中に留め置くのは何とも惜しく、分割して紹介することにした。今回はその1回目、序章といったところだ。

私の章(日本の事例)のリンクは:

Substantive Representation of Women in Japan | 3 | Pursuing Gender Equ
Women account for only 14.3% of the members of Japan’s national parliament, known as the Diet – women members comprise 9.7% and 23.1% in the Lower and Upper

全章へのアクセスは:

Substantive Representation of Women in Asian Parliaments | Devin K. Jo
Combining data from nearly 100 interviews with national parliamentarians from ten Asian countries, the contributors to this book analyze and evaluate the

ここに登場する12人の国会議員は、ジェンダー平等という調査目的を伝えてインタビューを依頼した19人のうち、趣旨を理解し、快諾してくれた方々である。したがって、かれらは、713人の国会議員の中でもジェンダー意識の高いグループだと思われる。

インタビューの折、公表への承諾を得ているので、実名を出しても差し支えない。しかし、伝えるべきは人物ではなく、その発言にある点、また海外の読者にとって日本人の名前は覚え難く、読み進めるうえで煩雑になる点を考慮して、本の中ではコード名を用いた。本との整合性をとるため、それに従った。

 12人のプロフィール

12人の簡単なプロフィールを表に示した。

12人のうち男性は7人で、女性5人を上回った。主題が主題だけに、男性議員はインタビューを渋る可能性が高いと考え、女性よりも多く依頼をしたところ、予想以上に承諾の返事があった。また、偶然にも、70代から30代まで各世代がバランスよく揃った。全党には及ばなかったものの、与野党両方の見解を聞くことができた。

 

ジェンダーや女性政策への関心の契機

12人の中には、ジェンダーや女性問題について表立って発信することのなかった人も少なくない。ところが、蓋を開けてみれば、その度合いに濃淡こそあれ、どの人もジェンダー平等に関心を持ち、自論を大いに語ったのである。

さて、このような12人、ジェンダー問題への関心のきっかけは何であろう。生育環境、教育、ライフサイクル、家族や交友関係など、様ざまな要因が影響していたが、男女で異なる傾向がみられたのは興味深い。

女性議員の場合は、妊娠、出産、育児といった女性のライフサイクル上の経験がジェンダー観の形成に大きく関わっていた。たとえば、Ms. Bは、子どもが生まれるまでは、意識的に外交、安全保障の問題に取り組むようにしてきたそうだが、子どもが産まれたことで、女性を取り巻く現実の厳しさを痛感させられ、「私でさえこういった経験をしているのであれば、世の中の女性たちはもっと大変な苦労をされているだろう」と思い至り、国会の「数少ない当事者として政策立案・政策決定・意思決定に関与していく必要性を感じた」と言う。

また、Ms. Cと Ms. Lは、自分の子どもの病気や障がいに直面したことで、重い障がいのある人、シングルマザー、貧困に喘ぐ人などより弱い立場の人に寄り添う政治を目指すようになった。

一方、男性議員は、母親、妻、女性のスタッフや同僚議員といった身近な女性による影響が大きい。シングルマザーの母の苦労を知るMr. K、妻や女性秘書に支えられて選挙を勝ち抜いてきたMr. F、男性同僚が風見鶏のような行動をするなかで信念を曲げず、粘り強く取り組む女性同僚を目の当たりにしたMr. Gなど、女性たちが彼らのジェンダー/女性政策への関心を触発した。

意外なきっかけを持つのがMr. Jだ。30代後半の同氏、学生時代にフェミニズムに関心を持ち、ジェンダー関連の授業を履修したというではないか。今後高校や大学でジェンダーを学んだ若い世代の議員が増えれば、ジェンダー平等は国会の常識になるかもしれない。少し希望が湧いてきた。