黒坂岳央です。
日本の小説家、故・中島らもさんは「今夜、すべてのバーで」の中で、数々の名言を残した。中でも「教養とは、学歴でない。自分ひとりで時間が潰せることができる能力である」という言葉は特に響いた。本書が講談社から出たのは1991年と今から30年も前なのだが、時を越えてTwitterでこの一節が取り上げられ、大きな話題を呼んだ。
教養があれば、世界は輝いて見える
筆者は大量の読書を経て、昔に比べて少しばかりの教養を手にすることができた。自身の経験から言えることは、「教養は色あせた世界に輝きをもたらす光」ということである。
飛行機に乗ると、多くの人が雑誌やスマホを片手に時を過ごす。もちろん、過ごし方は人それぞれなわけだが、少しでも地理の知識があれば、飛行機の小さな窓からの眺めが退屈なものから楽しさを帯びたものへと変わる。
たとえば富士山を上空から見ると「ふーん」で終わってしまいがちだ。だが、実は富士山の近隣に流れる富士川と静新潟県の糸魚川を境に、東側が50ヘルツ、西側は60ヘルツにわかれている。その知識を元に上空から見ることで、普段はまったく意識しない「ボーダーライン」が浮かび上がるように思えてとても楽しい。
また、図書館へ行くたびに毎回、自分に新たな着想や視点を与えてくれる種子がたくさん存在していることを感じる。筆者は書店や図書館へいくと、一人で何時間でも楽しく過ごせる。昔はそうでなかったが、勉強をして価値観は一変した。別の例としては、外国語に触れると歴史や文化人類学に影響を受けた英単語や、フレーズを知って驚きと面白さを感じられる。
食事についても栄養の知識をつければ、健康や体調への影響、味わいの違いを人体実験することはとても楽しい。ダシもスーパーでボトルの既製品を買うのではなく、あえてかつおぶしを削るところからやってみたり、素材を詳しく調べて知識とともに味わうと、途端にこれまで見過ごしていた世界がたくさんあることを理解できる。
教養があれば世界は輝いて見える。
教養が一人の時間を楽しくしてくれる
さらに教養は「孤独」という人類の大敵を追い払う力があると思っている。一人の時間が「寂しい」から、「考えるのが楽しい」「もっと知りたい、調べたい」という時間に変わるのだ。
筆者は大学に入るまではとても寂しがり屋な性格だったと記憶している。誰かと一緒にいないと不安を感じたり、「一人でいることは友達がいないかわいそうで、敬遠するべき人物だ」という誤った認識を持っていた。それから、勉強や読書を熱心にするようになった。大学に入ってからは、「大学に巨費を投じたからには、少なくとも支払った学費以上に本を読もう」という気持ちで、毎日図書館に夜遅くまで入り浸り、勉強と読書を続けた。それからはずっと一人の時間が楽しくなった。
むしろ、誰かといると、ふとした瞬間に着想を得たことを実践できなかったり、不明点をその場ですぐ調べることができないことにストレスに感じるようになった。今は家庭を持つ立場となったが、今でも変わらず一人の時間はずっと楽しいし、孤独感を覚えた記憶はまったくない。今の価値観は紛れもなく、教養が作ってくれたと思っている。
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何かの勉強をしたり、答えを求めて考えたり、思考をまとめる作業というのは一人で孤独にやるものである。教養とは考える楽しさの種子であり、本能的に求めるものではないだろうか。
子供はお腹の中にいる時から、外界の音を情報として認識していると言われるが、これも一つの知識欲なのだろう。仮にそれが正しいとするなら、知ること、考えることは本能レベルで楽しい行為と言っていいだろう。教養とは、人生における一人の時間を最高に楽しく過ごすためのスキルと思っている。
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