ジャーナリストが殺害されるケースが後を絶たないメキシコ

ミチョアカン州のジャーナリストによる、ウェブサイト「Monitor Michoacán(Cuartoscuro)」のディレクター殺害に対するデモ
エル・フィナンシエロ

大統領の記者会見で一人の記者が身柄の護衛を嘆願

メキシコでアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール氏(アムロ)が大統領に就任して以来、早朝に記者会見が行われている。7月22日、記者のカルロス・アルバレス氏がアムロに身柄の護衛を嘆願した。メキシコで最大の麻薬組織カルテル・ハリスコ・ヌエバ・ヘネラシオン(CJNG)から死の脅迫を受けているというのが理由だ。

3年前にも同じく記者のヌールデス・マルドナルド氏が同じ嘆願をした。ところが、今年1月に彼女は殺害された。

これまで4人の大統領政権下で154人のジャーナリストが殺害された

2018年12月にアムロが政権に就いてからこれまで37人のジャーナリストが犯罪組織によって殺害されている。アムロの前の3人の大統領の政権時を見ると、ビセンテ・フォックス氏の22人、フェリペ・カルデロン氏の48人、ペーニャ・ニエト氏の47人が殺害されている。(7月20日付「エル・フィナンシエロ」から引用)。

6年の就任期間のあるメキシコの大統領ということで、アムロは任期満了までこの先まだ2年ある。既に、彼の政権下で37人が殺害されているということから、彼の任期満了時にはこれまでで最も多くのジャーナリストが殺害されたことになるであろう。

アムロに護衛を嘆願したヌールデス・マルドナルド氏が殺害されたあと、アムロのジャーナリストを保護する姿勢が十分でないとして2月16日にはアムロの記者会見に出席したジャーナリストは質問を一切拒否する姿勢を見せたこともあった。

不正を暴くジャーナリストになることは死を覚悟することだ

メキシコで犯罪組織や政治家、軍人、警察などの不正を調査し報道して行くのを仕事にしているジャーナリストは死を覚悟して務めを果たしていかねばならない。

しかも、殺害の疑いのある容疑者が逮捕され有罪になる確率は僅かの5%。犯罪者が不処罰になる確率は90%以上とされている。政治家、軍人、警察そして犯罪組織の間で癒着が濃厚で証拠が十分に揃わないという場合が往々にしてあるということなのである。

メキシコではジャーナリストや人権活動家の身の安全を保護する組織はある。しかし、それも資金難で彼らを保護できないのが現状だ。また、殺害されたジャーナリストの家族への資金的な支援もできないでいる。ということから、政府に直接身柄の保護を嘆願するしかないのである。

今回のアルバレス氏の場合もこの組織の資金難などから彼を護衛することが廃止されたのであった。

今回、大統領に身の安全の保護を直接嘆願したカルロス・アルバレス氏は30年ジャーナリズムに籍を置き現在フリーの記者で、汚職や政治家の権力乱用、麻薬組織の活動などを調査してメキシコの主要紙ミレニオ、プロセソなどに記事を寄稿している。

彼が大統領に直接嘆願した2日前の20日の夜中2時に彼の娘を国外に送ったことも明らかにした。というのも娘も脅迫されていたからだ。仲間でジャーナリストのアントニオ・デ・ラ・クルス氏は23歳の娘と一緒に殺害されたという事例もある。(7月22日付「ABC」から引用)。

かつてジャーナリストのひとりは「ジャーナリストになるということは歩く死人になることだ。我々は死の宣告を受けているのだ」と語ったことがある。