コロナワクチン接種後に懸念される中・長期的な副反応

前回投稿した論考では、BA.5に対しては4回目ワクチンの感染予防効果は期待し難いことを指摘し、ワクチンによる副反応も考慮して、接種の是非を決めるべきであると主張した。

(前回:BA.5に4回目ワクチン接種は有効か?

接種直後に見られる発熱や接種部位の疼痛、さらにはアナフィラキシーなどの副反応のほか、中・長期的な副反応の発生も懸念されるが、中・長期的副反応に関する情報は少ない。わが国におけるコロナワクチンの接種回数は2022年6月までに2億8,000万回に達し、これまでに中・長期的な副反応を含めて膨大な数の事象が報告されている。

わが国では、ワクチン接種後の副反応が疑われた場合には、予防接種法に基づき医療機関から、薬機法に基づき製造販売業者からの報告が義務付けられている。諸外国にも同様の制度が存在し、米国におけるVAERSや英国におけるYellow Card Schemeがそれにあたる。日本の制度とは異なり、VAERSやYellow Card Schemeでは接種者本人やその家族からも報告することができる。

これらの制度は、副反応疑い情報をモニタリングすることで、ワクチンの安全性について早期に警告することを目的としており、ワクチンと副反応との因果関係を解明することが目的ではない。

今回の論考では、わが国で収集されたコロナワクチンによる中・長期的な副反応の頻度を、インフルエンザワクチンの副反応報告や英国におけるYellow Card Schemeと比較することで、前回の論考で述べた責任を果たすこととした。

undefined undefined/iStock

2021年から2022年の16ヶ月間におけるコロナワクチンの接種回数は、2億8,274万回で、2015年から2020年までの5年間におけるインフルエンザワクチンの接種回数の2億6,248万回に匹敵する。この間に報告されたインフルエンザワクチンの副反応、死亡報告数はそれぞれ1,967回、35回であったが、コロナワクチン接種後の副反応、死亡報告数は34,120回、1,761回でインフルエンザワクチンの17倍、50倍であった。

この大きな違いの理由として、新しく開発されたワクチンは既存のワクチンと比較して副反応が報告される頻度が高いことが知られており、報告バイアスが関与した可能性は否定できない。

英国におけるコロナワクチンの接種回数はわが国のおよそ1/2であるが、副反応、死亡報告数はわが国の13.5倍、1.3倍であった。この差は、英国では接種者本人あるいは家族が報告できるのに対して、わが国では医療機関や製造販売業者しか報告できないこと等によると思われる(表1)。

表1 インフルエンザワクチンとコロナワクチンの副反応・死亡報告数の比較

コロナワクチン接種後に見られる中・長期的な副反応として、自己免疫疾患、ウイルスの再活性化、悪性腫瘍について取り上げる(図1)。

図1 コロナワクチン接種による中・長期的な副反応の可能性

コロナワクチンの作用の一つは、体内でスパイクタンパクに対する抗体を産生して感染防御することであるが、産生された抗体が、脳や筋肉などヒトの組織抗原と交差反応することが報告されている。報告では、検討した55抗原のうち25抗原との交差反応が見られた(Front Immunol. 2020; 11: 617089)。

この結果は、ワクチンの接種で産生されたスパイクタンパク抗体が交差反応を示すヒトの臓器を攻撃して自己免疫疾患を引き起こす可能性を示唆する。

2022年の3月にファイザー 社は、敗訴によりコロナワクチンに関する副反応の分析結果を開示した。ワクチンの接種が開始された2020年12月1日から2021年2月28日までの3ヶ月間に収集された副反応報告を含む本文書には、48種類の自己抗体の出現と38種類の自己免疫疾患の発生が記載されている。自己免疫疾患の種類は、血液、消化器、脳神経、呼吸器、循環器、腎臓、内分泌、皮膚、筋肉、耳鼻科領域、眼科領域と多種類の臓器に及んでいる。

ワクチン接種により自然免疫力が低下する機序も研究され、末梢血リンパ球の分画がワクチンの接種前後で変化することが示された(Cell Discov. 2021; 7: 99.)。自然免疫力の低下は、ウイルスの再活性化やがん細胞監視機構の減弱をもたらす可能性がある。実際、ワクチン接種後に、潜伏していた水痘ウイルスが活性化して帯状疱疹の発症が増加することは、統計学的にも示されている。

がん細胞に対する免疫監視機構が減弱すれば、がんの発症や再発の増加さらに既存のがんの急激な増大などが起こり得ると考えられるが、このようなことが実際に起きているかについての解答は、もう少し長期の観察期間が必要であろう。

自己免疫疾患や、ウイルスの再活性化、悪性腫瘍がワクチン接種後に増えている可能性はあるだろうか。コロナワクチン接種前における3疾患の発生頻度の代わりとして、コロナワクチンの接種が開始される以前に、コロナワクチンと同じシステムで収集されたインフルエンザワクチン接種後の副反応発生頻度と比較した。自己免疫疾患、ウイルスの再活性化、悪性腫瘍の代表として、それぞれ、ギラン・バレー症候群/血小板減少性紫斑病、帯状疱疹、悪性リンパ腫を取り上げた(表2)。

表2 疾患別にみたインフルエンザワクチンとコロナワクチンの副反応頻度の比較

まず、その発症とコロナワクチン接種との因果関係が認められている心筋炎と血栓性血小板減少症について比較した。心筋炎、血栓性血小板減少症については、インフルエンザワクチン接種後の報告数は1回、0回に対して、コロナワクチン接種後はそれぞれ、760回、96回とその差は顕著である。

英国での血栓性血小板減少症の頻度が、日本の9.7倍みられるのは、血栓性血小板減少症の発症リスクが高いとされるアストラゼネカ製剤が、わが国ではその使用頻度が1%にも満たないのに英国では34%を占めていることも関係すると考えられる。

自己免疫疾患であるギラン・バレー症候群、血小板減少性紫斑病のコロナワクチン接種後の頻度は、インフルエンザワクチン接種後の6倍、8.5倍であったが、英国の頻度は、日本のさらに5.6倍、4.5倍であった。

帯状疱疹は、小児期に感染した水痘ウイルスが、加齢や若年でも免疫力が低下すると再活性化して発症する疾患であるが、インフルエンザワクチン接種後にはわずか3回、コロナワクチン接種後でも137回しか報告されていない。

私の周囲でも、ワクチン接種後に帯状疱疹を発症した知人が複数いることを考えると、ワクチン接種後に副反応が見られても、軽微な副反応では医療機関や製造販売業者から医薬品医療機器総合機構(PMDA)に報告されるのは、ごく一部に過ぎないと思われる。

米国のVAERSの検討でも、報告されるのは発生例の1%であった。英国での帯状疱疹の報告頻度が、日本の50倍に達するのは、英国では接種者や家族が副反応を直接報告するからであろう。

免疫が低下すると再活性化するウイルスとして、水痘と並んで有名なのはエプスタイン・バー(EB)ウイルスである。日本人の95%はEBウイルスの罹患歴がある。小児期に罹患した場合にはほとんど無症状であるが、Bリンパ球に生涯潜伏感染する。稀に免疫の低下や加齢などの要因によって、EBウイルス感染Bリンパ球が悪性化して悪性リンパ腫を発症することがある。

一例として、骨髄移植後の免疫低下状態に、EBウイルスが再活性化して悪性リンパ腫を発症することがある。その原因は、EBウイルス抗原を認識する細胞傷害性Tリンパ球が移植後枯渇するからである。

悪性リンパ腫に対する有効な治療法として、骨髄移植ドナーの末梢血リンパ球から、EBウイルス抗原特異的細胞傷害性Tリンパ球を誘導して体外で大量に培養し、培養細胞を患者に輸注する治療法が開発されている。私自身も、腹部にできた巨大な悪性リンパ腫が、抗がん剤や放射線を使うことなく、培養細胞を輸注するのみで治癒が得られた経験がある。いかに、悪性腫瘍のコントロールに、免疫力が重要であるかを示すよい例である(図2)。

図2 EBウイルス抗原特異的細胞傷害性T細胞療法が著効した悪性リンパ腫の一例

左図の茶色に光る部分が悪性リンパ腫であるが、移植ドナーから誘導したEBウイルス抗原特異的細胞傷害性T細胞を輸注することで完全に消失、患者は10年間寛解を維持している。右図の茶色の部分は膀胱で悪性リンパ腫ではない。

EBウイルスはその他、血球貪食性リンパ組織球症の原因となることでも知られている。血球貪食性リンパ組織球症は、抗生剤に不応性の持続する発熱、皮疹、肝脾腫、リンパ節腫張、出血症状など多彩な症状が見られる予後不良な疾患で、免疫系に異常が見られることが多い。

驚いたことに、コロナワクチン接種後の副反応報告に、20人の血球貪食性リンパ組織球症と10人の悪性リンパ腫が含まれており、そのうち5人が死亡している(表3)。インフルエンザワクチン接種後に1人の血球貪食性リンパ組織球症が発生しているが、悪性リンパ腫の報告例は見られない。英国からは、91人の悪性リンパ腫の報告例がある。

表3 EBウイルスの再活性化が関連したと考えられるコロナワクチン接種後の死亡報告

今回、紹介したワクチンによる副反応をモニタリングするシステムは、ワクチンの安全性について早期に警告することを目的としており、ワクチンと副反応との因果関係を解明することを目的としたものではない。

米国では、ワクチンと副反応の因果関係を検討する目的で、予防接種歴と診療記録をリンクしたVaccine Safety Datalink(VSD)が存在する。因果関係を証明する王道は未接種群と接種群の副反応の発生頻度を比較することであるが、コロナワクチンに比較試験を適用するのはハードルが高い。

そもそも、副反応の発症頻度が100万回接種あたり1回にも満たない低頻度であるうえに、全人口の8割以上が接種済みであることを考えると、コントロール群として背景を揃えた未接種者を集めるのは容易ではない。それ以上に、他のワクチンと違い短期間にワクチンの効果が減弱することを、接種群においては考慮する必要がある。

今年に入って国内で開催される各専門領域の学会の演題を見ると、自己免疫疾患を主に、コロナワクチン接種後の副反応の発表が目に付く。私の専門とする分野が、EBウイルス関連悪性腫瘍なので、今回の論考でEBウイルス関連副反応を取り上げたが、各領域の専門家が副反応報告のリストに目を通すことによって、モニタリングとしての価値が高まるに違いない。

コロナワクチン接種後の中・長期副反応の今後の動向については目を離すことができない。